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二百四十九話 統治作業と周りの事

 ルーナッド地域を統治するにあたって、ルーナッド国王の家族は『地域外退去』にすることにした。

 家族に付き従う従者も同行させて、それなりの金銭も持たせる。

 その上で、どこに行っても良いと伝えたところ、意外なことにノネッテ国の領地内で住むことを希望した。

 そう、家族に付き従うことを選んだ従者の一人が伝えてきた。


「俺に庇護して欲しいってことかな。ルーナッド国王の頼みもあるし、無碍に扱う気はなかったから、別にいいんだけど」


 生まれた国を滅ぼした親の仇がいる国に住むことに、抵抗はないのだろうか。

 疑問はあるけど、ひとまずルーナッド国王の家族は、ノネッテ本国まで移送する。

 しばらく本国で情報収集してもらって、そこから気に入った地域へ移り住んでもらう段取りにした。

 そう伝え、従者には下がらせた。

 その後で、机の上に何冊もある報告書のうちから、一つを取る。


「さてさて、ルーナッド地域内の治安については、っと――」


 調べさせた内容が書かれた報告書に、目を落とす。

 元ルーナッド国の軍隊――現ルーナッド地域の防衛隊と名を変えた兵士たちは、大人しく治安維持に参加しているようだ。

 ルーナッド国王の家族たちを助けるのだ、と息巻いた者が少人数いたようだけど、当の家族と住民たちから賛同が得られなくて、意気消沈しているらしい。


 ルーナッド国王の家族にとって、命が助かった上に新天地での生活も約束されているんだ。

 ここで俺の不評を買う真似はして欲しくなかったんだろうな。


 そしてルーナッド地域住民にとって、俺とノネッテ国の軍隊は『優しい侵略者』という評価で固まっている。

 国を滅ぼして制圧したからと、王の家族を粛正したり、住民に対して略奪や暴行などの粗暴な振る舞いをしない。

 戦争があったというのに、焼かれたり壊された町や村は皆無。それどころか、抵抗する素振りを見せた村人相手にすら、人死を極力出さない配慮をしていた。

 さらには地域運営に必要な役人の多くと兵士たちは再登用されて、税収は以前と同じままで据え置くと布告がきた。

 同じ被征服民の立場である、帝国の二等市民の扱いと比較して考えるなら、破格と言っていい待遇だ。

 こんなに良くしてもらって、国を滅ぼされたことに多少の不満はあっても、武器を手に立ち上がろうという気概を持つまでには至れない。

 それが、ルーナッド地域の民の偽りのない本心だと、報告書には書かれてあった。


「それで、これがフォンステ国からの感謝状ね」


 感謝状には手紙が付けられていて、先の戦争の簡単な流れが記されていた。


 ルーナッド国の軍と戦いになり、フォンステ国は国境で防衛戦を敷いていたらしい。

 ロッチャ地域製の高品質な武具という有利な点あっても、戦争自体が上手ではなかったため、苦戦を強いられていたようだ。

 待てど現れないルーナッド国の軍にやきもきし、日に日に落ちていく兵士の指揮に、どうしたものかと頭を抱えた頃、唐突にルーナッド国の軍が動きを止めた。

 直後に終戦を伝える使者がノネッテ国の兵士と共に来て、ここでようやく援軍はちゃんと出してくれたんだと理解した。

 フォンステ国が滅びなかったのは、ノネッテ国のミリモス王子が二度も助けてくれたお陰だと、皆が口を揃えて言う――

 

