二百五十二話 次への準備
アコフォーニャ国の使者との会談の後、俺はアコフォーニャ国をノネッテ国の傘下に入れる準備を行うことにした。
同時に、サグナブロ国への調略も開始する。
サグナブロ国で情報操作をする目的は、ノネッテ国からの増援部隊を素通りする確約を、サグナブロ国から得ることだ。
なぜ増援が必要かというとだ、次の敵となるカバリカ国には、騎士国の元騎士だったテスタルドがいる。
彼の戦力は一騎当千。生半な戦力をぶつけるだけなら、蹂躙されて終わるだけ。
でも、騎士国の騎士だって、無敵ではない。
俺がパルベラと出会った森で、パルベラの守役だった老騎士が帝国の兵に討たれてしまったように、戦力を整えさせすれば騎士国の騎士であっても倒すことは可能。
そこで俺は、魔導鎧をノネッテ国から持ってこさせることにした。
つまり俺が言う増援部隊というのは、多数の魔導鎧と、魔導鎧を運ぶ兵士たちのことを指すわけだな。
さて、調略の結果はというと、無事上手くいった。
以前に許可を出していることもあり、大して手間はかからなかったと、情報操作をした者からの報告書に書かれてあった。
許可を得られたところで、魔導鎧を搭載した輸送部隊が、ノネッテ国から出発し、無事にルーナッド地域に到着。
既存方式で新造した魔導鎧が二百着。もともと持ってきていた百着と合わせると、三百着になる。
そして、魔導研究部が活動延長目的で新設計した、新型魔導鎧が十着もある。
元の魔導鎧の稼働時間は三十分だけだけど、新型は三時間に延長されていると説明書には書かれていた。
実に六倍もの稼働延長を可能にした素晴らしい結果に、俺は研究部に追加報酬を払うことを決めた。
「それで、新型魔導鎧の使い心地は、どうかな?」
俺の質問に、ドゥルバ将軍が訓練を指揮しながら笑みを浮かべる。
「以前の物よりも動きやすくなっている。もっとも、背面にも装甲が付いたので、脱ぎ着することに時間が必要となりましたが」
「背面装甲が付いたなら、生存性は上がったんでしょ?」
「限界まで稼働させてしまうと、兵は気絶する。背面が開いた旧型なら楽に引っ張り出せても、新型ではその作業が重労働となるのです」
「なるほどね。それなら、限界まで使わない方向で調整してよ」
「やはり、それしかありませんか。新型を軸にした戦術を色々と考えていたのですが、修正が必要でしょうな」
悩ましい表情のドゥルバ将軍に、俺は笑みを向ける。
「これだけの戦力があれば、カバリカ国のテスタルド殿が来ても、十分に張り合うことが可能でしょ」
「自分は、件のテスタルド殿を知りません。ですが、ミリモス王子を仮想敵と考えれば、なるほどいい戦いが出来そうな戦力でしょうな」
「俺が敵って、困るんだけどなあ」
俺は不満な感じを口に出してから、思考を切り替える。
「まあいいや。ドゥルバ将軍と兵たちが訓練を頑張ってくれている間に、こっちはアコフォーニャ国を傘下に入れる最終段階に入るから」
「アコフォーニャ国は、地域と変わるのでしたな?」
「それがアコフォーニャ国の王の望みだからね。まあ、王じゃなくなっても、アコフォーニャ地域の領主になるからね。実質的には何も変わってないよ」
「アコフォーニャ国を傘下に入れた後、すぐにカバリカ国へ進軍開始ですな?」
「アコフォーニャ国王が大義名分を用意してくれるって話だけど……」
なんだか上手い感じに、アコフォーニャ国王が敷いた既定路線に乗せられている感じがあって、いまさらだけど、気に入らない。
でもまあ、カバリカ国を始めとする『聖約の御旗』に、俺は『テスタルドとの一騎討ちで勝利』と『ルーナッド国を陥落させた』ことで煮え湯を飲ませ続けている。
きっとカバリカ国は、こちらを敵視している。
なら、攻め落とせる機会があるのなら、禍根を断つためにも、攻め落としてしまった方が良いことは確かではあるんだよね。
「またすぐに、忙しくなりそうだね」
「ミリモス王子は、不満そうですな」
「当り前だよ。増援部隊が、パルベラからの文を持ってきてね。こちらは元気な子を産むから、戦争と統治に集中して欲しいって書かれていてさ」
「あー。出産に立ちあえなかったり、産まれた子とすぐに会えないことは、軍人が抱える悲哀ですからな」
「いまの俺はノネッテ国の元帥じゃなくて、ロッチャ地域の領主なんだけどなぁ……」
どうして遠く離れた地で、戦争の準備をしているのだろうと、肩をすくめたくなったのだった。