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二百九十二話 騎士巡回と移動

 騎士国から来た裁定者の騎士は、来たその日から、ノネッテ国が新たに支配した土地を回り始めた。

 俺は最初、偵察兵にその騎士を監視させていたのだけど、騎士が方々を回り始めたのを知って、監視を止めさせた。

 神聖術を使える騎士の移動速度は、足自慢の偵察兵であろうと敵わないからだ。


「放って置いて、いいんですか?」


 と、フラグリ国をアコフォーニャ地域に編入するための作業を手伝ってもらっている、文官から言われた。

 文官からすれば、騎士国の騎士が支配した土地の中を回っていることは、あまり嬉しくないんだろう。

 なにせ、支配地域の民から陳情を受ければ、騎士国の騎士は陳情が『正しい』かを調べ回るに違いない。

 その調べた中に、ノネッテ国側の振りになるような事実があれば、占領と編入の作業に支障をきたすことになる。

 そして作業が遅延すれば、それだけ文官の仕事も修正や作り直しなどで増えてしまう。

 だからこそ、文官は騎士国の騎士が自由に歩き回れる状況を、嬉しく思えないに違いなかった。


 しかしながら、俺に騎士国の騎士をどうにかする気はなかった。


「ウチの軍隊は規律を重んじているから、民に悪いことはさせてない。占領政策だって、むしろフラグリ国の本来のものよりも、各種の税率は下がったぐらいなんだ。探られて痛む腹はないんだから、放って置いていいんじゃない?」

「確かに、探られて困るようなことはないと思っていますが」

「それにさ。騎士国の騎士は『正しさ』の信奉者だよ。支配された地域の民の正しさと、支配者であるこちら側の正しさ。その両方を考えてくれるはずだ」

「……本当にそうでしょうか?」


 楽観的な俺とは裏腹に、文官の表情は冴えない。

 俺が不思議に思っていると、文官は溜息交じりに語る。


「彼の騎士の行動には、カルペルタル国の思惑も絡むのですよ。なにか、我らの占領政策を阻害する働きを行うかもしれないではないですか」

「心配のし過ぎだよ。騎士国の騎士は、騎士王の言葉と自分が抱く正しさ以外のものに、行動の指針を委ねたりしないって」

「それは、騎士国の騎士の弟子の立場からのお言葉ですか?」

「俺は弟子じゃない――って、ファミリスなら言いそうだから、騎士国の騎士を親しい友人として持つものの意見だと思っておいて」


 騎士国の騎士ファミリスと関わりが深い俺の言葉だからと、文官は納得してくれた。



 騎士の動きは気になるが、プネラ国を攻めていたドゥルバ将軍から吉報が届いた。

 プネラ国の新王を戦場で打ち取ったのだ。それも新王の死体が本物か、プネラ国の重鎮の者に確認させ、本物であるとの確証も得たとのこと。

 これでプネラ国もノネッテ国に編入することが決まった。

 俺は報告を受け、すぐさまドゥルバ将軍へコル国を攻めるように、指示を出した。

 度重なる連戦となるため、無理に攻めるのではなく、ゆっくりと無理なく行軍するようにと特筆しておくことも忘れない。


 これからはプネラ国の、ルーナッド地域への編入作業を行う必要がある。

 俺は、フラグリ国の編入作業の詰めを文官たちに任せ、プネラ国に仕事場を移すことにした。

 馬に乗り、一人でプネラ国へと向かっていると、各地を回っていると聞いていた騎士国の騎士がやってきた。


「居所を移すとのこと。同行してもよいですかな?」

「もちろん構いませんよ」


 俺が笑顔で言うと、騎士は俺の周囲を見回して眉を寄せた。


「お供の者は、おられないのか?」

「人馬一体の神聖術で駆け抜けると、他の者はついて来れないので、供回りは伴わないことにしているんですよ」

「一人だけの旅路、危険だとは思われないのか?」

「危険ではあるけれど、人馬一体の神聖術を掛けた馬の駆け足に追いつけるのは、同じ神聖術を使える人だけじゃありませんか?」

「それはその通り。ですが、それがどうしたと?」

「神聖術を使えるということは、騎士国の者ということになりますよね。騎士国の者が相手なら、普通の兵士が何人居たところで足止めにすらならない。それなら、初めからいない方が、無用に命を散らせる事態にはならなくて済むってものでしょう?」

