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二百八十二話 議論と方策

 フラグリ国との一戦目を終えてから数日、俺はノネッテ国軍を休ませていた。

 先の戦いでは終始優勢だったのだから、休憩なんかいらないから、攻め込めばいいのに。なんて兵の愚痴が、そこかしこから聞こえてくる。

 その気持ちはわかるけど、俺が連れてきている兵の多くは、初めて運用する部隊だ。先の戦いで見つかった問題点や改善点を、すぐにでも洗い出す必要がある。放置すれば、それらの部分が弱点になるかもしれないからだ。

 だから俺は、敵が長期戦を望んで進んで戦う気がない間に、兵の休息と合わせて、洗い出しを行うべきと判断したわけだ。


「というわけで、実戦での手応えは、どうだったかな?」


 俺が集めた部隊長に問いかけると、数人がどう答えていいか判断が付いていない顔をしていた。

 彼らは全て、二年前に新たに支配した土地から雇用した隊長だった。

 恐らく、どう答えることこそが、ノネッテ国軍の流儀に合うのか伺っているんだろうな。

 噂で伝え聞く話じゃ、この世界には、望んだ答えを言わなかった兵士の首を刎ねた、っていう将軍がいたっていうしね。

 俺は仕方なしに、ロッチャ地域出身の部隊長に目配せする。彼なら、俺の指揮する軍隊では、どんな答えを求めているか分かっているからだ。


「えーでは、オレから。オレが預かった兵種は、槍歩兵。もともとが農民兵であることを考えると、まあまあ上々の動きだったんじゃないかなと」

「問題や改善すべき箇所は、なかったってこと?」

「陣形を保ったままの移動は拙いし、戦いになると踏ん張りが弱いですが、良くやっている方だと思う」

「踏ん張りが弱いってことは、敵に強く当たられると崩れるってことじゃない? それは懸念材料じゃない?」

「そこはほら、重装歩兵隊を後詰めしてくれれば」


 槍歩兵隊長が言いたいのは、あまり槍歩兵に期待するな、ってことだな。

 いやまぁ、雇用した農民兵の中でも、才能もやる気もない人を寄せ集めた部隊が、槍歩兵隊だしな。技量の低さを、長槍っていう攻撃選択が突く叩くのみという手軽さと、間合いの広さでもって補っているんだ。

 獅子奮迅の活躍を期待されても、困るだろう。


「槍歩兵のことはわかった。他の兵種については?」


 俺が水を向けると、思うまま直答していいと分かったのだろう、他の兵種の部隊長が口々に報告してきた。


「弓隊の弓働きは十全です。ですが弓矢の射撃に訓練の重点を置いてきたため、突発的な状況への応用力が足りていないかと」

「軽騎兵の役割を考えると、馬を走らせながら矢を射れるようにならないとダメでしょうね。今回のように、敵が足を止めて固まってくれるばかりじゃないでしょうし」

「今回の敵に、魔法使いの部隊が居ない点も、少し懸念すべきだろう。魔法を受けた際、こちらの部隊がどのような混乱が起こるか、分かった者じゃない」


 報告から議論へと話題が移行する。

 俺はその話し合いを止めず、兵士たちが思い思いに言葉を口に出すままに任せる。

 それから自然と、部隊間での連携が話し合われ、これからの訓練では合同練習の必要があるという意見も出てきた。



 俺が部隊長たちの議論を聞いていると、俺たちがいる天幕に伝令兵が入ってきた。


「皆様、お喜びください。テピルツ国からの援軍は、ドゥルバ将軍が率いる軍によって壊滅。戦いの勢いのまま、テピルツ国に攻め入りました」


 伝令兵の報告に、部隊長たちは議論の口を止めて喜び合った。


「流石は、鉄腕のドゥルバ将軍。疾風怒濤とはこのこと」

「テピルツ国からの援軍がないと知ったら、フラグリ国の軍隊の意気も落ちるでしょう」

「この戦い、勝ったも同然かと」


 もう勝った気でいる部隊長たちの気持ちはわかる。

 実をいうと、俺もフラグリ国との戦いは終わったも同然だと思っている。

 けど、一軍を預かる指揮官として、締めるべきは締めておかないといけない。


「勝った気になるのは、少し早いよ。テピルツ国からの援軍がないと知ったら、フラグリ国の軍隊が玉砕に走るかもしれないよ」


 俺の注意を受けて、部隊長たちは表情を引き締め直した。


「ミリモス王子の言う通り。この戦いは、フラグリ国にとって、国家存亡の戦いでした」

「愛国心のある兵が、死兵と化して襲ってくるかもしれませんね」

「勝ちが決まったような戦で、あまり兵を死なせたくはない。しかし消極的に戦えば、逆に被害が増えるやもしれない」


 部隊長たちの表情が思案顔になっていることを見てから、俺は伝令兵を呼び寄せた。


「偵察部隊に、フラグリ国の軍隊の様子を探らせてほしい。『鳥』は持ってきているよね?」

「ミリモス王子が幼少のときに使ったという、魔導具の鳥ですね。持っていたと記憶しております。では、ミリモス王子の命令、偵察部隊にお伝えしてまいります」


 伝令兵は敬礼してから、素早く天幕から去っていった。



 翌朝。ノネッテ国軍とフラグリ国の軍隊は、再び対峙した。

 俺は今回、テピルツ国の軍隊の敗走を知った敵の行動が読めないからと、ノネッテ国軍に防御を意識した布陣を敷かせていた。

 部隊長たちも賛同し、敵を待ち構えている。


 さてさて。これでフラグリ国の側が取れる行動は二通り。

 一つは、起死回生を狙っての、全軍を上げての突撃。

 もう一つは、戦争の負けを認めての、降伏の使者を出す。


 そのどちらだろうと待つが、日の位置が中天を過ぎた昼になっても、フラグリ国の軍隊に動きはない。

 これはおかしいと、俺だけでなく部隊長たちも思い始めた。


「フラグリ国の軍隊は、昨日と同じように防御重視の隊列のまま。不気味かと」

「もしや、テピルツ国以外からの援軍があるのやも」

「そんな情報、どこからもなかった。あり得ないはず」


 ああだこうだと言い合っていると、偵察部隊の部隊長がやってきた。


「急ぎ情報を集めましたが、フラグリ国に加担する他の国は無いという見解です」

「でも、フラグリ国の軍隊は、俺たちが攻めてこないことに、時間稼ぎが出来ていると思っているんだよね?」

「はい。敵軍に潜ませた配下からの情報と、空から『鳥』の目で見た光景と合わせ、その報せに間違いはないかと」


 どういうことだろうと、俺たちは首を傾げ合う。

 しかし、あまり長い時間、悩んではいられない。


「敵に援軍があるかないか分からないけど、ここは『ある』と仮定して動くべきだろうね」

「ない、と楽観的に考えて、要らぬ犠牲を産むよりはいいでしょうな」


 俺の意見に、部隊長たちも同意する。

 これで、ノネッテ国軍がフラグリ国の軍隊を壊滅させる方向へ、戦いの流れが変わった。


「敵がここで降伏してくれれば、双方の兵に余計な被害が出なくて良かったんだけどなぁ」


 俺は愚痴を零しつつ、少しでも兵の被害が出ない方策を立てることにした。


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