二百八十四話 のんびりな攻城戦
フラグリ国の王都を攻め落とした。
といっても、外壁のない都だったため、住民に抵抗しなければ無体は働かないと宣言すると、大人しく従ってくれただけ。
住民があっさりと従ってくれたのは、ノネッテ国の統治は民に優しいと評判を聞いていたからだという。
この辺も、密偵を使って二年かけて流した噂が役立ってくれたようだ。
良く働いてくれる密偵の人たちに、恩給支給するべきだなと、脳内のメモに書いておくことにした。
都を落としたら、次は王城攻めだ。
小高い丘の上に建てられた、三つの塔とそれを囲む外壁で出来た石積みの城。
城へと続く整った道は一つしかない。丘の野道もあるにはあるけど武具を付けた兵が通るには適していない。
本来なら、攻め辛い堅城といったところだけど、こちらには城攻めの切り札がある。
「工兵隊。魔導鎧の部隊と共に、攻城兵器の作成して」
「「はっ!」」
工兵隊が作業を開始する。重い資材の組み立てに、魔導鎧の部隊が補助に入る。
いま組み立てている物は、事前に作って分解して持ってきた、投石機だ。
動かない目標に対して攻撃するなら、これが一番費用対効果が高いと判断して、今回の戦争で試しに使ってみることにした。
「魔導鎧の部隊で正面突破すれば、楽ではあるんだけどね……」
ノネッテ国の軍が使う兵器の中で、一番の威力を発揮する魔導鎧。
着用すれば、発揮される膂力は十数倍になり、装甲による防御力で硬い。手元のスイッチを押せば非常展開する、魔法障壁もある。
そんな攻防共に優れた兵器の魔導鎧だけど、弱点がないわけでもない。
一つ目は、着用者の魔力を常に吸い続けるため、稼働時間が存在すること。
二つ目は、魔力切れになった兵は、しばらく使い物にならず、戦力外になってしまうこと。
そして三つ目は、駆動部に油圧を用いているため、火の気に弱いことだ。
特に三つ目の火の気に弱いという点は、攻城戦や砦攻めにおいて、特筆するべき弱点になってしまう。
籠城する側にとって、沸騰して燃えている油は有用な防御兵器だ。大陸中どこでも、よく使われる手段だ。
油じゃなくても、先に火をつけた棒を振るえば、砦の外壁を乗り越えようとする敵兵を押し止める効果が期待できる。
魔法使いがいるなら、火の球を放ってきたり、火炎放射器の炎の魔法を使ってくる。
要するに、火の気は城攻めの戦において、絶対に登場する要素であるということ。
そんな弱点があるため、他に手がないのなら魔導鎧による外壁の跳び越え戦法を使うけど、今回は攻城兵器を持ってきているため安全策を取ることにしたわけだ。
「ミリモス王子、準備できました!」
俺がつらつらと魔導鎧のことについて考えを巡らせている間に、投石機が二つ出来上がっていた。
組み上げられた土台の上に長くて太い角材があり、角材の片方に重りを、もう片方に投擲物を載せる、これぞ投石機という見た目だった。
「よく出来てるね。じゃあ早速、使ってみよう」
「使用し、攻城戦を開始します!」
兵士は敬礼の後、投石機に走っていく。
装填作業が始まり、やがて投擲物――人間大の石が投石機から放たれた。
その放物線を見て、俺は少し眉を寄せる。
「目標が丘の上だから、あまり威力は出なさそうだ」
俺の予想通り、投石機から放たれた大石は、城の外壁に当たったものの、破壊された部分はごく小規模だった。
これは時間がかかりそうだ。
「攻城兵器の開発を、もっとちゃんとやらないとダメかな」
でも、この世界の攻城兵器は、この投石機でも最先端だ。
前世なら、火薬式の大砲とかがあったわけだけど、残念ながら俺に大砲を作る知識はない。
というか火薬がない。これは俺に作れないし、この世界に生まれてもいない。
だから、大砲を作ろうという考え自体が、ありえない。
「帝国なら、魔法の力で『火薬』の代わりができるんだろうけど……」
俺が大砲の知識を帝国に教えるわけがない。
ただでさえ帝国は巨大な強国なのに、前世の銃砲の知識を与えたら、手が付けられなくなるしね。
「ともあれ、新しい攻城兵器をどう開発するべきか考えないとね」
投石機の石が城の壁を打つ音を聞きながら、俺は戦場を見つめて、良い閃きが出ないか期待するのだった。