二百六十二話 ペイデン地域
ペローデン国がノネッテ国に降伏したことをすぐさまに、元コンタマ国へ情報を通して騎士国に、使者をエフテリア国から帝国へ向かわせて通達した。
これで騎士国や帝国が攻め入ってくることはなくなった、はずだ。
そこで俺は、滞在中のペローデン国の王城で、ペローデン国王にあることを尋ねることにした。
「ペローデン国とペルデン国をノネッテ国の地域にするわけだけど。新たな地域の名前はどうするか案はある?」
「国を統一した際につけようと思っていた名前を流用しようと思っている。『ペイデン』だ」
ペローデン国とペルデン国の土地は、これでペイデン地域と名前を改めることとなった。
土地の名前も決まったところで、ノネッテ国の新たな領主に、こまごまとしたことを伝えることにする。
「ペルデン国とは仲違いしていたとはいえ、自分の領地になるんだ。差別したり、圧政を敷いたらダメだからね」
「分かっておる。コンタマ国が騎士国領となったのだ。不誠実な真似は、騎士国の騎士を呼び寄せることな」
「それと、軍事に関してだけど、いまある戦力だけを国内の平定に使って欲しい。下手に増強しては欲しくないんだ」
「なるほど。この土地は騎士国と帝国の間にある。戦力の増強は、そのどちらの国からの災いを呼び寄せることになるかもしれぬな」
「騎士国ではなく、対帝国への用心だけどね」
「実際、騎士国ないしは帝国と戦争になれば、どれだけ戦力を揃えようとこの土地の兵は雑兵でしかない。数が多い分だけ被害がでると見ることも可能か」
ここでペローデン国王――ペイデン地域の領主が溜息を吐きだした。
「左右の国の動向に揺れざるを得ない不安定な領地だ。民の流出は止まらぬだろうな」
「裕福な人はそうでしょうけど、農地を持つ者や町村に愛着がある人は、騎士国に脱出したりはしないと思いますよ」
「ほう。ミリモス王子は、そう見るかね」
「事実、俺が進軍して見てきた光景では、そうでしたよ」
生まれ故郷から逃げ出しているのは、財産に余裕のある人だけだった。
それはペローデン国やペルデン国だけではなく、その他の土地でもそうだった。
それはそうだろう。
なにせ、この世界で暮らす普通の民は、生まれ故郷の外の情報をほとんど知らない。
だから生まれ故郷を捨てて新たな場所で生活しようという行動は、移動先との距離がどれだけ近かろうと、俺の前世で例えるなら言葉も生活様式も全く知らない外国で暮らそうと決断するようなもの。
そんな大博打、普通の人は打ったりしない。
「そうそう。逃げだしたといえば。ペルデン国の王族と重鎮は逃げたので、統治作業が困難になるかもしれません」
「そのことについてだが、心配はいらない。下級役人として潜り込ませた間者がいる。今頃、統治に必要な情報や書類は確保してあるだろう」
「用意がいいんですね」
「そうでもない。こちらの役人にも、ペルデン国の間者はいる。互いに動向を監視し合っていただけのことだ」
どうやら統治も心配いらなさそうだな。
そう安心していると、質問がきた。
「ミリモス王子。カバリカ国はどうする積もりでいる?」
「連合の盟主だった国が欲しいとか、ですか?」
「そうではない。純粋に、どう治めるか疑問なだけだ。ミリモス王子の領地からは、かなり離れているうえに、騎士国とカルペルタル国と接する場所。この周囲の土地の防衛として重要であろう」
確かにその通り。重要な場所だ。
だからこそ俺は、カバリカ国の処置をどうするか、すでに決めていた。
「アコフォーニャ地域に編入させます。カバリカ国を素早く落とせた手助けをしてくれた功績として、下賜する形です」
「カルペルタル国と国境を接するのは、アコフォーニャ地域とて同じ。ならば一つの地域にまとめ、防衛力を高める狙いか」
「カルペルタル国は、別の連合に加入したって報告がありましたからね。その新連合への備えは必要でしょうから」
