二百四十話 ノネッテ国の軍隊へ
俺がサグナブロ国からカヴァロ地域に入ると、すぐにノネッテ国の兵士数名が警戒して近づいてきた。
しかし俺の顔を見るなり、戦いの構えを解いて、笑顔を浮かべる。
「ミリモス王子。サグナブロ国の使者かと思いましたよ。緊張させないでください」
「悪い悪い。ドゥルバ将軍に用があるんだけど、どこ?」
「将軍でしたら、あちらの天幕にいらっしゃいます」
兵士が示した天幕へ向かい、歩哨に馬を預けて、天幕の中に入る。
天幕の中には、ドゥルバ将軍の他、部隊長級の兵士たちの顔が並んで座っていた。
彼らは俺を見ると、驚いた顔をした直後に立ち上がり、敬礼する。
俺は返礼した後で、気楽にするように身振りした。
「ドゥルバ将軍に質問と要請があるんだけど、いいかな?」
俺が問いかけると、ドゥルバ将軍は周囲に居並ぶ面々に目を向ける。
「人払いをした方がよろしいか?」
「いいや。隠し事じゃないから、このままでいいよ」
俺は勝手に椅子に座り、ドゥルバ将軍に顔を向ける。
フォンステ国とルーナッド国が戦争になりそうなこと。フォンステ国がノネッテ国に援軍を求めたこと。そして軍を通過させるために、サグナブロ国に話をつけてきたこと。
それらを語ると、ドゥルバ将軍と他の部隊長たちの表情が、一斉に呆れ顔に変わった。
「ミリモス王子が、フォンステ国に一騎討ちに向かったことは知っていたが……」
「どうして、戦争に巻き込まれてるんでしょうかねぇ」
「いやいや。ここは『聖約の御旗』とやらの統率力の無さについて嘆くべきでは?」
「そもそも小国が繋がっただけの連合だ。連合内で戦争を起こさないことだけ、決めているのかもしれないぞ」
口々に感想を呟く彼らに向けて、俺は手振りして雑談を止めさせた。
「以上を踏まえてだ。ドゥルバ将軍に聞きたいんだけど、ここにいる軍隊を、そのままルーナッド国へ進ませることは可能かな?」
ドゥルバ将軍は義手の両手を組み、思案顔になる。
「武具は魔導鎧も含めて十全。食料に関しては一月分はあります。サグナブロ国が本当に手向かいしてこないのであれば、可能でしょうな」
「カヴァロ地域の防備は大丈夫? 防衛力不足で失陥なんてされた日には、俺がソレリーナ姉上に殺される」
「はっはっは。あのお方は女傑ですからな。カヴァロ地域を失ったら、ミリモス王子は叱責されたのちに、奪還するようにと言われるでしょうな」
「笑い事じゃないんだけど?」
「これは失礼。だが、心配は要らぬな。要所に兵は配置してある。エフテリア国やペケェノ国が侵攻してこようと、ペレセ地域から兵を抽出して援軍に向かわせるぐらいの日数を稼ぐことは可能でしょう」
つまり、ここにある戦力をフォンステ国の援軍として使って、問題ないってことだな。
「食料が一か月分だってことは、可能な限り早く戦争は終結させたいね」
「いざとなれば、攻め入ったルーナッド国内で徴発する手もなくはないのでは?」
「ルーナッド国の民にノネッテ国に悪感情を抱かせないためにも、あまりやりたくはない。でも、『聖約の御旗』に参加する国々が、援軍を出してきたら難しいかもなぁ」
俺が懸念を口にすると、ドゥルバ将軍が眉を寄せた。
「援軍を出してくると予想しているので?」
「出さない理由がないよ。『聖約の御旗』の信条は、小国が大国に対抗するために集まった連合だよ。連合に参加している国が攻められたら、助けに向かわないと、連合の存在意義が揺らいじゃうし」
「……連合に参加している国は、何か国もあるのでは?」
「その国々が出張ってこない内に、ルーナッド国を攻め落としたいんだよ」
「手早く陥落させることで、戦争参加の大義名分を失わせるのですな」
「援軍を出すには、出す先の国が存続していないといけないからね」
俺とドゥルバ将軍は、認識のすり合わせを終えた。
ドゥルバ将軍は立ち上がると天幕の外へと進み出て、周囲に轟くような大声を発する。
「聞け! 我が軍は、フォンステ国へ援軍に向かう! 移動の準備をせよ! サグナブロ国の内を通る! 敵の襲撃があると心得て進軍するのだ!」
ドゥルバ将軍の大声が終わると、兵士たちが走り回る足音が聞こえてきた。
天幕内にいた部隊長級の兵士も、俺に敬礼した後に外へと走っていってしまった。
そして俺は、外にいても邪魔なだけなので、この天幕が撤去されるまでは、この中でゆっくり待たせてもらうことにしたのだった。
ミリモス・サーガの第二巻 6月10日に発売を予定しています。
Web版とは違いが存在しております。
詳しいことは、後に活動報告にて書かせていただきますが、以下のツギクルブックスのページにアクセスをよろしくお願いいたします。
冒頭部の試し読みがありますので、よろしかったら是非どうぞ。
https://books.tugikuru.jp/20200510-05834/