二百八十九話 戦場は広がる
黒騎士との邂逅から数日後、プネラ国の王都がドゥルバ将軍の手によって陥落した。
俺が『早く落とせ』と手紙で書いたことで、最大速度で侵攻してくれたらしい。
もっともプネラ国の王都での戦いは、新王が率いる軍はフォンステ地域へ侵攻中だし、貴族たちの軍勢は事前に打ち倒していたこともあり、大した戦いにはならなかったようだ。
せいぜい王都を守ろうと立ち上がった民兵たちが相手で、ノネッテ国軍の重装歩兵の前にには成す術もなかったという。
これでプネラ国もノネッテ国の領土になった――と言えたら良かったんだけど、そうはいかなかった。
フォンステ地域に侵攻中のプネラ国の新王が、『この俺がいる場所こそが、プネラ国である!』と触れ回り、徹底抗戦の構えを崩さないからだ。
これはもう、その新王を殺さない限り、プネラ国をノネッテ国の領土に変えることは難しいな。
ドゥルバ将軍の軍とフォンステ地域の軍で挟み撃ちして、新王を倒してしまおうか。
そんなことを考えていると、伝令兵が新しい情報を携えてやってきた。
「ミリモス王子、大変です! コル国が、プネラ国に侵攻してきてます!」
「コル国が?」
コル国は、ピシ国とエン国と三つ巴の戦争に発展していた。
プネラ国にちょっかいを出せるほど、兵に余裕はないはずだろう。
「情報に間違いはないんだよね?」
「はい。どうやら、エン国とピシ国の戦争が激化したことで、逆にコル国に余裕が生まれたようでして」
「エン国とピシ国の備えは残しつつも、余剰の兵で火事場泥棒的にプネラ国の土地を取りに来たってことか」
プネラ国の状況は、王都と大半の土地をノネッテ国が手に入れているが、プネラ国の新王はフォンステ地域に近い場所で健在している。
つまるところ、コル国に近いプネラ国の土地は、庇護者のいない状況だ。そしてノネッテ国軍とプネラ国の軍勢は位置的に遠い。
この隙を見て、コル国はその庇護者のない土地を手に入れようと進出してきたに違いない。
エン国とピシ国と戦争中なのに、なかなか大胆な手を打つもんだと、感心してしまう。
「でも結局のところ、俺からすると、馬鹿な真似をしたなって感想になるかな」
ノネッテ国はプネラ国の王都を手にし、疑似的な支配者となっている。
だからこそ、こそこそと土地を掠め取ろうとする輩が出たのなら、相応の対価を頂かねばいけない。
「ひとまずプネラ国の新王の討伐は後回しだ。コル国への侵攻準備を始めるぞ」
「了解しました。ですが、新たな侵略戦争を起こすとなると、再び『審判』から忠告を受けそうですね」
「実際に文句を言ってきたら、その後に対応を考えればいいよ」
俺は伝令兵に、アコフォーニャ地域とルーナッド地域とドゥルバ将軍への手紙を書いて渡した。
アコフォーニャ地域とルーナッド地域には補給物資の運搬を、ドゥルバ将軍には新王をいったん放置してコル国に向かうように要請した。
伝令兵は直ぐに立ち去り、俺はコル国侵攻の次の展開を考える。
「こちらがコル国に手を出せば、ピシ国とエン国も反応する。はてさて、ノネッテ国と戦う道を選ぶのか、それとも降伏するのか。はたまた別の手を打ってくるのか」
俺は一通り予想を巡らせると、フラグリ国とテピルツ国の統治と編入作業の続きに入ったのだった。
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