「ふむ。確かに、筋の通った理屈でありましょう」


 そんな話をしながら、俺は人馬一体の神聖術を発動し、馬を駆けさせ始める。

 並走する騎士国の騎士も、神聖術を発動する。

 騎士は俺と並走を続けながら、各地を回って見たことについて語り始める。


「戦争に負けて支配された土地でありながらも、そこに住む民の顔色は悪くはなかった。これは稀有なことであると、評価しております」

「勝って手に入れた土地だ。そこに住む民は、すでに我が国の民。虐げる必要はないでしょう?」

「それは道理。それ故に、解せないものもある」

「どのあたりが?」

「本来、侵略という行為は、なにかを手に入れようとして起こすもの。それは食糧であったり、土地であったり、支配した民の奴隷化であったり、美姫の身であったり、様々。しかしながら、ミリモス王子の指揮する此度の戦いにおいて、ノネッテ国は支配する土地から何を得ようとしているのか、皆目見当がつかぬのです」


 そう言われてみれば、多大な戦費を払っているにも拘らず、ノネッテ国にとってうま味が薄いよな。

 現段階でもノネッテ国は、民に飢えも渇きもなく、経済も真っ当と満ち足りている。

 この騎士の言い分に則れば、他国を侵略する必要性が全くないといえる。

 まあ、もともと帝国から『大国となれ』と言われてやっている侵略戦争だからな。

 目的なんて、攻め落とした国を吸収する以外、特にないしね。


 とはいっても、帝国と敵対する騎士国の騎士に、そんな事情を馬鹿正直に話す必要はない。

 そこで俺は、表向きの理由のみを語ることにした。


「この戦争の発端は、フラグリ国の不当な行為を咎めるためのもの。本来ならフラグリ国一つで事が治まるはずだったんですよ。しかしフラグリ国へ、テピルツ国が援軍を出しました。その援軍を打ち倒し、逆侵攻する形でテピルツ国を倒しました。するとプネラ国で簒奪が起こり、なぜかこちらに対して戦線布告をしてきました――」

「そういった事情は把握している。ミリモス王子が言いたいのは、つまるところ、この戦いは不本意であるということか?」

「不本意、とまでは言い切れませんね。戦いに勝って支配地域を広げることは、ノネッテ国が大きくなること。国が大きく鳴れば、その分だけ民の生活は安定するものですから」


 支配地域が広範囲なら、ある地域で飢饉が起きても、他の地域から食料を融通できる。

 ある地域で鉄鋼業や魔導技術が盛んなのなら、他の地域にまで、その進んだ製品を行き渡らせることができる。

 つまり土地の広さというものは、それだけで優れた利点になるのだ。

 戦いなんて戦費もかかるし人死も出るしと、良い所はない。それでも支配地域を広げるため、勝てる戦いを逃す手はない。

 そういう俺の考えを、隣を走る騎士は見透かしたのか、少し呆れが混じっためを向けてきた。


「なるほど。噂に聞くような、聖人君子の仁君ではないようだ」

「俺は俗物ですよ。それこそ、領主なんてガラじゃないって思うようなね」

「……案外、領主という立場に拘らない気質だからこそ、統治の手腕が優しいのやもしれませんな」


 騎士の変な評価に、俺は首を傾げる。

 しかしそれ以降、主だった会話はなくなり、プネラ国の王都へと駆ける馬の足音だけが俺たちの間に響いた。

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[一言] 国が大きく鳴れば →なれば
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