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三百五話 帝国からの情報

 新たに手に入れた土地に対しての政策を、あれやこれやと立てながら、日々の時間が過ぎていく。

 そんなある日、帝国からの使いがやってくると前触れがあった。

 誰が来るかといえば、もちろん一等執政官エゼクティボ・フンセロイアだ。


「ミリモス王子。今回の戦での大勝、お祝い申し上げます」


 再開して開口一番に、フンセロイアが言ってきた。

 社交辞令かと思ったが、フンセロイアの表情を伺うと、偽りない喜色が浮かんでいることが見て取れた。


「ノネッテ国が活躍したことで、フンセロイア殿の帝国内での評判も上がったわけですね」

「おや、見抜かれてしまいましたか。いやはや、表情を引き締め直さないと」


 それから少し雑談を交えて、どうしてフンセロイアが嬉しそうなのか理解した。


「一等執政官の中でも、上位に位置付けて貰えるようになったんですね」

「ええ。今までは『ヒラ』の一等執政官でしたが、ミリモス王子の活躍のお陰もあり、まとめ役のような立場になれまして。権利と給料も、ぐっと良くなりましたよ」


 一等執政官は、帝国でエリートだ。

 そのまとめ役ともなれば、帝王とまではいかないまでも、国の重鎮と同じぐらいの権力はあるに違いない。


「偉くなったのなら、フンセロイア殿がこうして足を運んでくるのは、今日で最後ということですか?」

「いえいえ。まとめ役といっても、一等執政官の仕事はちゃんとあり、方々へ足を運ぶのもその仕事の一環ですからね。これからも度々、ミリモス王子とは顔を会わせることになりますね」


