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二百九十六話 カルペルタル国との前線へ

 俺は、人馬一体の神聖術を使い、一騎駆けでプネラ国から元フラグリ国の土地へと移動した。

 途中――元テピルツ国の領土内で、騎士国からの監視役である例の騎士が追い付いてきた。


「ミリモス王子。どこに行かれるつもりか!?」

「どこって、カルペルタル国が侵攻してきたから、迎え撃つために移動しているんだよ!」


 駆ける馬によって巻き上がる風に負けないよう、お互いに大声での会話だ。


「カルペルタル国が、貴国へ侵攻を!?」


 騎士の驚いた様子を見るに、どうやらカルペルタル国の蛮行は、彼にとっても寝耳に水のようだな。


「ノネッテ国が占領した、元フラグリ国の領土に、北と西から侵攻しているようですよ!」

「なんと! それが本当ならば、由々しき事態――ではあるが……」


 途中からトーンダウンした様子に、俺は騎士を伺う。


「なにか問題でも!?」

「……あらかじめ申し伝えておくとする。我が任務は、ノネッテ国の行いが正しいかの見極めであり、カルペルタル国の正しさについて確認することではない」


 当たり前の事を表明してきたことに、俺は騎士の真意が掴めなかった。

 そんな俺の様子が伝わったのだろう、騎士はかみ砕いた説明を改めて言ってくれた。


「要するに、カルペルタル国が悪しき行いをしようと、その結果でノネッテ国が窮地に陥ろうと、手は出せないということなのだ」


 そう心苦しそうに言ってくる。

 しかし俺としては、騎士国の騎士に手伝ってもらうつもりは、最初っからない。


「気にしないでいいよ。貴方はあくまで、騎士国からノネッテ国にやってきた、お客さんだ。お客さんに、戦争の手伝いをしろだなんて、恥知らずな要求はしませんから」


 俺の返答に、騎士は安堵と苦悩が半々に混ざった複雑な表情を浮かべていた。

 その苦悩の分の言い訳じゃないだろうけど、一つ情報を寄こしてくれた。


「カルペルタル国の侵攻が本当のことならば、彼の国を『審判役』として認めた騎士が責任をもって、必ず処断する」


 交戦権の放棄を騎士国に誓うことを条件になることができる、戦争における審判役。

 その誓いを、カルペルタル国が破った。

 誓いを受け、それを認めた騎士国の側としては、顔に泥を塗られた形になる。

 その汚辱をすすぐため、騎士国の騎士が動くのは道理に合う。

 しかし騎士国の参戦を願う気は、俺にはない。

 騎士国が動くのなら、早めにカルペルタル国を撃破しないといけないな。

 そう俺は方針を決めて、馬をより早く駆けさせた。



 元フラグリ国領土。その北方地域。

 俺はようやくノネッテ国の軍隊の野営地を発見し、その陣地へと入り込んだ。

 突然現れた俺に、兵士たちが警戒態勢に入る。

 しかし馬に乗る俺の姿を見て、慌てて警戒を解いた。


「ミリモス王子! どうしてここに!?」

「カルペルタル国と戦争になると聞いて、戻ってきたんだ。部隊長たちは?」

「あちらにある、大天幕の中にいらっしゃいます!」


 俺は馬を預け、兵が示した天幕の中へ。俺の後ろに、騎士国の騎士もついてきている。


「状況は?」


 天幕に入りながら尋ねると、部隊長たちは一様に驚いた顔をしてから、安堵の息を吐いた。


「ミリモス王子。来てくれたのですね」

「貴方がいれば、この状況でも助かる」

「そういう話は要らないから、状況の情報は?」


 俺が改めて尋ねると、部隊長たちは手書きの大地図を広げ、指揮棒と複数の駒を用いながらの説明に入ってくれた。


「我が軍は、手勢を二つに分けました。一つは我らがいるこの場所へ。もう一つは『助け合いの翼』の連合軍が襲来しつつあるという北西側にです」

「この度の戦の主導は、カルペルタル国にあることは間違いないと考えており、本来ならば我らの手勢を多く確保したかったのですが……」


 以前に俺が考えたように、部隊長たちもカルペルタル国を優先的に打つべきだし、戦力の分散を危惧もしていたようだ。

 けど前線力でカルペルタル国に当たるべき、と考えた俺とは結果が違った。

 部隊長たちは『助け合いの翼』連合軍への備えも必要と判断し、最低限の人数を西に置こうと考えたらしい。


「そう考えていたのに、軍は半分に分けているけど?」

「彼の連合軍の数が予想以上に多いようで、最低限が我が軍の半数だったのです」

「正確に申せば、定石に則れば半数以上を連合軍の備えに持ってかれる結論となったので、半数で抑えたのであります」

「そんなに、連合軍は多いっていうの?」

「なにぶん詳しい数まで把握できてはいませんが、我が軍のもともとの数の三倍の人数が連合軍にいると」


 その話を聞いて、俺は大いに疑った。


「連合軍とはいえ、所詮は寄せ合い所帯だ。連合に加盟した国の国土を全部足しても、ノネッテ国の総領土に及ばないはず。ということは、俺たち以上の兵士の数を集めることは、無理があると思うのだけど?」


