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二百四十五話 罠の気配

 ルーナッド国の中を進んで、町村を四つ越えた。

 その四つの町村でも、やっぱり民衆が俺たちの行く手を遮ってきた。

 仕様がなく戦闘になって、こちらが一方的に打ち据えて終わせる結果になった。

 そして五つ目の町村に到着。

 規模としては、街に至る数歩手前と評していいほどの、大きな町だ。

 ここで、民衆の態度が今までとは変わっていた。


「町の外に出ている数が多いね」

「町に住む全ての民が出ているのではないか。そう見受けられる人数ですな」

「ざっと数えて、五千人ってところかな」


 人数だけなら、こちらの倍以上。

 でも、数だけ多いだけということも、一目でわかる。

 なぜなら、武器もなにも持っていない女性や子供も、あの集団の中に見えるんだから。

 そんな戦力になりそうもない住民まで借り出してくるってことは――


「――住民総玉砕をしかけてくる。って感じでもないんだけどなぁ」

「戦う気があるようには、見えませんからな」


 町の側で集まっている民衆たちは、明らかに俺たちを見て怯えていた。

 手に武器や農具を持つ者たちも、それらの存在に縋らないと立っていられない様子で、震え上がっている。


「あの戦意の喪失っぷりを考えると、俺たちのここに来るまでの所業が、あの人たちに伝わっているってよね」

「我が軍は重装歩兵。馬だけでなく、走者であっても、情報を伝える時間はあったでしょうからな」

「ああも怯えられているってことは、悪逆非道の者たちって伝わってるんじゃない?」

「敵対してきた故に容赦なく叩きのめしはしたが、命までは取らなかったのに。これは不当な評価では?」

「でも、大怪我はさせて放置してきたから、その所業を恐ろしく感じているんじゃない」

「なるほど。殺さずにおいたのは、恐ろしさを喧伝させるためと、そう誤認されているわけですな」


 俺とドゥルバ将軍で推測合戦を行っていると、民衆の中から一人の老人が出てきた。

 老人は杖をついてはいるけど、足取りはしっかりとしている。

 俺たちが黙って到着を待っていると、老人は手の届く距離まで近づいてから頭を下げてきた。


「ワシらは、貴方様がたに降伏いたします」


 唐突の宣言に、俺とドゥルバ将軍は疑いの目を向ける。

 すると、老人は語り出す。


「ワシらの力では、貴方様がたに敵わないこと、他の村からの使いから教えて貰っております。そして、戦うだけ無駄だからと、道を明け渡すようにとも」

「ほう。その割に、町中の住民を動員して、我らの進軍を妨げているようだが?」


 ドゥルバ将軍が問い詰めるように言うと、老人は首を左右に振った。


「それは勘違いです。ワシらは、馬鹿な住民が貴方様がたに反抗しないよう、町の外に全員で集まって、お互いに監視し合っているだけです」

「我らに敵対するつもりはないと?」

「はい。むしろいま町の中に住民は誰もいないのですから、ご自由に町の中を通っていってください」

「ほう。迂回せずに、町の中を通って良いとは。行軍するのが楽だな――」


 ドゥルバ将軍は笑顔になり、そのままの表情で老人に爆弾発言をぶっ子んできた。


「――無人の町と思わせて、各所に伏兵を配置する。という戦法があることを、知っているか?」


 騙し討ちする気だろうという、ドゥルバ将軍の主張。

 老人は呆気に取られた顔の後で、大急ぎで首を横に振って否定してきた。


「そんな真似、するはずがありません!」

「そうか。ならば、我らが町中を通っている最中に、町中に火を放ち、火責めにする気か?」

「自分の家に火を放つなど、ありえません!」


 傍目からは、ドゥルバ将軍が老人に難癖をつけているように見える光景だ。

 でも、ドゥルバ将軍が問い詰めている理由も、分からなくはない。


 俺たちノネッテ国の軍は重装歩兵。

 生半な武器を通さない装甲が自慢だけど、弱点もある。

 訓練を重ねることで移動速度を上げてはいるけど、装備重量の関係で移動速度が遅い。

