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二百八十八話 部屋に黒騎士

 俺がカルペルタル国の通達を無視し、騎士国へ事情伺いの手紙を出して、十日が経過した。

 その間にも、ドゥルバ将軍はプネラ国を侵攻していて、プネラ国の貴族の軍隊を撃破して、プネラ国の王都へと迫っていた。

 ドゥルバ将軍からやってくる報告には、勇ましい戦果が書いてある。彼の軍隊にいる別の隊長からも報告書が来ていて、それはドゥルバ将軍のものとほぼ同一の内容だった。


「魔導鎧と全身鎧の重装歩兵を中心にしているから、大勝利は予想していた。でも、敵も意地を見せてきて、それなりの被害を受けちゃっているな」


 魔導鎧の兵も重装歩兵も、破壊力と防御力に長じた兵士たちだ。

 しかし、弱点もある。

 魔導鎧には稼働限界時間があり、重装歩兵は移動速度が遅い。

 だから長々と戦えないし、戦場が広いと移動に時間がかかって力を発揮しきれない。

 その弱点について、プネラ国は薄々気付いていたようで、何回か戦った後は一撃離脱戦法を一辺倒に使ってきていたらしい。だからこそ、ノネッテ国の重装歩兵たちに被害が出ていた。

 しかしながら、ドゥルバ将軍は重装歩兵の運用に長じた用兵家だ。弱点を突かれても、いなして逆襲する方法を熟知している。

 それこそ、俺がゲリラ戦法でロッチャ国の重装歩兵に大きな被害を与えた過去の事例を教訓に、ドゥルバ将軍は二の轍は踏まないとばかりに対応策を生み出してもいるほど。

 それゆえに、重装歩兵の被害状況は、予想範囲内で納まっているといえた。



 プネラ国の戦況がいい方向へ推移している事に、俺は満足だ。

 こうしてドゥルバ将軍は頑張ってくれている。

 俺はフラグリ国をアコフォーニャ地域へ、テピルツ国をルーナッド地域へ編入する作業を進めていくことにした。

 そんな日の夜、俺が宿舎に戻って自分の部屋に入ると、なにか違和感を覚えた。


「ん?」


 使用人がいるため、ベッドのシーツや掛布団の形が変わっていたり、小物家具の配置がズレていることは普通のことだ。

 そういう部分ではないところで、俺の勘に触れるモノがある気がする。

 警戒感から、俺の手は自然と腰の剣に伸びていく。

 そのとき、虚空から声が来た。


「ミリモス王子。話がしたい」


 そう声が聞こえた瞬間、部屋の角に人の姿が浮かび上がってきた。

 それは真っ黒な全身鎧を着た人物――騎士国の黒騎士だ。

 黒騎士を見て、俺は肩から力を抜き、剣にかけようとした手を下に下ろした。


「俺に用件があるなら、連絡をくれれば対応しましたよ?」

「我は騎士国の亡霊。どこにでもいて、どこにもいない存在。真正面に連絡することはない」

「そうだった。貴方たちは『亡霊さん』でしたね」


 俺が部屋にある椅子に腰をかけ、もう一つの椅子を示す。

 しかし黒騎士は、手振りで座ることを断ってきた。


「長居する気はない。必要な情報が得られたら、消える」

「情報、ですか?」

「そうだ。ミリモス王子に質問がある」


 黒騎士が部屋まできて尋ねたい質問について、俺が思い当たる点は一つしかなかった。


「カルペルタル国からの書状を無視して、プネラ国への侵攻を止めようとしていない理由についてですか?」

「そうだ――いや、正確に質問するのならば、神聖騎士国の印が入った書状を無視した理由についてだ」


 俺としては、俺と黒騎士が口にした質問は同じように思える。

 しかし黒騎士の口振りを聞くに、『騎士国の印』と明言した点を、問題視しているようだ。

 その違いについてよく分からないが、俺は嘘なく本心を語ることにした。


「そうですね。書状を無視した理由は、カルペルタル国の書状の内容が『正しい』か、疑問だったからですね」

「カルペルタル国が、神聖騎士国の印を悪用していると疑っていると?」

「そこまで重くは考えてませんよ。ただ、カルペルタル国が騎士国の後ろ盾を得て、戦争の審判役をやっていけれど、その判断基準に従っていいものか。そう疑問に思うというだけです」

「どういうことだ?」

「ノネッテ国の軍隊がプネラ国を攻めているのは、プネラ国から宣戦布告を受けた後に、逆襲で侵攻しているからです。ご存知ですよね」


 黒騎士が頷くのを待って、俺は続きを話す。


「今までの騎士国の主張なら、この軍事行動は『正しい』と判断されるべきものでしょう。しかしカルペルタル国から来た書状には、停戦しろと書いてありました」

「今までの神聖騎士国の主張と、カルペルタル国からの書状とには、解離がある。だから従えないと?」

「審判役の判断が疑わしいと感じたなら、その後ろ盾に疑問を投げかけることは、当然の行いですよね」

「騎士国の正式な判断が来るまで、軍事行動を止める気はないということだな」

「ノネッテ国とプネラ国は戦争をしているんです。不確かな理由で、下手に戦いを止めたりできません。間違った判断を下したら、ノネッテ国の兵士が死ぬことに繋がるんですから」


 俺が釈明を終えると、黒騎士は考え込むように腕組みする。

 そして数十秒後、納得はしていない様子で、部屋の窓際へと移動した。


「ミリモス王子とカルペルタル国の判断の、どちらが正しいかは、騎士王様が決定する。その報せを携えて、また来る」


 言葉を残し、黒騎士の姿が揺らめいて消えた。

 気配を消す神聖術を使って、俺に黒騎士が認識できないようにしたんだ。


「俺も神聖術の使い方は上手くなったと思っていたけど、騎士国の騎士を見れば、まだまだだと実感させられるな」


 ふぅっと息を吐きつつ、俺は一つの判断を黒騎士から得ていた。


「侵攻を止めろとは言われなかったんだ。黒騎士が騎士王の判断を持ってくる前に、プネラ国を支配してしまおう」


 俺はドゥルバ将軍に騎士国の黒騎士が来た事情を説明する手紙を書き、ついでに兵の被害が多くならない程度にプネラ国を早めに攻め落として欲しいと付け加えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、黒騎士の立場から考えて上の方の指示を仰ぐね。
[一言] 結局の所弱小国家群は騎士国を「正義の味方」と勘違いしているのだろうね 一般人の感性からすれば「正道」とは所詮建前に過ぎない話でしかないから。
[一言] まぁ実際悪用だからね。
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