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二十八話 量産開始



 刃が鋭くなる魔導を刻んだ青銅武器の量産を開始することが、チョレックス王の許可の下で正式に決まった。

 想定の敵はロッチャ国。鉄製の鎧の防御力を持ち、鋼鉄の武器の攻撃力を持つ強敵だ。

 そんな相手に、試作で作ったような短剣のでは刃が小さすぎて、対抗する力としては心許ない。

 ではどんな武器を作るべきかで、俺を交えて研究部で話し合いがもたれることになった。


「あったら便利なのは弓矢だけど、矢に魔導を施すのは、研究不足で無理だしなぁ」

「そうなると槍でしょう。ロッチャ国の連中は鉄の鎧に自身を持ってますからね。槍なんて効かないって考えているところを、遠間からグサリですよ」

「そう出来たらいいが、帝国製の槍の柄に刻まれている魔導の経路について、調査はまだ終わってないんだぞ。どうやって刃に魔導を発現させるつもりだ」

「刃から柄までを一括で成形すりゃ――って、重すぎるよな」

「帝国の剣を模した長剣がいいのでは。距離を取れるし、短剣で使った技術を流用すれば柄を握れば魔導を発動できる」

「刃が長いと、それだけ武器に吸われる魔力の量が増える。使うのは魔法使いじゃなくて兵士だ。長時間の使用には耐えられないぞ」

「では斧だな。柄から頭まで総青銅製の長柄の斧だ。これなら問題はあるまい」

「そんな斧を使うんなら、魔導は必要ないでしょ。鉄の兜を被っていても、その質量で殴られれば昏倒確実だしよ」


 研究部の面々が次々とぶつける意見を聞きながら、俺は心の中で要点を纏めていた。

 まず、総青銅製の長柄の武器は、そのまま使うだけで鉄の鎧相手にも成果が期待できるので却下。次に、刃渡りが長い武器も魔力消費の面で却下。しかし、少しでも間合いを取って戦える武器が良い。

 中々に面倒な条件だな。

 ではどんな武器が良いだろうと頭を悩ませて、議論の内容を書き付けている書記が持っている羽根ペンが目に入った。

 ペンのように先だけ刃を付けた剣を作れば、魔導による魔力消費は必要最低限で済むはずだ。


「ねえ、ちょっと考えを聞いて欲しいんだけど――」


 俺が思い付きを語ると、全員がなるほどと納得してくれた。


「ああー、そういう細長い杭みたいな武器、あったなあ」

「あんまり有名じゃないですよね。刺突剣でしたっけ?」

「そりゃあ長剣のように刃が頭から柄の部分まであるやつだろ。先っぽにしか刃がないのは、鎧通しじゃなかったか?」

「それも刃が横についていた気が。助からない兵士に止めを刺す、慈悲の剣だったような?」


 俺が提案した武器に似たものはあっても、あまり知られていないのか、武器に関しては物知りな研究部の面々でも名前があやふやだ。


「名前がわからないなら形状から、ペンの剣でいいんじゃない?」

「いやいや、ミリモス王子。ペンっていうより、串の形でしょうよ」

「なるほど【串剣】とは、らしい名前だな」


 研究部の面々が串剣に賛同したので、俺がアイデアを出した武器の名前は串剣になってしまった。

 なんだか格好悪いなあ。



 串剣は試作を経て、量産が開始された。

 作り方は砂で串剣の型を作り、そこに火の魔法で溶かした青銅を流し入れる方法だ。

 これなら、なかごの部分の魔導経路の模様も簡単に写せるので、楽に製造できる。

 問題は一点、細かい模様を完璧に写せるほど、鋳造技術が発達していないところだ。


「五本作って、良くて二本、悪いとゼロか……」


 冷えて固まった串剣を試してみているが、やはり失敗作が多い。

 いいときで四割とは、ちょっと失敗しすぎな気がするけど、研究部や製造部の面々の意見は違った。


「作り始めはこんなものですよ。むしろ四割も出来るときがあるなんて、作りやすい部類ですよ」

「繰り返し試していけば、上手くいく確率は上がってきます。そのうち二本に一本、三本に二本って、出来るようになりますよ」

「そういうものなの?」


 個人的には、失敗作があるというのは落ち着かない事実なんだけど、ノネッテ国の技術力から考えると、完璧を求めるのは潔癖過ぎるんだろう。


「けど砂型じゃなくて鉄型の方が、より詳細な模様を鋳出いだすことが出来そうなんだけどなぁ」

「鉄の鋳型を作る技術、ノネッテ国にはありませんよ。それほどの腕前があれば、普通に鉄の武器を作りますし」


 それもそうか。

 まあ鋼鉄と比べると、青銅はリサイクルがしやすい。失敗を気にせずに試行回数を増やすことで、串剣の数を揃えるようにしよう。



 製造は任せることにして、俺は串剣の使いやすさを試してみることにした。

 串剣の見た目は、一メートルほどの長さの青銅の棒の先端を鋭く尖らせて持ち手を付けたものなので、バーベキューの串のように見えなくもない。

 俺が柄を握ると、体の魔力が少量ずつ剣に流れ始め、串剣の先端にほんのりとした魔法の発光現象が生まれた。


「効果はちゃんと出ているようだね」


 俺の隣で同じように試しているアレクテムも、先端に点った光をまじまじと見ている。


「日の下で使うにはいいでしょうが、夜襲を仕掛ける際には問題ですぞ」

「夜襲なら一撃離脱や、一撃目が済んだら後は混戦になるんだから、剣の先に布で覆いをしておけばいいんだよ。突き刺す際に、巻いた布ごと相手を貫けばいいんだし。というか、柄を放して剣身の方を握れば、発光は止められるか」