 俺が率直な意見を告げると、部隊長たちは苦々しい顔つきになる。


「確かに虚報の可能性はありました。しかし確実な情報がないのに、そう相手を侮っていいものかどうか」

「楽観した結果、痛い目を見ないとも限りませんので」


 なにをそんなに弱腰になっているのか。

 俺はそう呆れそうになり、直前で思い直した。


 俺の指揮する軍にいる兵士たちは、新兵が多くいる。

 その新兵たちの出身地は、ペイデン、アコフォーニャ、ルーナッド、フォンステ、サグナブロと、二年前に新たな領土とした土地。

 つまり、この兵たちはノネッテ国が『聖約の御旗』を打ち倒した光景が骨身に染みているわけだ。

 そうして戦争の恐ろしさを知ったことが原因で、敵を慎重に計らざるを得なくなってしまったんだろう。


 いわば、俺が原因とも言えるため、部隊長たちを問い詰めることは止めにした。


「連合軍の数は分かった。カルペルタル国の方は?」

「そちらは、現在の我らより、少し多い程度なようで」

「あまり数で優勢がとれていないためか、連合軍が侵出してくるのを待っているかのように、あまり動きはありません」


 カルペルタル国の思惑としては、こちらに常時二正面戦線の構築を迫る気のようだ。


「しかし、そう悠長に構えていいのかな」


 俺が思わず独り言を呟くと、部隊長たちが訝しんだ目を向けてきた。

 そこで俺は、俺の背後で成り行きをみている騎士国の騎士を示す。


「彼から、カルペルタル国の行動は騎士国の面子に泥を塗るような行いである、と話を聞いたんだよ」


 俺の説明を聞いて、部隊長たちの表情に安堵が浮かんだ。

 それも並みの安心ではない。これで問題は解決されたとばかりの、悩みが皆無になったかのような、全力の安堵顔だった。


「騎士国が動いてくれるなら、これで――」


 安堵感から口を滑らせた部隊長を、俺は睨みつけた。


「これは俺たちとカルペルタル国との戦いだぞ! 騎士国は第三者だ! それを頼ろうとするな!」


 俺の一喝に、部隊長たちは安堵で緩ませていた顔を引き締め直す。

 しかし装った表情の内側から、なぜ騎士国に頼ってはいけないのか、という疑問がにじみ出ていた。


「勘違いしているようだから教えておくが、騎士国が動いたとして、それは面子に泥を塗ってくれたカルペルタル国を粛正するためだ。決して、俺たちを助けるためじゃない。俺たちは俺たちの戦いをしなければならないんだ。腑抜けた調子で戦ったら、あっさり死ぬぞ」


 そんな俺の主張を、俺の後ろにいる騎士国の騎士が補強してくれた。


「ミリモス王子の言は正しい。今回の件、我ら神聖騎士国の戦力がカルペルタル国の戦力を打倒することはあれど、ノネッテ国の兵たちを助けたりはしない。そも貴国は小国より強い力を持っているのだから」


 騎士の言葉について、部隊長たちは上手く飲み込めない様子で困惑の表情だ。

 そこで俺は、かみ砕いて説明することにした。


「俺たちには、カルペルタル国を打倒する力がある。それにも関わらず騎士国をあてにするなんて恥を知れ、ってことだよ」

「いや、ミリモス王子。そこまで強く言う気はないのだが」


 騎士が弁明を述べたが、否定はしなかった。

 その事実を受けて、ようやく部隊長たちは、自分たちが行った主張が『恥知らずだった』と理解した。


「そうだよな。他人任せはダメだよな」

「他者をあてにするような気構えだったから、オレたちの国は滅んじまったんだろうな……」


 知りたくなかった事実に直面して、部隊長たちが落ち込んでしまった。

 その士気が下がった様子を見て、俺は慌ててカルペルタル国と連合軍の情報の整理に話題を戻し、部隊長たちの気持ちの立て直しを図ったのだった。

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[気になる点] けど前線力でカルペルタル国に当たるべき、 全戦力
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