表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
348/497

三百七話 第三大国への候補国・後編

 さて、残る候補国は、騎士国に近い場所にあるという、アナビエ国。

 実は、ここの情報を手に入れるのに、大分苦労した。

 場所がノネッテ国から離れていることもあるけど、アナビエ国と交流がある人を見つけることが、中々できなかったからだ。


 方々手を尽くして情報収集を努めた結果、意外な人物から情報が舞い込んできた。

 その人物とは、ノネッテ国の第一王子にして、フェロニャ地域の領主、そして俺の長兄であるとこの、フッテーロだった。


「そういえば、フッテーロ兄上は領主になる前は、ノネッテ国の外交担当で他の国と交流を重ねていたんだったっけ」


 次期国王なのに現在はフェロニャ地域の領主になっているのだって、帝国からの圧力から交渉事で国土を守れる人物が、フッテーロ以外に居ないからだしね。


 そのフッテーロから、アナビエ国の情報が入ってきた。

 といっても、フッテーロがアナビエ国に直接訪れたわけではなく、外交の場でアナビエ国の大使と会話したことがあると注釈がついていた。


「『大使が語った自慢話だから、話半分に思っておくように』って、わざわざ書いてくれなくても」


 懇切丁寧な注意を見て、俺は思わず苦笑いしてしまった。

 きっとフッテーロにとって、俺は相も変わらず末弟王子のままなんだろうな。

 さてさて、有り難い忠告の後に、フッテーロはアナビエ国のことについて詳細を書いていた。


 アナビエ国は、事前情報の通りに、武芸に秀でた国であるという。

 この国には身分制度があり、それは大きく分けて二つ。

 『戦士』か『生産者』かだ。

 戦士は、その呼称の通りに戦える人を指し、同時に国の指導者的立場。

 それ故にアナビエ国を治める王族や貴族は、ある一定以上の力量を備えていないと、貴種として認めてもらえない。

 

 そうした力ある戦士が尊ばれている国であるため、軍も常備兵で固められていて、その兵士たちの力量も高い。

 それこそ、アナビエ国の兵士一人で、他の国の兵士五人を相手取れると、フッテーロと会話したアナビエ国の大使は自慢していたという。

 まあ、一対五で勝てるという部分は眉唾だけど、そう豪語したくなるほどにはアナビエ国の兵士は自慢にできる対象であることは間違いないだろう。


 さて逆に戦う力のない人たちが、生産者に分類される。

 その身分の人たちは、畑を耕して食料生産をしたり、鍛冶で武器や防具を生産したり、行政の雑務を任されたりで、国と戦士に貢献する。

 傍から見ると搾取される人たちのように感じるけど、アナビエ国の国民の感状は違うという。

 

『戦士が体を張ってくれるからこそ、我が国の民は外敵に怯えることなく平和に暮らせている。その戦士を支えるため、我ら生産者階級が作ったものを戦士に捧げる。そんな当たり前のことに、どうやったら不満を持てるのか』

『生産者階級の者がいるからこそ、我ら戦士たちは空腹や装備の心配をせずに戦いの技量を高めることができる。縁の下で支えてくれる生産者階級の者に感謝し、その貢献の礼として我が身を捨ててでも彼らを守ると誓って励むことが、アナビエ国の戦士の生きる道だ』