 だから火計を食らうと、逃げ切れずに丸焼けになってしまう。水堀や深い川なんかは、沈んでしまうので渡ることが難しい。

 そして長柄の武器を主力としているため、敵に懐に入られると、対応に苦慮してしまう。


 つまり、空の町だと思って入ったところで、町ごと焼失させる気の火責めや、建物の陰に隠れての伏兵などは、ノネッテ国の軍隊にとって怖い手段なわけ。

 だからこそ、町民が全員外に出ている事実に、ドゥルバ将軍は神経質になっているわけだ。

 まあ、ドゥルバ将軍が強く疑って問い詰めている理由は、老人の反応を見て嘘かどうかを判別しているからだろうけどね。

 でも老人の顔色が青ざめてきたから、ここら辺で助け舟を出すとしよう。


「ドゥルバ将軍。町の中を進む必要はないのでは?」

「そうですな。今まで通り、外周に沿って移動すれば、この者たちが企んでいようと、関係ありませんな」


 ドゥルバ将軍の同意を得られたので、俺は老人に顔を向ける。


「貴方たちの心遣いは有り難く受け取りますが、我らを町中に通したとあっては、なにかと角が立つでしょう。我々は今まで行ってきた通り、町村を迂回して進むとします」

「は、はい。それならば、それで……」


 老人は安堵した様子で、民衆の方へ戻っていった。

 それを見届けてから、ドゥルバ将軍が号令を発した。


「では、出発する!」


 町を迂回することを選び、全員で道なき道を進んでいく。

 ここまで四回やってきたことなので、兵たちももう慣れっこになっている。

 まず先頭が草を掻き分け、その後続が分けた草を踏んで固める。村を半分迂回したところで、隊列を前半後半入れ替えて、同じ作業を行う。

 そうして、俺たちは町を迂回して、主要街道に戻ってきた。

 ルーナッド国の王都を目指す行軍を再開したところで、ドゥルバ将軍が俺に耳打ちしてくる。


「先ほどの村。罠があったでしょうかな」

「八割がた、罠はなかったと思うよ。こちらは多少の伏兵なら苦にしないし、町ごと焼くような火計を行うことは町民が嫌うだろうしね。で、ドゥルバ将軍の意見は?」

「自分は、半々でしたな。町民が全て町の外に出るなど、怪しむなと言うほうが無理かと」

「まあ、町民を全て動員しているのに俺たちと戦う気はないって時点で、不自然だよね」

「そう思えばこそ、あの老人を問い詰め崩して目論見を吐かせ、罠を張った町民を叩きのめして後顧の憂いを断とうとしたのだが……」

「罠があると疑わしい場所を回避するだけで、仮にあったとしても罠は発動しなくなるんだ。問答をする時間を伸ばすぐらいなら、移動してしまった方が楽だよ」

「むうぅ……。本当に敵意がないと分かったのなら、あの町で補給や休憩を行っても良いと考えたのですが……」


 ドゥルバ将軍は、移動続きの兵たちと消費されていく物資を考えて、あの村を利用することで少し行軍を楽にしようという心づもりだったらしい。

 その目論見を、俺が横からしゃしゃり出て、潰しちゃったわけか。


「俺が悪い事をしちゃったね」

「いえ。物資に余裕があり、野営場所もこの街道上にいくらでもある。罠の不安を抱えてでも、あの町に拘る必要もありますまい」

「そう言ってくれると、救われるよ」


 ドゥルバ将軍の心遣いが、ありがたい。

 それにしても、あの町に罠があったのかなかったのか、気にはなるな。

 まあ、その事実は、通り過ぎてしまった俺たちには関係のないことだけどね。

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― 新着の感想 ―
[一言] コレもうルーナット国にケジメ案件だよなぁ。 民を前面に出させて軍の使番位ハケンするか案内役つけろ的な。
[一言] 来た、見た、買った。 ということで、ミリモス2巻書籍購入完了です。
[一言] まぁどう考えても怪しいわな、本当に何もしないなら代表だけ来ればいいだけの話だし
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