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二百四十三話 ルーナッド国へ侵入

 大した騒動もなく、俺とノネッテ国の軍隊はサグナブロ国の領土を抜けた。

 とはいえ、二千人規模での移動だ。

 俺が人馬一体の神聖術で野を駆けるように、迅速な移動をすることはできない。

 都合四日かかっての、通過だった。

 そしてルーナッド国に入る前に、一日の休憩を取ることにもしたため、結果的に俺がフォンステ国を離れてから五日が経過した計算となる。


「出来る限り急いでは来たものの、フォンステ国とルーナッド国は、もう開戦していてもおかしくないんだよなぁ」


 俺が休憩中に大天幕の中で地図を見ながら呟くと、ドゥルバ将軍は苦笑いを向けてきた。


「偵察兵に、先にルーナッド国に入らせ、その内情を探らせている。ここで気を急いたところで、何もなりませんぞ」

「それは分かっているんだけどね」


 俺たちがサグナブロ国とルーナッド国の国境に差し掛かる前日に、偵察兵をルーナッド国に潜り込ませた。

 目的は、ルーナッド国の王都の位置と、そこへ至るルートの把握、そしてルーナッド国の軍隊とフォンステ国の軍隊との戦況確認。

 王都の位置とルートを調べるのは、素早く制圧して、戦争を終わらせるため。

 戦況確認は、もしも現時点でフォンステ国が負けているようなら、俺たちは引き返さないといけないからだ。

 そしてノネッテ国の軍隊に一日の休憩を与えたのは、偵察兵がこの調べ物を終えるための時間を有効活用するためである。


 俺が偵察兵が戻ってこないことにやきもき続けたまま、一日間の休憩が終了した。

 兵士全員が出立の用意をしていると、偵察兵たちがようやく戻ってきた。

 そして先にドゥルバ将軍に報告を耳打ちする。


「うむっ、ご苦労。お前たちは荷馬車の中で休憩を許す」


 ドゥルバ将軍に許しを得て、偵察兵たちは物資を詰め直した荷馬車へ向かっていく。

 よく見れば、偵察兵たちはかなり疲れた顔色をしている。時間がない中で、休憩を賭して頑張ってくれたようだ。

 後で俺も労いの言葉をかけようかなと考えていると、ドゥルバ将軍の号令が響いた。


「出立する! 目標、変わらず! ルーナッド国の王都へ!」

「「「おう!」」」


 兵士は返答すると、素早く移動隊列で整列する。

 俺も馬の背に乗り、馬車チャリオットに騎乗するドゥルバ将軍の横に移動した。


「出発!」


 ドゥルバ将軍の掛け声の直後、兵士たちが移動を開始する。

 そして少しして、俺たちはルーナッド国の国土へと踏み入った。



 進軍するノネッテ国の軍隊は、いわば領土侵犯をしているような状態だ。

 いつ、誰に咎められてもおかしくない状況と言える。

 それにもかかわらず、ドゥルバ将軍が進軍に選んだ道は、馬車の轍がハッキリ見える主街道だった。

 これじゃあ、見つけてくれと言わんばかりだ。

 いや、むしろドゥルバ将軍の目論見としては、ルーナッド国の民に見つけられたいのかもしれない。 


「ドゥルバ将軍。もしかして、ルーナッド国の軍隊の目を、こちらに向けさせようとしている?」


 俺が小声で尋ねると、ドゥルバ将軍は男臭い太い笑みを返してきた。


「まさしく。ルーナッド国のが我らの存在を知っった場合、各地の防衛に残した兵を動員するか、フォンステ国に向かわせた兵を引き上げるかしか、選択肢はありますまい。そのどちらを選ぶにせよ、フォンステ国が耐える時間を稼ぐことは可能かと」

「ルーナッド国の中で騒動が起これば、兵たちが戦争に集中はできなくなるってことだね」


 ドゥルバ将軍の考えは、武力を使った揺さぶりだ。

 ルーナッド国に波乱を起こすことで行動を強要し、相手が選んだ選択によって、軍の動きを変える。そんな手だ。

 個人的な好みを言えば、俺は枝道を利用してでも兵の存在を隠して、王城へ奇襲を仕掛ける方が好きだ。

 でも、フォンステ国の援軍という立場で考えるなら、ドゥルバ将軍の作戦の方が今回の場合は適しているんじゃないだろうか。


「でも、この調子で王都へ向かおうとするなら、ルーナッド国の町や村で抵抗が起こると思うんだけどなぁ」


 サグナブロ国の町であったように、守備兵や町民が住処を守ろうと立ち上がることは目に見えている。

 その点はどうするのかと思っていると、ドゥルバ将軍は太い笑みのままで言う。


「手向かいしないよう告げますが、相手が飲まない場合は蹂躙するしかありますまい」

「……町や村を滅ぼすってこと?」

「お嫌ですかな?」

「イヤ、というよりか、破壊活動で失う時間がもったいないんじゃない?」


 俺たちの主目的は、少しでも早くルーナッド国の王都を落とすことだ。

 抵抗されたからと町や村を焼いて、いたずらに時間を消費するなんてことは、本末転倒だろう。

 そのことは、ドゥルバ将軍も分かっていた。


「なにも破壊しつくすことはないでしょう。手向かいした者どもを、戦えぬ体にすればよいだけのこと。後顧の憂いを断つためにも、必要かと」

「生半可な真似で済ませたら、背後から追いかけてこないとも限らないか……」


 ドゥルバ将軍が『殺す』という表現をしないからには、恐らくは相手に大怪我を負わせるぐらいで済ませようという心づもりだろう。

 実のところ、ノネッテ国の軍隊は、敵を殺さずに済ませる戦法に長けている。

 兵たちが持つ長尺の武器が、その理由だ。

 長尺の武器は、長い柄を用いた打撃力で相手を叩くためのもの。

 武器の先に刃が付いている武器は多いけど、刃を立てないように相手を殴りつけるぐらいは、兵士たちにとって朝飯前だ。

 魔導鎧を使うという手もある。

 その場合は武器を持たせずに、魔導鎧の手足で打撃するだけで事足りるだろうな。


「ま、目標が素早い王城の制圧のままなら、何でもいいか」

「ミリモス王子。主目的は、フォンステ国の救援では?」

「そうだった。なら王城を制圧したら、次はフォンステ国を攻めているルーナッド国の軍隊の対応もしなきゃいけないかも」

「放置した場合、軍隊がそのまま野盗と化すやもしれませんな」

「先にルーナッド国の軍隊を叩くことを選んだ方が良かったかな?」

「いえ。ルーナッド国の王都は、フォンステ国に向かう道中にあるのです。行き掛けの駄賃と考えて、落としてしまえばよいでしょう」


 ドゥルバ将軍は簡単に言ってるけど、これって戦争なんだけどなぁ。

 そんな軽い見通しが本当に通るのか、俺はちょっと不安に思いながら、行軍する兵士たちと行動を共にしていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 将軍株が高騰しております……
[気になる点] ・ルーナッド国のが我らの存在を知っった場合 →のが!知っった!!
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