それに、これは言葉には出さないけど、カバリカ国の統治にはうま味が少ない。
元々が周辺国よりも小さな国だ。植生も周りの国と変わらない。つまるところ、名産なんてものが存在しない場所だ。
下手に領主を立てたところで、ペイデン地域やアコフォーニャ地域の世話が必要になる。
それならいっそのこと、最初からアコフォーニャ地域に組み込んでしまえば、世話が少なくなるって寸法だ。
「さて、これで要件は済みましたし、俺はノネッテ国の軍隊と共に去らせてもらうとします」
「そうしてくれると助かる。そちらの軍を不安視する民がいる。特に、あの大きく不格好な鎧を着た者たちは、中々に威圧的だからな」
魔導鎧のことを言っているんだろう。
たしかに着ぶくれしたような形の全身鎧は、傍目から見ると恐ろしく映ることだろう。
見慣れた俺からすれば、愛嬌ある外見だと思うんだけどね。
俺とノネッテ国の軍隊は、ペイデン地域から出発し、帰路につくことにした。
まずはカバリカ国へと入り、この土地をアコフォーニャ地域に編入させることを通達。
混乱が起これば軍の出番となったのだけど、戦争に敗けた背景があるからか、大人しく従ってくれた。
アコフォーニャ地域の領主からは、カバリカ国の土地を貰えたことに対するお礼が来た。
多少なりとも土地が広がったことと、騎士国と国境を接せられたことが嬉しいらしい。
これでカバリカ国の処置は終わったので、テスタルドを捕虜にし続ける理由もなくなった。
「それで、テスタルド殿。身の振り方の望みはあるか?」
牢屋の中で、簀巻きにされているテスタルドが、地面に横たわりながら返答する。
「ミリモス王子の好きにするといい。勝者の処分に従うことが、戦で敗けた者の作法である」
覚悟を決めた声だった。
それならと、俺は牢屋の鍵を開けさせると、腰に下げていた剣を抜く。
その剣を振り上げると、テスタルドへと下ろし――テスタルドを縛っていた縄を斬り払った。
「……なんの真似か」
「解放されることが、不満かな?」
「当り前だ。敗軍の将として、生き恥を晒せと言いたいのか!」
「違う。これは道理の問題だよ」
俺は剣を鞘に戻しながら、肩をすくめる。
「貴方はカバリカ国の旗印ではあったけど、身分は単なる客将だ。カバリカ国が受けるどんな負債であっても、貴方に被せることができないってだけ」
「敗軍の将としての責任についても、取らせることはできぬということか」
「客将に戦争責任を取らせることができたら、処分の身代わりなんて立て放題だからね」
だからテスタルドは、ここで解放しなきゃいけない。それがこの世界の戦争の、正しい作法だからだ。
「……『正しさ』がこの身を救うとは、皮肉なものだな」
「『正しさ』よりも『正義』を選んで、騎士国の騎士の身分を剥奪されて出奔した身ですからね、貴方は」
テスタルドは立ち上がると、俺の横を通って牢屋から外に出る。
その際、俺に小声を伝えてきた。
「次に戦でまみえることがあれば、このときの判断が間違いだったと証明しよう」
「その際は、客将じゃなくてその国の将軍として属していてください。そうすれば、敗戦の責任を取らせてあげられますからね」
互いに徴発し合った後、テスタルドは牢屋のある建物から去った。
尾行監視させた兵士によると、テスタルドはその後、カバリカ国から出ていき、南西の方角へと向かっていったらしい。
もろもろのことを片付けたところで、エフテリア国が帝国の領土となった報せがきた。
さりもありなんと思っていた数日後、サグナブロ国がノネッテ国に編入することを願い出てきた。
これはノネッテ国チョレックス王の名の下で許可され、サグナブロ国はノネッテ国サグナブロ地域と名前が変わった。
この話時点での、国の色分けになります。
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