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閑話 ノネッテ国の動きに踊る


 カルペルタル国の王は、深い苦悩に沈んでいた。


 神聖騎士国から頂いた、騎士国の紋章入りの紙。それを用いて、ノネッテ国に戦争を止めるようにと伝えた。

 騎士国の後ろ盾を得た審判役からの申し伝えだ。

 どんな国であっても、従って然るべき。

 そのはずだった。


「どうして、ノネッテ国は戦いを止めないのだ。あの騎士国が恐ろしくはないのか……」


 大陸を、帝国と二分している騎士国。

 その威光を恐れていないように見えるノネッテ国の行動に、カルペルタル国の王は信じられない思いを抱く。

 それ以上に、不可解なことが一つ。


「騎士国の方から、直接審議するためノネッテ国に対する以後の手だしは不要、との書状が来たが……」


 祖の書状はつまり、騎士国が直接的にノネッテ国の戦争に介入するということ。

 そのことについて、カルペルタル国の王は安堵を覚えた。

 しかし同時に、カルペルタル国の王は焦りも感じていた。

 なぜなら、騎士国が直接確認するということは、カルペルタル国が審判した事柄を、騎士国は信じて居ないという証拠でもあるからだ。

 そしてカルペルタル国の王は、自分が下したノネッテ国への審判について、自信が持てない。


「もし騎士国がノネッテ国の行動を問題ないと判断したら。先の審判に、こちらが私情を挟んだと見られるやも……」


 事実、カルペルタル国の王は私情を挟んでいた。

 急進するノネッテ国を掣肘する狙いで、戦争停止を命じる書状を送ったのだから。

 そしてノネッテ国の行動が問題ないと判断されれば、審判に私情を入れたことについて、騎士国が咎めてくるのではないかと恐怖した。


「騎士国の名を利用したと思われたら、国の破滅だ……」


 騎士国は『正しさ』を標榜する国。

 その名前を『悪』用されたと知れば、容赦のない仕置きが待っているに違いない。そう、カルペルタル国の王は考えた。

 そして騎士国から報復戦争を起こされたら、被害はカルペルタル国だけに納まらない可能性があった。


「我が国が加入している連合『助け合いの翼』。そこに参加する国々に、騎士国の目が向いてしまうやもしれない……」


 カルペルタル国を切っ掛けにして、『助け合いの翼』に参加する国々にまで、騎士国が戦争の手を伸ばすかもしれない。

 騎士国の国是を考えたら、あり得るとは言い難い考えではある。

 しかしカルペルタル国の王は、以前に参加していた小国連合『聖約の御旗』が、フォンステ国とルーナッド国の一騎討ちにノネッテ国が介入してから、一気に瓦解してしまったことを体験していた。