 どうやら、まとめ役がオフィスの椅子にふんぞり返っていられるほど、帝国の仕事は易しくないらしい。


「まとめ役になって仕事が増えた様子のフンセロイア殿を、長々と雑談に付き合わせるのは悪いですね。では、今回の用向きをお尋ねします」


 俺が話題の変更を告げると、フンセロイアは表情をにこやかなものに変えた。


「ミリモス王子に、吉報を届けに来たのですよ」

「吉報? 帝国がわざわざ知らせてくれるような情報ですか?」


 思い当たる節がない。

 俺の困惑が分かるのか、フンセロイアの笑顔が深まった。


「その吉報とは、ノネッテ国の領土拡大に、非常に役立つ情報なのです」


 フンセロイアの言葉を聞いて、俺は内心で溜息を吐く。

 領土拡大ということは、戦争で手に入れろということだ。

 つまり吉報は吉報でも、それは帝国やフンセロイアにとって良い事であり、ノネッテ国にとって良い事とは言い難い。


「ノネッテ国は、つい先日戦争を終えたばかりですよ。防衛戦ならいざ知らず、侵略戦を仕掛けるには、軍事費も物資も心許ないのですけど?」

「ええ、ええ、分かっていますとも。ですから、吉報なのですよ」


 言っている意味がわからずにいると、フンセロイアは詳しく説明を始めた。


「ノネッテ国は戦争を終え、次の戦争のためには、国土の安定や物資の集積などで、来年の収穫時期以降までまともに動けないでしょう?」

「万全の準備を整えるためには、最低でもそれぐらいの時間は、確かに要ります」

「そうでしょう。ですから、ノネッテ国が動けない間、その代わりに小国を多数侵略する者がいると、お得ではありませんか?」


 なにがお得なのかと考えて、間を置かずにフンセロイアが言いたいことに気付く。


「小国同士を戦い合わせて土地を併呑させることで、小国の数を減らす。そうして減った小国を、ノネッテ国が打ち破って土地を手に入れる。という算段ですか?」

「その通り。ちまちまと小さいものを潰すよりも、肥え太らせてから叩いたほうが効率的です」

「フンセロイア殿がそう提案してくるってことは、小国郡の中には、帝国の息がかかった国があるわけですね?」

「帝国がことさらに贔屓にしている小国は、ノネッテ国だけですよ。ただ、ちょこっと武器や食料を渡した小国が、他にないとは言い切れません」


 不思議な言いまわしだけど、恐らく、フンセロイア自身は他の小国には関わっていないと言いたいんだろうな。


「そうした裏工作ができるのなら、その小国をノネッテ国の傘下に入るよう言ってくれてもいいような気もする――けど、そうはいかないんだろうね」

「ええ。帝国としては、別にノネッテ国が第三の大国でなくても構いませんので」


 帝国が必要なのは、大陸を三分できる『第三の大国の出現』だ。

 その第三の大国が、ノネッテ国であろうと、他の小国が成りあがった結果であろうと、大して意味はないんだろうな。

 フンセロイアがノネッテ国に目をかけているのだって、いまのところノネッテ国が最有力だからだ。

 ノネッテ国の勢いに陰りが見えたら、遠慮なく切り捨てに来るに違いない。


「吉報ついでに、どんな小国に帝国が手を貸しているか、情報を教えてくれますよね?」

「構いませんよ。加えて、どの国に目をかけているかも、教えて差し上げましょう」


 そう前置きしてからフンセロイアが語ったことは、要約するとこういうことだった。


 ノネッテ国付近にある小国には、パワーバランスを傾ける程度の援助を行って、戦争を促している。それらの小国の力は、ノネッテ国の軍備に劣っているため、楽に攻め落とせるだろうこと。

 そしてノネッテ国以外の『第三の大国』になり得そうな国は、他に二つ。

 片方は騎士国領に近い、大陸西側にある国――アナビエ国。武芸を重視した国策により、騎士国ほどではないにせよ、個々人の兵の力量が高く、戦争が強い。

 もう片方は、大陸の南に位置する国――キレッチャ国。海運と運河に長じた船の国で、帝国との取引も多く、小国とは言えない規模の国土がある。


「――とまあ、このぐらいでしょうかね」


 と締めくくりかけて、フンセロイアは「ああっ」と思い出したといったような声を上げた。


「もう一つ、帝国とは関りがないですが、面白い小国があることを思い出しました。ハティムティ国という名前で、熱帯雨林地域にあります」


 国の位置は、アナビエ国とキレッチャ国の中間あたり。

 ノネッテ国の国土で指標するなら、グラバ地域から南西へ向かった先の場所だ。


「面白いとは、どういった点がですか?」

「彼の国は、魔導帝国とは違った意味で、魔法に特化しているんですよ」

「そんな国が?」


 帝国が注目するぐらい魔法に長じた国であるなら、距離が離れていようと、噂を耳にしても良い相手だ。

 それにも関わらず、いまのいままで『ハティムティ国』なんて名前は、聞いてことがなかった。

 俺が疑問に思っていると、フンセロイアがこちらの勘違いを正すように言ってくる。


「少し言葉に語弊がありましたね。彼の国の魔法は、我が魔導帝国とは違い、技術的なものではないのですよ」

「魔法に特化していながら、技術はない。矛盾していませんか?」

「ところがそうでもないのですよ。なにせ彼の国の軍では、魔物を尖兵として採用しているのですから」


 この世界でいう魔物とは、魔法を使う野生動物のこと。

 詳しい例をだすなら、ノネッテ本国にいた角から魔法を放つ鹿に似た生き物が魔物の一種だった。

 

 俺がロッチャ地域やルーナッド地域の領主になってから、あまり魔物は見ていないが、それにはちゃんとした理由がある。

 ロッチャ地域は鉱山開発によって、ルーナッド地域やその周辺は平野部を広大な農地として開発したことで、魔物の生活圏が消え失せてしまっていたから。

 つまり、ノネッテ本国のような自然の景色が濃い場所には、魔物は普通にいる。


 ともあれ、ハティムティ国は魔法を放つ動物を、戦争に利用しているというわけだ。


「なるほど。魔物に魔法を使わせるから、帝国とは違った方向で魔法に特化していると評価しているわけか」

「彼の国では魔物を掛け合わせ、さらに強い魔法を使える個体を生み出そうとしているとか。さしずめ『魔物使いの国』といった塩梅で、とても興味深いのですよ」


 フンセロイアの予想では、アナビエ国、キレッチャ国、そしてハティムティ国が勢力を伸ばしてくるとのこと。

 それは裏を返せば、遠くない未来において、その三国とノネッテ国が『第三の大国』になるために衝突することは避けられないという意味でもあった。

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[一言] >帝国が必要なのは、大陸を三分できる『第三の大国の出現』だ。 帝国に必要なのは、大陸を三分できる『第三の大国の出現』だ。 OR 帝国が必要とするのは、大陸を三分できる『第三の大国の出現』だ…
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