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二百七十四話 過去回想の続き、そして現在

 騎士国で長女姫であるコンスタティナとの模擬戦は、結局のところ引き分けとなった。


「これ以上の本気を出せば、お互いに怪我では済まなくなりそうだからな」


 とは、コンスタティナの言葉だった。

 そして騎士国からの帰路の中で、俺と馬に同乗していたパルベラがそっと耳打ちしてきた。


「実は、御姉様のことに関して、心配していたことがあるんです」

「俺が模擬戦で勝ったりしないかって?」


 俺が冗談交じりで尋ねると、パルベラはなぜか膨れっ面になった。


「そうじゃありません。御姉様がミリモスくんを夫にすると心に決めたりしないか、ということです」

「俺を夫にって――ああ、そういえば、コンスタティナさんは『自分より強い男性を夫にしたい』って願望があったんだっけ」

「そうです。だから、御姉様がミリモスくんのことを気に入ったらと考えたら、複雑な心境になってしまって」


 パルベラが心配していたことを吐露すると、横で聞いていたファミリスが割って入ってきた。


「パルベラ姫様。それは考えすぎです。コンスタティナ姫様は強者を望んでいますが、それと同じくパルベラ姫様のことを案じてもおいでなのです。あの模擬戦も、ミリモス王子の腕前を見て、パルベラ姫様を任せられるか判断するためのものでした。仮に模擬戦でミリモス王子が勝利することになっていたとしても、自分の夫にと望んだりはしなかったことでしょう」

「……本当に?」


 不安感が拭えないパルベラの様子を見て、ファミリスはさらに言葉を続けた。


「もしミリモス王子に対し、結婚相手として興味があったのなら、引き分けなどという曖昧な決着を、コンスタティナ姫様は受け入れたりしなかったでしょう。それこそ、コンスタティナ姫様を打ち倒して組み伏せる強者を、結婚相手として望んでおいでなのですから」


 ファミリスの重ねられた説明でもって、ようやくパルベラの不安は去ったようだった。

 一方で俺は、パルベラの様子について、ちょっと不思議に思ったことがあった。


「俺が言うのもなんだけどさ。パルベラは夫の俺に、ホネスやジヴェルデとの結婚を薦めたぐらいだから、コンスタティナさんが俺を選んだとしても嫌がったりしないと思ったんだけど?」

「むぅ。ミリモスくんは、乙女心がわかってません」

「確かに、乙女心を分かっているとは言い難いけどさ……」

わたくしは、ホネスやジヴェルデさんや、まだ見ぬお方であっても、ミリモスくんの妻になることは受け入れます。ですが、御姉様がミリモスくんの妻になるのは嫌なんです」

「それはまた、どうして?」

「だって……私が御姉様に勝てる部分なんて、ないですから……」


 消え去りそうな声での言葉を受けて、俺は理解した。

 パルベラがコンスタティナに姉妹愛を持っていることは確かだが、それ以上にコンスタティナに対して劣等感を持っているんだ。そして、その劣等感からくる嫉妬心や対抗心から、自分の身近に着て欲しくないという気持ちが勝っているんだ。

 だから、他の女性が俺の妻になることには寛容でも、コンスタティナにだけは許せないんだろう。

 そんなパルベラの気持ちを察して、俺はパルベラを安心させることにした。


「大丈夫。俺はこれ以上、他の妻を娶る気はないから」

「それはそれで、困るんです。御姉様以外の方にも、ミリモスくんの素晴らしさを分かって欲しいですから」

「俺の妻になることだけが、俺を理解してくれる唯一の道ではないはずだけど?」

「それはそうなのですけど……」


 結婚して数年たても、俺はパルベラの結婚観がよく分からない。

 なんとなく、俺に嫁いだ女性は無条件で幸せになれる、って信じていそうだなと感じるぐらいだ。

 改めて、パルベラの考えの根拠がどこにあるのか、俺がパルベラと出会ってからいままでの光景を思い返したが、分からないままだった。




 こうして俺が、騎士国のことについて思い返していたのには、理由がある。

 それは、戦国時代に突入した小国の情勢に、騎士国が僅かなりともかかわっているからだった。


「小国のいくつかの国で、騎士国が間に立って和平を結ばせた事例が見受けられる、か。一年前に行ったときは、そんな様子はなかったんだけどなぁ」


 この二年の内に各小国に放っていた、行商人に扮した間者スパイからの報告。

 それによると、小国のいくつかの国では『永世中立』を掲げた上で騎士国と接触し、周囲の国が起こす戦争の審判役を買って出る代わりに騎士国の騎士の派遣を求めたらしい。

 俺の間者が確認した中では、確実に二国は騎士国の騎士が派遣され、その騎士の力でもって審判役をこなせているようだった。


「上手い生き残り方だとは思うけど……」


 審判役となった国は、周囲の状況が落ち着いた後、騎士国の権威を手放せないだろう。手放せば、審判役なんていう恨み役を狙って、周囲の国々が結託するかもしれない。

 しかし、状況的に審判役が必要なくなったら、騎士国の騎士は容赦なく引き上げるだろう。戦争が無くなったからには、騎士国の権威を他の国が保持することは『正しくない』からだ。

 そうなると、審判役だった国が取れる行動は二つ。

 一つは、結託した周囲の国との戦いに勝ち残って、周囲を併呑すること。

 もう一つは、騎士国に国を身売りすることだ。

 どちらが容易いことかを考えれば、確実に騎士国に身売りすることになるだろうな。そもそも周囲の国に勝てる軍事力を持っていたら、騎士国の騎士を引き入れるために審判役を務めたりはしないんだし。

 でも、そんな事態はすぐに起きない。

 いまだ小国の争いは、沈静化の兆しすらない。

 予想するに、少なくとも十年ぐらいは、確実にどこかで戦争状態が残るはずだ。

 前世の歴史よろしく、百年規模で残る可能性もある。

 だから俺としては、静観することでノネッテ国を富み強くできると確信している。

 でも、そうは言っていられなくなるとも、俺は予想できていた。


「騎士国の領土が増える未来が見えているからこそ、帝国は小国の戦国状態に対して嘴を突っ込んでくるはずなんだよなぁ……」


 そして戦国状態の小国とは、帝国は領土が接していない。

 なら、どうやって騎士国の領土拡大を阻止しようと考えるかといえば、ノネッテ国を使うしかないわけで。

 嫌な予想が積み重なっていく中、俺の執務室に伝令が現れた。


「ミリモス王子。帝国からの使者が現れました」

「数日以内に、エゼクティボ・フンセロイア一等執政官が現れるから、予定を空けておいてくれってことでしょ?」

「えっ!? あ、はい。その通りですが……」


 どうして知っているんだろうと言いたげな伝令に、俺は誤魔化し笑いを向けた。


「そんな予感がしたってだけだよ。さて、帝国の使者に部屋を宛がって、くつろいでいただこう。この辺りは穀倉地帯で酒が上手い。魔導技術で水質が荒れがちな帝国の方なら、より一層美味く感じられるはずだ」

「分かりました。酒とツマミは切らさないように、歓待を担当する者に伝えましょう」

「お酒が美味しければ美味しいほど、この酒をお土産にって打診されるはずだ。だから、美味しくて在庫が多い銘柄を出すように、っていうことも伝えておいて」

「了解しました」


 伝令が去っていった後、俺は溜息を吐き出し、この二年で蓄えた軍事費と糧秣についての資料を引っ張り出したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 着て欲しくないという
[一言] 帝国としてはノネッテを拡張させて「三大国家体制」に持ち込みたいのだろうが…
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