二百八十五話 フラグリ国の終焉
フラグリ国の王城の外壁が、こちら側の投石機によって崩壊した。
都合二日かけ、王都の商店から購入した石材や木材を投げつけ続けた結果だ。
さてこれから王城攻めに本腰を入れよう、としたところで、伝令が来た。しかも二人だ。
「ミリモス王子。ドゥルバ将軍からの知らせです。テピルツ国の軍勢を撃破し、王城を制圧。テピルツ王族を処刑したとのことです」
「ミリモス王子。ルーナッド地域からの知らせです。プネラ国で政変が起きました。プネラ国の王が、我が国に通じている咎で討たれることになりました」
同時にきた伝令に、俺は少し考えを纏めることにした。
ドゥルバ将軍がテピルツ国に攻め入ることは既定路線だった。
プネラ国に、王族や貴族の中にノネッテ国と密かに貿易している者がいるという噂を流させ、状勢不安を煽るように指示はしていた。だけど、いきなり王が殺されることになるとは予想の外だった。
「プネラ国の王が、ノネッテ国に通じていたという事実はないんだけどなぁ……」
無いはずの証拠で王を討ったという事実に、俺が驚いていると、伝令が言い難そうに告げてきた。
「聞くところによると、プネラ国の王は、ロッチャ地域製の硝子細工が好きだったようで、数を多く集めていたと」
「硝子細工は高いのに、数多く所有しているってことは、ノネッテ国に通じる見返りに得たに違いない、ってことか」
そんな証拠とも言えないこじつけで殺されるだなんて、プネラ国の王も運がない。
いや、待てよ。もしかしたらだけど、下克上を行うための理由に、利用されたのかもしれないな。
「どちらにせよ、拙いことになった」
ガラス細工の収集という、ノネッテ国に好意的と取れる王を殺したんだ。次に立つプネラ国の新たな王は、ノネッテ国と敵対する姿勢を見せると予想がつく。
「なら、ドゥルバ将軍に圧力をかけてもらおうかな」
俺は、ドゥルバ将軍からの知らせを持ってきた伝令に向き直る。
「ドゥルバ将軍に命令を出すよ。ルーナッド地域から文官を招いてテピルツ国の統治作業を任せ、ドゥルバ将軍は兵を率いてプネラ国の国境まで進軍して」
「はっ! 伝令、承りました!」
俺は続いて、ルーナッド地域からきた伝令に顔を向ける。
「聞いての通り、ルーナッド地域から文官をテピルツ国に向かせてくれ。そして、ルーナッド地域に残してある兵をプネラ国の国境へ向かわせて」
「プネラ国を威圧し、激発させるわけですね。了解です!」
二人の伝令が走り去る姿を見送ってから、俺は気分を入れ替えて、フラグリ国の王城への攻撃に意識を戻したのだった。
フラグリ国の王城での戦いは、こちら側が一方的に有利な模様となった。
まあ、王城の壁が崩れて、そこから兵を入れ放題だ。そして城内に入った兵が城の門を開け放ったので、正面からも攻め入ることが出来る。
二方向から侵入される状況では、籠城戦なんてできるはずがないしね。
状勢を見守っていると、王城にある塔の一つが急に燃え始めた。
「こちらが火を放ったのか?」
俺が問いかけると、周囲の兵が慌てて状況の確認を行った。
前線から戻ってきた兵士の言葉によると、こちらが火をつけたわけではなく、フラグリ国の王族が籠った塔がひとりでに燃え出したらしい。
「ということは、焼身自殺する気か。まったく、投降すれば命は助けたのに」
戦争に負けて虜囚となるぐらいなら死を選ぶという、一国の王の矜持なんだろうけど、俺には正直言って理解できない。家族もろともに死ぬなんて、もっと理解できない。
俺なら、戦争で負けたとしても逃げ延びる。もしも俺が死ぬ定めから逃れられないのなら、せめて妻たちや子供たちは逃がしきる決断をする。
「――そうか。塔を燃やして目を引き付けて、隠し通路から逃げる可能性もあるな。まんまと逃げられないよう、王城の周囲に目を配る必要があるな。工兵隊は手隙だし、任せることにしようかな」
俺は工兵隊に周辺警戒を命じ、怪しい人物や敵兵の格好をしている者が居れば捕らえるようにと伝えた。
フラグリ国の王とその家族が籠った塔が燃えてから少しして、フラグリ国の兵たちの抵抗が止まった。王が死んだと思い、戦う意気を失ったようだ。
俺は投降した兵に武装解除させ、そのまま捕虜とした。
周辺警戒を続けていた工兵隊だが、塔が燃え落ちても、夜闇が城の周囲にやってきた後も、怪しい人を見つけることはできなかった。
工兵隊には周辺警戒を続けさせ、魔導鎧部隊に命じて、崩れた塔の瓦礫を撤去させることにした。遺体の掘り出しと、隠し通路がないかの確認のためだ。
瓦礫を退かし続けてしばらくして、丸焼きになった遺体が出てきた。
身に着けている、燃え残った装身具から、王族だと思われる。捕虜にした兵に確認させたところ、装身具は王族が見につけていたものだった。
判断は一旦保留にして、崩れた塔の発掘を再開する。
結局のところ、城の外へ逃れる隠し通路は見つからなかった。
俺は発掘した焼死体をフラグリ国の王族だと判断し、フラグリ国の征服を宣言することにしたのだった。