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二百三十二話 元騎士と一騎討ち・前哨戦

 俺は準備を整え終えると、広場の中へと進み出た。俺の後ろには、フォンステ国の国境で出迎えてくれた人たちが付いてくる。

 一騎討ちのために広く取られた空間の外には、野次馬が集まっていた。

 野次馬の表情は、大別して二つ。

 一つは、俺に視線を向けて、不安たっぷりな表情をしている。

 もう一つは、騎士国の元騎士であるテスタルドに歓声を向け、彼の勝利を信じて疑っていない表情だ。

 不安にしている方がフォンステ国の民で、テスタルドに声援を送るほうがカバリカ国を始めとする『聖約の御旗』に参加している国の民だろうな。

 そんな観察をしながら前に進み、広場の中央でテスタルドと向かい合った。

 改めてテスタルドの姿を見てみる。

 身長は約二メートルほど。その身長と同じぐらいの大きな剣を持っている。装備している全身鎧は白色で分厚そうだが、巌のような顔を覆うはずの兜はない。

 大きな剣と分厚い走行の鎧を見るに、重装歩兵に近いパワーファイターだろう。

 分析を済ませてから、俺はテスタルドに喋りかける。


「兜はつけないんですか?」


 唐突に問いかけたからか、テスタルドは少し呆気に取られたような顔をした。その後、巌のような顔を曲げて笑顔になる。


「我が身は『聖約の御旗』の象徴。連合に参加する国の皆に顔を覚えて貰うことも、我が身の仕事なのだよ」


 そういうものかと納得していると、逆にテスタルドから質問がきた。


「そういう其方こそ、かなりの軽装ではないかな?」


 改めて自分の格好を見てみる。

 上半身に複層の革鎧、手甲と足甲も革製。腰には鋼鉄製の両手半剣。この装備は、移動の際に馬の負担を軽減するよう、金属を少なくして重量を減らしたための結果だ。

 確かにこの格好は、騎士国の元騎士と戦うにしては、頼りないものに見えるだろうな。


「基本的に、相手の攻撃を当てられないように立ち回るのが、俺の戦い方なので」

「では、互いに正反対な戦い方というわけだな」


 俺とテスタルドが視線を交換し合っていると、横からの咳が聞こえた。

 音がした方へ目を向けると、カバリカ国の宰相と名乗っていたフレッサ・リリドコロが顔をしかめていた。


「一騎討ちの取り決めを、ここで再確認させていただいても?」


 俺に聞かれても答えようがないので、フォンステ国の人たちに会話の権利を渡す。


「はい。こちらも、改めて知りたいので」

「では、確認しますよ」


 フレッサが語った一騎討ちの取り決めは、以下の通り。

 テスタルドが勝利した場合、フォンステ国は『聖約の御旗』に速やかに入り、砂漠の交易の権利は『聖約の御旗』に移譲すること。

 逆にフォンステ国側が勝利した場合、二度と『聖約の御旗』への参加要請はしない。その上で賠償金として、大人十人と同じ重さの黄金を、『聖約に御旗』はフォンステ国に支払うこと。