「刃が先端にしかないことで、剣身に触れることができるとは、欠陥の中の利点といったところですな」


 さて、串剣の魔導の発動は確認できた。続いて、威力の評価だ。

 用意されたのは、切り倒されたばかりの木を、手の幅ほどの厚みに輪切りにした木材。

 元々硬い材質の木なのだけど、乾燥させる前ともなると、簡単には傷がつかない。それこそ、重たい斧を百回近く振って、ようやく切り倒せるほどに硬い。

 それこそ、鉄の装備を仮想して実験するには、ちょうどいい硬さというわけだ。


「この輪切りを一撃で貫くことができるのなら、ロッチャ国の鉄の盾や鎧ごと、敵を貫くことが出来るはずだ」

「では、まずワシが試してみましょうぞ」


 断面がアレクテムの方に向くようにして、丸太板が台に固定された。

 アレクテムは串剣の柄を両手で持ち、勢いよく標的に繰り出す。


「しえぃや!」


 アレクテムが突き出した串剣が当たり、すかんっと、木の板に矢が刺さったような音がした。

 攻撃の結果はというと、剣の先が丸太を奥まで貫いている。


「成功だね」


 喜ぶ俺とは裏腹に、アレクテムは串剣を引き抜きながら苦い顔だ。


「ミリモス様。この武器、威力は申し分ないのですが、扱い辛いですぞ」

「扱いにくいって、どういうこと?」

「刃が先端にしかないので、正確に真っ直ぐに突かねば、奥まで通せませんぞ」


 アレクテムは実際に試してみろと言ってきたので、俺は丸太板を串剣でついてみる。

 すると丸太板に先端が入った瞬間、串剣が手の中で暴れた。

 これは最後まで上手く突き刺さすことができなくて、標的を突き進む途中で入る角度がブレてしまったせいだ。

 これでも俺は、兵士と同じ訓練をして鍛えられてきた。剣の腕には多少なりとも自信がある。それでも、板を貫ききることはできなかった。


「これは、中々に技量が求められるね」

「そも、剣での突きは、熟練が求められる技ですからな。それでも普通の剣ならば、多少突き込む確度が甘くとも、横についた刃が切り裂いて肉の中に入ってくれるのですぞ」

「けど串剣は先端にしか刃がないから、使う人の技量次第では、満足に突き入らないこともあるってことか」


 どうしたものかと、串剣の姿を見ながら少し考えて、ふとした思いつきが出た。

 俺は再び丸太板の前に立つと、右手は柄を持ち、左手は剣身の中ほどを握る。そして槍を突き出す要領で、串剣の先を突き込んでみた。


「とやっ!」


 すると先ほどの失敗が嘘だったかのように、容易く板を最後まで貫けた。

 アレクテムはそれを見て、感心して頷いている。


「なるほど。槍での突き刺しは、剣の突きと比べて格段に容易いですからな。それこそ、農民兵に与える武器の定番が槍であるようにですな」

「これで突き刺すことは簡単になったね。問題は、間合いが狭くなることだけど」

「槍として作り直すとすると、槍先から石突まで総青銅製にするしかなく、重量が凄いことになりますぞ」

「前に研究部の人たちと話し合ったときに、重量的には剣の長さまでしか実用的じゃないってことになってたしね」


 串剣を板から引き抜き、再び剣として柄を握って突き込む。やっぱり入る確度がブレて、途中までしか突き入らなかった。


「これは練習して、慣れるしかないね」

「そうですな。幸い、技量が低くても短い槍として使う目処は立っておりますからな。夜襲を任せるほどに技量達者な者たちだけ、剣としての運用が出来るようにするだけでも、十二分に効果は期待できますぞ」

「そうだね。じゃあ量産された串剣は、できた端から剣の技量が高い人たちに回して、訓練してもらおう。技量が低い人たちは、槍のように使ってもらえばいいから、後回しってことで」

「そうなると、ミリモス様も後回しですな」

「仕方がない。まあ俺には帝国製の鋼鉄剣があるから、串剣は必要ないけどね」


 俺は持っていた串剣をアレクテムに手渡しながら、負け惜しみで、そう言うしかなかったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 動き的にはフェンシングに近い感じなのかな? 猪八戒の武器みたいなやつ(熊手みたいな)のも引き倒せるから良さげな気はする
[気になる点] > 試作で作ったような短剣のでは刃が小さすぎて 短剣では、でしょうか > 鉄の鎧に自身を持ってますからね 自信を持って、では > 多少突き込む確度が甘くとも > やっぱり入る確度が…
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