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二百七十五話 フンセロイアからの要望

 エゼクティボ・フンセロイアがやってきた。

 俺がルーナッド地域で暮らし始めてから、フンセロイアが尋ねてきたことは初めてだったっけ。


「いやぁ。お久しぶりですね、ミリモス王子。出会ったころはまだ子供という見た目だったのに、今やすっかり大人と言った風貌ですね」


 そう言ってくるフンセロイアはというと、出会ったときと変わらない容姿をしている。

 いや、よくよく見れば、目じりに笑いシワが生まれているように見えなくもないか。


「こちらは、もう二十歳になりましたし、一児の父親ですからね。これで子供のような見た目だったら、それはそれで問題じゃないですか?」

「そうしたね。ミリモス王子は、もうすぐ三児の父親となるのですから、子供のような見た目だと赤子の教育に悪いかもしれませんね」


 笑顔で会話を交わしつつ、俺はフンセロイアの情報収集能力に改めて舌を巻いた。

 なにせ、ホネスとジヴェルデの妊娠が発覚したのは、つい二十日ほど前だ。

 妊娠初期の大事な時期だから、周囲から圧力をかけられないようにと気遣って、余人に知られないよう情報統制はしていたんだ。

 それにも関わらず、フンセロイアは二人の妊娠のことを知っていた。

 相変わらず帝国の情報網の幅は広くて、その網目がどこにあるのか見えてこないから、困ってしまう。


「さては、フンセロイア殿が訪れた理由は、妻たちへの妊娠祝いというわけですね」

「おっと、これは手厳しい。まあ、そう言われると思い、手土産は用意しておりますとも。今頃、私の供の者が、お祝いの品をそちら側の担当者に渡していることでしょう」


 俺の嫌味をさらりと流し、フンセロイアは今回の目的を言い始める。


「ミリモス王子は知っていると思いますが、小国郡の動向が激しさを増しています。それと同時に、戦国時代の終息に向けた動きも現れ始めています」

「いくつかの国が騎士国の後ろ盾を得て、周辺国の調停役を買って出ていることですね」

「その通り。そして我が帝国は、その事象について、大変に憂慮しています」

「調停役になった国が、そのまま騎士国の属国ないしは領地に変じるんじゃないかってことですね」

「流石はミリモス王子、話が速くて助かります」


 フンセロイアは笑顔をこちらに向けてから、配膳されていた茶で唇を湿らす。


「このまま騎士国が大きくなるのなら、帝国も対抗して大きくならねばなりません。しかし、ノネッテ国がいるため、帝国が直接的に小国郡に手を伸ばすことは『躊躇われ』ます」

「あくまで、躊躇う、ですか」

「ええ。必要とあれば、どんな無茶であろうとも、帝国は行う用意があります」


 要は、騎士国の領土拡大が成ってしまったら、帝国はノネッテ国を滅ぼしてでも、小国郡に介入する気があるということだ。

 とはいえ、いま現在ノネッテ国と帝国の仲は良好だ。お互いに貿易を行って貨幣を回し合っているし、帝国には帝国の風土を気に入って住み着いてしまったガンテとカリノの双子姉や、帝国貴族に婿入りしたサルカジモもいるため、敵対する意味が薄いからな。

 つまるところ、フンセロイアはノネッテ国が小国郡を制圧して国土を広げろと言いたいわけだ。


「話は分かりましたが、あまり無茶な手は使えませんよ。そんな真似をすれば、騎士国が出張ってきちゃいますから」

「分かっておりますとも。調停役の国という騎士国の目が、小国郡の中に置かれているわけですからね。無理のない範囲で、小国郡を併呑してくださればよろしいのですよ」


 軽く言ってくれるけど、戦争をしても良い大義名分を用意するのが、どれだけ大変か。

 まあ、仕込みはしてあるから、近場の国に侵攻するぐらいは出来るけどね。

 そんなことを、真正直にフンセロイアに言う必要もないので、俺は困った様子を装うことにした。


「話は分かりましたが、言われてすぐに、はいやりますとは出来ませんよ。戦争となれば、お金も食料も消費してしまいます。せっかく、ノネッテ国の新領地の各地が戦後の悲惨な状況から脱することができたのに、その復興に影を落とすことになってしまいますよ」

「おや? ミリモス王子は、ノネッテ国が帝国に滅ぼされる道を、お選びなさると?」

「いえいえ。もう少し、時間的な猶予が欲しいということです。そうですね。妻の子が生まれるまで、待って欲しいかなと」

「出産まで、ですか。それはまた、どうして、そんな期限を決めたのです?」

「第一子のマルクのときは、戦争で出産に立ち会えませんでしたからね。次の出産こそには立ち合いたちと思うのは、父親として当然の気持ちではありませんか?」

「そういうものですか? 出産に立ち会っても、男親など邪魔なもの。外で元気に仕事をしてくれていた方が気楽だと、妻に言われたものですが?」

「……フンセロイア殿。結婚、していたんですか?」


 驚愕の事実に驚いた俺に、フンセロイアは心外だという顔を返してきた。


「当り前でしょう。私は、魔導帝国の一等執政官ですよ。結婚相手としては、一等市民が望める最高峰。それ故に結婚相手など、より取り見取りの、引く手あまたでしたよ」

「なるほど、とてもモテたわけですね」

「……そういうわけではありません。結婚相手は一生涯を共にする間柄です。私の将来の汚点とならないよう、結婚相手は経歴から背後関係を含めて、調べに調べなければいけませんからね」

「汚点って、酷い物言いですね」

「仕方がありません。なにせ結婚相手にと見初めた相手の背後を探ってみると、敵対派閥の息がかかっていることなどが当たり前のように見つかります。念入りに調査をしなければ、その結婚相手が原因で凋落の道を辿りかねませんので」


 王族や貴族とは違った方向で、帝国の一等執政官も結婚は一大事らしい。


「その念入りな調査で、フンセロイア殿はどんな人を奥さんに選んだんですか?」

「……彼女は、私のことを一途に信頼してくれる、良き家庭人ですよ。少々頭が悪いきらいがありますがね」


 最後に悪い評価をつけているけど、フンセロイアの顔を伺ったところ、『その馬鹿っぽいところが良い』と言いたげな優しい微笑みを浮かべていた。

 その後、お互いに結婚生活について雑談を交わしていった。

 一通りの会話が終わった後で、俺とフンセロイアはノネッテ国が小国郡に進軍する時期を、ホネスとジヴェルデの出産が終わった後と決めた合ったのだった。

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