 途中から俺への賛辞に代わった手紙の内容に、俺は苦笑いしてしまう。


「喜んでくれたことは嬉しいけど――ん?」


 感謝の言葉の部分を斜め読みしていって、手紙の最後の方に到達したところで、俺は首を傾げる。

 唐突に、ノネッテ国の傘下に入りたいという文字が書かれていたからだ。

 少し手紙を読む位置を戻して、もう一度読み直していく。


「あー。周辺の小国がフォンステ国に侵略しようとする動きを見せているから、フォンステ国の国体を捨てもいいから、ノネッテ国の傘下で守って欲しいってことか」


 フォンステ国は軍隊が貧弱なのに、砂漠の通商路からの利益で大金を手にしている。

 ルーナッド国が目をつけたように、他の小国も目を付けることは道理に合っていた。

 そして今回のように、戦争になったらノネッテ国の助けが必要になる。

 ならいっそのこと、ノネッテ国の一部に、いまの内からなっておこうという魂胆だった。


「だからって、国から地域に堕ちる判断は、いくらなんでも思い切りが良過ぎないかな……」


 なにか裏があるんじゃないかと考えて、フォンステ国の提案についての判断は棚上げすることにした。

 フォンステ国の王と会談を持ってみて、問題がないと思えば、提案を受け入れることにしよう。

 受け入れた際は、フォンステ国王は統治者として据え置くし、運営に必要な人は登用を続けたままにするだろうから、国から地域に名前が変わるだけになるだろうけどね。


「次は、サグナブロ国についての報告か」


 サグナブロ国の情勢は、ノネッテ国の軍隊を通過させたことで、少し波乱が起きているようだ。

 国としての意地を見せてノネッテ国の軍隊に立ち塞がるべきだった、とサグナブロ国の軍務大臣の弱腰を批判する者。

 逆に、ノネッテ国の軍が瞬く間にルーナッド国を攻め落としたことを引き合いに出して、軍務大臣の判断は正当だったと擁護する者。

 ノネッテ国の領地に挟まれ、いま以上の国家の展望は望めないのだから、いまの内にノネッテ国の一部になって、優位性を保持したいと唱える者。

 判断保留にしていた『聖約の御旗』への参加を、いまこそ決めるべきと強弁する者。

 そんな様々な意見がぶつかっていて、四分五裂の状態らしい。


 個人的には、ノネッテ国の傘下に入って欲しいな。

 このままだと、ルーナッド地域が飛び地になって、流通の具合が悪い。

 将来、フォンステ国がノネッテ国の一部になったら、その具合の悪さは一層増すことにもなる。


「ノネッテ国に入らないにしても、『聖約の御旗』に参加するのだけは止めて欲しいかなぁー」


 俺が自分の希望を呟きながら手に取ったのは、『聖約の御旗』の動きに関する報告書。

 ノネッテ国が『聖約の御旗』に加盟していたルーナッド国を攻め落としたことで、連合に参加している国々はノネッテ国を攻める口実を得た形だ。

 そのうえ、俺は『聖約の御旗』の旗頭とも呼べる、騎士国の元騎士であるテスタルド・ジュステツィアを倒してもいる。

 『聖約の御旗』としては、連合の結束と面子を保つために、ノネッテ国と戦わなければならない場面になっている。

 その証拠に、ルーナッド地域に接するアコフォーニャ国に、『例役の御旗』に参加する国々から兵士が集まってきていると、報告書に書いてあった。


「この調子だと、ルーナッド地域の防衛隊とドゥルバ将軍の配下だけじゃ、数の力で負けてしまいそうだ」


 もし『聖約の御旗』と戦争を行うことになったら、ノネッテ国から軍隊を呼び寄せる必要がでてくる。

 そうなったら、問題がある。


「議論に揺れているサグナブロ国を通過しなきゃいけないし、そもそも兵糧が心許ないんだよなぁ……」


 ノネッテ国では、戦争で土地があれたペレセ地域の復興に、資材と食料を投入している。

 その関係で、軍隊に回す食料を制限している。

 もちろん、普通の軍務に就くには十分の食料は確保してある。

 ただ、戦争を行う場合、食料の消費は、通常時よりも多くなってしまう。

 その消費される食料を支えることは、いまのノネッテ国の状態では、ちょっとだけ難しい。


「ルーナッド地域からはもとより、フォンステ国と、できればサグナブロ国から、食料を融通してもらうしかないかな」


 サグナブロ国に食料を要請することは、弱みを見せることと同じだから、あまりやりたくはない。


「あーもう。いっそのこと、戦争と統治をドゥルバ将軍に任せて、ロッチャ地域に帰ってしまいたい……」 


 妊婦のパルベラだって、俺にとっては心配だ。

 万全の布陣を敷いてはいるけど、初めての出産なんだ。不安があるはずのパルベラの側に、俺はいてやりたいのに。

 俺はもんもんと、戦争をせずに済ませる方法を考えていって、ふと思い出した。


「兵法書には、直接的な戦い方だけじゃなくて、戦争を操る項目もあったっけ」


 挑まれた戦争に挑んだり、援軍要請からの出陣ばっかりだった関係で、戦う方法しか生かしてこなかった。

 いまこそ、直接的な戦闘ではない方法での戦いを行うべきじゃないだろうか。


「よしっ、調略を仕掛けよう。相手は小国が集まった連合だ。探れば不和の一つや二つ、簡単に見つかるはずだ」


 俺は偵察兵を呼びつけて敵情視察と情報操作――つまるところ『聖約の御旗』を動揺させる策を講じることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 兵法書が攻略本みたいになってる。 有り難みもなければミリモスの有能さも感じられない
[一言] いまの内 今のうち
[一言] 有利な点あっても 有利な点があっても
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