三百十話 地図の書き換え
本年も当作品を、よろしくお願いいたします。
仕事に忙殺されている間に季節が進み、もうそろそろ冬に差し掛かるという時期になっていた。
「ふいぃ~。これで急ぎの作業は終わり。あとはノンビリできそうだ」
俺が椅子に座りながら背伸びをすると、作業を手伝ってくれていたホネスとジヴェルデに笑われてしまった。
「こうも忙しかったのは、主にセンパイの所為ですよ」
「戦勝は喜ばしいため、あまり言いたくはありませんけれど。これからも国土拡大を狙うのでしたら、もう少し人材が必要ですわよ」
二人の苦言に、俺は肩をすくめる。
「俺としては、ノネッテ国の領土なんて増えなくたっていいんだけどね」
「そう愚痴を言っていられませんよ、センパイ」
ホネスが差し出してきたのは、小国郡の昨今の状勢だ。
ホネスの手にあるものと同じものが、いま俺の手元にもある。
「小国の戦国時代が終焉に突入している――って報告でしょ。読んであるよ」
俺は気が乗りしないまま、その報告書に再び目を落とす。
報告書には、小国郡のいままでの事柄と、これからの予想が書かれている。
戦国時代の荒波に、小国の多くは疲弊していった。
敵国に対抗するため軍事費と兵士を集めたため、民は働き手を喪失したうえに重税で食料を奪われて飢えていく。
戦争では、有能な指揮官や勇敢な兵士が先に死んでいくため、生きぎたない無能者のみで構成された軍隊へと変わっていく。
国王は臣下からの下克上に怯えて法による締め付けを強化し、臣下は王に信用されていないことを知って失望感を募らせていく。
やがて、王が自分勝手に行動しようとすれば圧制となり、臣下が取って代わろうと動けば下克上になり、民が重税による不満で爆発すれば一揆となる。
そうした人々の暮らしぶりや国政にて、負の連鎖が負の連鎖を産み、経済と治安が悪化していった結果、小国郡全体が疲弊してしまったわけだった。
そして戦いに疲れた小国たちは、一つの流れを生み出す。
すなわち、身近にある優秀な国に国体を預けてしまうという流れをだ。
多数の小国が『傘下に入りたい』と、騎士国に要望することが、その流れの一例だな。
これと同じことが、いま『第三の大国になりえる候補国』にも起こり始めていた。
つまり、アナビエ国、ハティムティ国、キレッチャ国、そしてノネッテ国に、周囲の小国が降伏しにきているわけだ。
降伏してきた周辺の小国に対し、候補国の各国の対応はまちまちだった。
アナビエ国は直ぐに降伏した者たちを受け入れることで、東西へと国土を伸ばしていっている。
ハティムティ国は降伏を受け入れたものの、魔物の食料を寄こせと、降伏してきた国を強請っている。
キレッチャ国は小国たちの降伏を受け入れず、むしろ武器や防具を売りつけて、消えかけている戦国の気運を盛り上げようとしている。
ノネッテ国も、降伏しに来た国を受け入れれば、それだけで国土拡大が狙えた。
しかし俺は、父のチョレックス王から許可を得たうえで、それらの国がノネッテ国の傘下に入ってくることを拒否したうえで、それらの国々を無視することにした
新たに手にした土地の整備に集中したいからという理由もあったけど、いま焦って受け入れたところで、意味がないと思ったからだ。
なにせ小国郡の状勢は、遅かれ早かれ、ノネッテ国を含む『第三の大国になりえる候補国』同士での戦争になる。
そして『第三の大国決定戦』に勝利した国が、戦いに敗れた他の国の国土を吸収し、第三の大国へと変わることとなる。
そうした未来の展望があるため、いま降伏してきた小国を焦って取り込む必要性は薄いと、俺は判断したわけだ。
「さてさて、このままの情勢が続いたとして、将来的に大陸内の勢力図がどうなるか、地図を書いてみるとしようかな――ホネスとジヴェルデも、土の小国がどの国につきそうか、意見を聞かせて」
「分かりました。そうですね。この国は――」
「承りましてよ。では、こちらの国についてですけれど――」
統治作業が一段落ついたこともあり、俺たちは大陸中央部から南部が書かれた地図を広げ、どの国がどの大国候補国の下に行くかを語り合ったのだった。
新たな地図です。
https://27988.mitemin.net/i518865/
今話でミリモスたちが書いた、未来の大陸における、主要国の図です。
以前の地図と比べて、騎士国だけでなく、帝国の領土も増えています。
少し大きな地図ですので、適宜、拡大や縮小を行ってみてください。