 ざっくりとした取り決めだけど、双方の条件に釣り合った内容と言えなくはない。

 ちょっとした懸念はあるけど、俺がそれを指摘をする前に、フォンステ国の人たちが同意してしまった。


「はい。以前きいた通りで、異存はありません」

「では、一騎討ちの取り決めは成されましたね。では、代表者のお二人。良い戦いをしてくださいね」


 フォンステ国の人たちとフレッサは、互いの陣幕へと下がっていく。

 彼らの姿が陣幕の内側に消えたところで、俺とテスタルドは、どちらともなく距離を空ける。

 おおよそ十メートルの間を空けたところで、お互いに剣を構えた。


「では、行かせていただく!」


 テスタルドが宣言した直後、彼の体から強い威圧感が迸った。テスタルドが神聖術を行使したのだ。

 威圧感には物理的な圧力はないはずなのに、俺の顔に強風が叩きつけてきたような錯覚を覚える。

 それは野次馬たちも同じなんだろう。テスタルドを声援する声は潜まり、俺を心配そうに見る人の顔色が一層に悪くなる。

 でも、俺は拍子抜けしていた。

 訓練の中で、ファミリスから受ける威圧感よりも、大分優しいものだったからだ。


「そう考えるとファミリスって、騎士国の騎士の中でも、もの凄い『エリート』だったり?」


 騎士王の次女姫の側仕えに任じられるほどの騎士なんだから、選抜されているのは当たり前か。

 そんな自己解決をしていると、テスタルドが俺に笑いかけてきた。


「この圧力を受けて腰を抜かさないことは、見事。なら、腕前も楽しみにさせてもらおう」

「こちらとしては、楽しませてやるつもりはないけど、ねッ!」


 俺は言葉を返しながら、足元に落ちていた小石を蹴ってテスタルドの顔面へ飛ばす。同時に、飛ぶ石を追いかけるように、駆け出す。

 こちらのいきなりの攻撃に対して、テスタルドは落ち着き払っていた。それこそ、飛んできた石を手や剣で防御せず、大剣を高く振り上げるぐらいに。


「小手先の戦法なぞ!」


 飛石を顔に食らいながら、テスタルドは大剣を俺に振り下ろしてきた。

 俺は目論見が外れたことを悟り、テスタルドの間合いから逃れるため、横に跳ぶ。

 跳び退いた俺の横、一メートルほどの距離を空けて、テスタルドの大剣が上から下へと通過する。

 その直後、激しい突風と共に土砂が吹き上がり、俺は風と砂を被った。


「くっ」


 砂が目に入らないよう顔を腕でかばいつつ、俺はさらに後ろに跳ぶ。

 十分な距離を空けたところで、体に被った土や砂を手で払い落していく。

 作業を続けながら、テスタルドが何をしたかを、距離を空けたこの場所から改めて観察する。


「ふむ。良い反応である」


 悠然と大剣を持ち上げる、テスタルド。その前にある地面は、まるで埋められていた地雷が爆発したかのような、大きな穴が開いていた。


「……神聖術で強化した膂力で繰り出した剣撃によって、地面の土砂を吹き飛ばしたってところかな」


 仮にあの一撃を食らっていたら、地面を吹き飛ばす威力があるからには、防御をしたとしても押しつぶされてしまったことだろう。

 騎士国の騎士だったという経歴は嘘じゃないと、改めて理解する。

 そして、やっぱりファミリスとは違うタイプの騎士であることも、再確認した。


「剣の威力は驚愕だけど、速度自体は『素の俺』でも見切れるぐらいだしね」


 俺は、ここで初めて神聖術を発動。自分の力が底上げされる感覚を得る。

 そして改めて俺は、テスタルドに攻撃を仕掛けるため跳び、一瞬の間に接近し終えた。

 眼前に見えるテスタルドは、目を見開いている。


「其方。もしや神聖術を――」

「うりゃああ!」


 テスタルドの言葉を無視し、俺は剣を振るう。

 先ほどの飛石とは違い、振った剣はテスタルドの鎧を着けた腕で防がれてしまった。


「驚かされたが、しかし!」


 テスタルドは反撃で、大剣を横薙ぎに振るってくる。狙いは俺の胴体だ。

 だけど、神聖術を発動した俺の身動きの前に、その大剣の速度は遅すぎる。

 俺はさらにテスタルドに接近すると、彼の足、腹、肩を蹴りつけながら体を駆け上がって、頭上へと跳び上がった。

 そしてテスタルドの無防備な後頭部に剣で一撃を入れようとして、自分の身動きが狂ったことを遅まきながらに悟る。


「チッ、跳び過ぎた」


 これほどの大男と戦った経験がなかったから、目測を誤って、ちょっと強めに跳び上がり過ぎてしまった。

 まあ、跳び上がっても大剣の間合いから逃れきれないよりはマシと考え直して、安全に退避することだけに集中する。

 再び距離を空けて、俺はテスタルドの様子を観察する。

 俺に踏み付けにされたうえ、危うく一撃を貰うところだったんだ。さぞや肝を冷やしているだろう。

 そう思ったのだけど、傍から見るとテスタルドは楽しそうだった。


「ふふふっ。神聖術を使う者との一騎討ち。これは気持ちを引き締めねばなるまいな」


 テスタルドは含み笑いをしながら、俺に向き直る。そして大剣を両手で持ち直すと、本気になったギラついた目を向けてきた。


「どこの門弟かは知らぬが、我が『正義』と、そちらの『正しさ』を比べるとしよう」


 俺は変な言葉に首を傾げかけて、なんとなく察した。

 どうやらテスタルドは、俺のことを騎士国から差し向けられた刺客だと、勘違いしているようだ。

 神聖術は騎士国が秘匿している技術だし、俺のような『野生の神聖術使い』は希少だ。

 テスタルドが勘違いを起こしても仕方がないだろう。

 それに、俺がテスタルドを倒さなきゃいけないことに、変わりはない。


「さて、俺も本気の本気にならないとな」


 俺は、ファミリスとの訓練の時のように神経を研ぎ澄まして、テスタルドと対峙し直した。


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[気になる点] 鋼鉄製の両手半剣→バスタードソード(英: Bastard Sword)は、両手、片手持ちの両用の剣。片手半剣(英: Hand and a half Sword)とも呼ばれる 両手+半…
[一言] 交易利権とたかが大人10人分の金だと割に合わなそう? 侵略も禁止してないし穴だらけだな。
[一言] 『』のナカノモジ チガウヨウナ。 誤字でなければ。。。
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