 という感じで、生産者と戦士の双方に不満がない円満な仲なのだという。


 もちろん、人間が千人いれば千通りの考えがあるのは、どこも同じ。

 アナビエ国の中でも、戦士のことを『搾取者』と忌み嫌う生産者がいたり、生産者を『無能者』と蔑む戦士が居ないわけではないらしい。

 しかし、その言葉を公言した者がいたら、その者が辿る道は一つ。

 つまり、言ったものが生産者なら戦士の訓練を、戦士なら生産者の作業を、実際に体験させてやるのだ。

 その結果、生産者は『これほどキツイ訓練を日夜こなすなんて無理だ』と、戦士は『地道な作業の連続である生産もまた戦いの一つなのだ』と悟り、不満が解消されるとか。

 なるほどな――感心しかけて、俺は頭を振る。


「って、話半分、話半分」


 フッテーロからの忠告を呟いて、本当に文面の通りであるとは思わないように意識する。


 そんなアナビエ国だけど、どうして第三の大国になりえる候補国かというと、ノネッテ国と似た経緯があるとフッテーロは書いている。

 なんでもアナビエ国は、『戦士』と『生産者』という特異な社会構造を持っていることから、周辺国に目の敵にされやすかったらしい。


 それはどういうことか。

 まず前提として、周辺国の王族貴族にとって、『貴種が民を身をはって守ることが当然』というアナビエ国の考えを、自分の国の民に伝播されたくなかった。

 なにせ彼の王族貴族にとって、民とは金を産むガチョウでしかなく、ガチョウが産んだ金で優雅に暮らすことこそが貴種の権利と考えていたからだ。

 だから、彼らはアナビエ国を滅ぼすことで、彼らにとって異端である考えを抹殺しようとしたわけだ。


 ところがどっこい、アナビエ国の軍隊は強かった。

 襲ってきた敵国の軍勢を跳ね除け、押し返し、そして逆襲して敵国の国土を征服してしまう。

 そうして国が少し大きくなると、また次の敵国が襲ってきたので、逆襲で征服する。

 次の敵が現れ、倒し、征服し、次の敵をまた征服する。

 そうして年月が続き、度重なる侵攻を受け続け、アナビエ国の王族貴族に鬱憤が溜まり、やがてキレた。

 

『我らの考えに同調できない国が周辺にあると、我が国の民が安心して暮らせない。この際、それらの国を一気に攻め滅ぼすことで、平和を樹立する!』 


 国王の宣言の下、アナビエ国は全軍を動かし、周辺国を武力で攻め立てた。

 同時に、アナビエ国の王族貴族が暗躍して、まだ戦争状態になってなかった場所の周辺国の国民に『貴種は国民を守ってこそ生きている価値がある』という思想を植え付けていった。

 その結果、アナビエ国の精強さに怯えた敵兵が『奴らの相手は貴族どもがすればいい!』と大量に逃げだし、周辺国の中で重税を課していた国では民が『圧政には立ち向かうべき』と一揆を起こした。

 大量の脱走兵による軍部の崩壊と、一揆による治安の悪化が合わさり、国の防衛力は低下の一途をたどっていく。

 その後に押し寄せてきたアナビエ国の軍隊によって、全ての周辺国が制圧される結末となった。


 そんな事情で国土を広げたことで、アナビエ国は小国が群れる大陸南部の地域の中では、大きな国となったわけだ。


「敵が攻めてきたから、それを返り討ちにして国土を広げた国。なるほど、ノネッテ国と事情は似ているね」


 俺はフッテーロの手紙を机の上に置き、椅子に背を預けてから目を閉じた。



 海洋金満商のキレッチャ国。魔物使いのハティムティ国。そして戦士国家のアナビエ国。

 どれもこれも一筋縄では行かなそうな、警戒すべき国だ。


「その三国を押さえて、ノネッテ国が第三の大国にならないといけないとはね」


 出来なかったら、ノネッテ国は帝国に飲み込まれる未来が待っている。

 まあ俺個人としては、別にノネッテ国が帝国の一部になろうと、割とどうでもいいって思ったりするんだけど――


「――守るべきものが増えちゃったから、そうも言っていられないよなぁ」


 俺の妻たちや子供たちはもとより、知り合った商人や職人や研究者たち、そして顔を知っているノネッテ国の民。

 彼ら彼女らが、ノネッテ国が帝国の一部となったことで不利益を被る可能性があるからには、俺は自分が出来得る限界まで頑張って『ノネッテ国を第三の大国にする』というミッションをこなすべきだと、自分の心に誓い直したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版1巻 令和元年10月10日から発売してます! 書籍版2巻 令和二年5月10日に発売予定?
61kXe6%2BEeDL._SX336_BO1,204,203,200_.jp 20191010-milimos-cover-obi-none.jpg
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] >傍から見ると搾取される人たちのように感じるけど、アナビエ国の国民の感状は違うという。 感状→感情
[一言] 主人公の国も戦争相手の国も全然人材がいなくて、300話以上やってキャラが増えていかないのは戦記物として逆にすごいと思う。
[良い点] おもしろい [気になる点] 戦士と生産者の身分制度が上手く作用してるようだけど急速に拡大したら釣り合いが取れなくなってめちゃくちゃな内戦になる可能性もありそう [一言] 次回更新も楽しみに…
2020/12/25 11:50 バシレウス
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