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二百七十六話 次の戦争のための時間経過

 フンセロイアと取り決めてから、半年が経過した。

 他国へ侵攻する予定が立ったこともあり、この半年の間、俺は武器防具や糧秣のやりくりで大忙しだった。


 そして、俺以外の変化はというと、ノネッテ国第一王子であるフッテーロが結婚した。

 俺の九つ上だから、現在のフッテーロは二十九歳。三十歳になる前に伴侶を娶らせようという、チョレックス王の推薦での結婚だった。

 結婚相手は、ノネッテ本国にある一番大きな町の、町長の娘だそうだ。

 チョレックス王としては、膝元であるノネッテ本国が一番大事な土地だと示す意味があるんだろう。

 でも、町娘が帝国に囲まれた土地の領主の妻になることについて、俺は懸念を持っていた。

 だから俺は、直接フッテーロに聞いてみることにした。

 フッテーロは、苦笑いと共に俺の疑問に返答してくれた。


「妻を守るのは、夫の務めだからね。心配いらないよ」

「でも、帝国がフッテーロ兄上だと交渉が難しいと感じて、奥さんの方へ謀略の手を伸ばすかもしれないんじゃない?」

「その懸念はあるけどね、帝国の外交手腕を見てきた感じからすると、心配いらないんじゃないかなって思うんだよ」

「どうして?」

「帝国が使う手は、主に『力押し』だからだよ。例えば、武力や経済力だね」

「その力に、フッテーロ兄上の奥さんはなびかないと?」

「僕の妻になった人はね、父上が選りすぐった、稀なほどに朴訥な人なんだよ。それこそ、宝石の一粒の軽重より、豆の一粒の良し悪しを気にかけるようなね」


 フッテーロが考えるに、彼の妻になった人物に取り入るための物品を、帝国は取り揃えることができないと見ているらしい。


「外交で接した帝国貴族を見ればわかるよ。凝った造りの服飾に、大きさを競った宝石、珍しい植物で作った香水、最新式の魔導具。それらを持っていることこそが、帝国貴族の格となるようだからね」


 フッテーロが言うには、そういった帝国貴族が重視する物品に、彼の妻になった人は欠片も興味が抱けないようだ。


「動きやすい服装が良い。綺麗なだけの石が、どうして高価なのかわからない。香水は匂いが強くて鼻が曲がりそう。魔導具は使うのが怖い。そんな感想だからね」

「それはまた、帝国貴族とは真反対な価値観の人だね」

「僕としては、そういう人の方が側にいてくれたら嬉しいんだ。僕に迫ってくれていた帝国の人たちには、悪いけどね」


 どうやらフッテーロも、綺麗な石が高価な理由が理解できない人種だったようだ。


「フッテーロ兄上は外交に強いのに、意外だ」

「そうでもないよ。帝国貴族の中でも、外交に強い家の人は、必要だからと揃えているみたいだよ。新規に買うと出費が嵩むからって、昔から持っている品の外観の修復や改造でやりくりしているって愚痴っていたし」

「帝国貴族の中にも、ケチな人っているんだ」

「彼はケチというより、外交でお金を使うべき場所が決まっているって印象だったけどね」


 帝国は、多数の間者スパイを各国に置くことで、大陸各地の情報を集めているという。

 その帝国の外交貴族は、間者に渡す資金に回すことで情報を仕入れることに注力している、ってことかもしれない。



 ともあれ、フッテーロが結婚したことで、ノネッテ国の次代の王の懸念が一つ消えた。これで早々にフッテーロの妻が妊娠してくれれば、さらに懸念が消えることになる。

 良いことだとノンビリと構えていた俺だったが、執務室に駆け込んでくる人が現れた。


「ミリモス王子、大変です!」


 現れたのは伝令兵――ではなく、ホネスの執務補助につけた文官の一人だった。


「大変って、まさか!?」 

「ホネス様が、産気づきました! 破水してましたので、産婆のところへお送りしまして!」

「事情は分かった。立ち合いに向かう」


 医師が見立てた予定日を十日ほど過ぎていたから、いつ来てもおかしくないと思っていたところだ。

 出産の立ち合いに向かう、心の準備はできている。

 俺が執務室の椅子から立ち上がろうとすると、そこにまた人が走り入ってきた。


「ミリモス王子、大変です!」


 今度現れた人物は、またも文官だった。

 しかし彼は、ジヴェルデの補佐につけた人物だ。


「まさか!?」

「はい! ジヴェルデ様が産気づきました!」

「予定日より、二十日ぐらい早いぞ!」

「それぐらいは前後することはあり得ると、お医者さまも仰っておいででしたので、心配はいらないかと!」


 まさかまさかの二人同時出産なんて、想定してない。

 していたはずの心の準備が崩れ去っていく中、俺はなにはともあれと、産気づいた妻二人の元へと急ぐことにしたのだった。


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