 だからこそ、騎士国がノネッテ国の使った手段を用いるかもしれないと、思わずにはいられなかった。

 そうしてカルペルタル国の王は、自分の想像の力によって、精神的に追い込まれてしまう。


「そうだ。あれもこれも、こちらが出した書状に従わなかった、ノネッテ国の所為なのだ」


 他者――ノネッテ国を悪者にすることで、精神的な平穏を保とうとする。

 そして、単なる言い訳だった言葉が、やがてカルペルタル国の王の中で真実になる。


「そうだ。ノネッテ国が悪いのだ。こうなれば……」


 ノネッテ国に戦争をしかけ、勝つしかないと判断した。


「そうとも。ノネッテ国は、連戦に次ぐ連戦を行っている。そしていまは、プネラ国を攻め、さらにはコル国に侵攻しようとしている。こちら側の戦力は手薄のはずだ!」


 カルペルタル国が独力で戦争に勝てば、ノネッテ国の軍隊は大したことがないと評判が広がるだろう。

 ノネッテ国の軍隊を侮る国がでてくれば、その国はノネッテ国に戦争を仕掛けるはず。

 そうなれば、一気に多方面から攻められて、ノネッテ国は対処に追われて疲弊するに決まっている。

 そこに『助け合いの翼』に加盟する国々が協力して兵力を出し合えば、ノネッテ国を本国まで落とすことが出来るに違いない。

 カルペルタル国の王は、そう皮算用を行った。


「我が国が生き延びるには、この手しかない!」


 カルペルタル国の王の暴走。

 しかし王であろうと、一人では戦争を起こせない。様々な家臣や家来の協力が必要となる。

 ここで本来なら、彼の国の家臣と家来が王を制止し、戦争を回避することが可能だった。

 しかし不幸なことに、家臣と家来も考えが同じだった。ノネッテ国に出した書状にカルペルタル国の私情が入っていたため、騎士国がそのことを咎めてくるだろうことを。


「騎士国が何かを言ってくる前に、ノネッテ国と一戦交えねばなりません」

「だが、こちらから戦争を起こすことはできんぞ。交戦権を放棄すると宣誓したからこそ、騎士国は審判役の後ろ盾になってくれたのだ」

「このまま黙っていようと、戦争を起こそうと、どのみち騎士国に目を付けられることになるのだ。ならば乾坤一擲の大博打を打てるほうを選ぶべきだ!」


 そうして、カルペルタル国の中枢を司る者たちの意見は、戦争へと傾いていったのだった。



_____________



 コル国の王は、こんなはずではなかったと悔いていた。


「エン国とピシ国とが盛大に戦争を始めたので、余剰戦力を用いて、混乱するプネラ国の領土を掠め取ろうとしたことが間違いだった」


 過日『ノネッテ国に攻め込まれてプネラ国が混乱している、その隙を狙って我が国の領土を広げるべき』と、重臣たちが熱心に求めてきた。

 エン国とピシ国と三つ巴の戦争だからとコル国の王は訴えを退けていたが、その二つの国が互いへ本格的な戦争に突入したことで、訴えを退けきれなくなった。

 コル国の王は仕方なく余剰戦力を集め、プネラ国の国土を武力で小さく切り取り、自国の領土とした。

 混乱する国の国土を掠め取ることは、歴史上、どこでも行われてきたこと。

 さして問題はない、はずだった。

 コル国がプネラ国の領土を切り取ってからすぐに、ノネッテ国が非難声明を出すまでは。


『我が国はプネラ国の王都を落とし、事実上、その国土を手中にしていた。その国土を奪い取ったコル国の行動は許しがたく、我が国に宣戦布告したものとみなす』


 その声明にコル国の王は慌てた。

 プネラ国の新王とノネッテ国の軍隊が戦っていることは耳にしていたものの、プネラ国の王都をノネッテ国が落としたことを知らなかったのだ。

 どういうことだとコル国の王が咎めたところ、重臣たちも困惑の表情を浮かべた。


『プネラ国の新王とノネッテ国は戦争中なのです。王都を落としたとて、プネラ国の国土はノネッテ国のものというのは……』


 道理が通らないと弁明する重臣。

 コル国の王も同じ意見だったが、しかしながら声明によってノネッテ国と戦争状態になってしまっていた。


「騎士国を後ろ盾に持つ審判役の国に、ノネッテ国との調停を頼もうと思ったが……」


 しかしノネッテ国は、審判役の国の一つであるカルペルタル国の書状に従わなかったと、そういう噂が聞こえている。

 カルペルタル国の言い分に従わないのなら、他の審判役の国でも同じこと。


「新たな噂で、騎士国の騎士がノネッテ国の軍に同行し、その行動が正しいかどうか監視しているとのことだが……」


 しかしあくまで、噂は噂。あてにはできない。そうコル国の王は考えていた。

 そしてコル国の王を悩ますのは、なにもノネッテ国だけではなかった。


「エン国とピシ国の戦争は、エン国の勝利で終わりかけている。このままでは我が国は、エン国とノネッテ国に攻められることになる」


 エン国は、ピシ国を含めた三つ巴の状況で、どうにか拮抗していた相手。

 ノネッテ国は、多数の小国を打ち倒して国土拡大を狙う、新進気鋭の相手。

 どちらか一方でも勝ち目が薄いのに、その二国を相手にするとなると、もう勝ち目がない。


「……降伏するのならば、占領統治が穏やかと聞く、ノネッテ国にだろうな」


 コル国の王は、国体の意地を諦めるべきと考える。

 しかし重臣たちに、その考えが受け入れられないことも分かっていた。


「八方塞がりとは、このことだな」


 この段に至っては、もうなるようにしかならないと、コル国の王は諦めた。

マンガBANG!にて連載中の漫画版『ミリモス・サーガ』

好評なようです。ありがとうございます!

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[一言] 中立義務違反やっちゃうと言い訳できんわな
[良い点] 楽しく読んでいます [一言] 更新ご苦労さまです
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