二百三十一話 一騎討ちの会場へ
一騎討ちの会場として確保された場所は、フォンステ国の国境の町にあるらしい。
その国境の町は、元は対ルーナッド国のために作られた軍事拠点で、多くの兵士が駐留できるよう広く作られたという。
そんな話を、俺はフォンステ国の一人から、移動の中で聞いていた。
「我がフォンステ国は、国土の半分が砂です。水源はルーナッド国にある山から流れてくる川しかありません。そのため、昔々から水の利権を争い、戦争になることもしばしばで」
「そんな歴史背景がある割には、ノネッテ国から武器を輸入するぐらいだから、武器や防具の発展はしてなかったんですか?」
「言ったでしょう。国土の半分が砂なのですよ。ルーナッド国にとっては、水の利権で争いはしても、我が国の国土に感心はなかったのです」
つまり戦争といっても、いわば小競り合い程度の戦いだったんだろう。
だから、長年戦争を続けている国であるにもかかわらず、武器や防具は発展しなかったわけだ。
しかし砂漠の通商路と繋がったことで、ルーナッド国が本格的に侵略に乗り出した。
「持っている武器の程度は、フォンステ国とルーナッド国は同程度。だから我が国が、精度が良いと砂漠の民に評判のノネッテ国の武器を入手すれば、戦争は回避できると思ったのですが……」
「ルーナッド国をノネッテ国製の武器で威圧して退けたた代わりに、『聖約の御旗』が乗り出してきちゃったってこと?」
「正確には、戦争の被害を恐れたルーナッド国が『聖約の御旗』に参加することを選び、盟主のカバリカ国に助けを求めたのですよ」
「そんな背景がある割に、あの一団の中にはルーナッド国の人物はいないんだよね?」
騎士国の元騎士であるテスタルドを始めとする人たちに目を向けながら、俺は首を傾げた。
しかし、ルーナッド国の人物がいないことは、当然なのだという。
「ルーナッド国は『聖約の御旗』に自ら入り、その直後に一騎討ちの援助を願い出ています。第三者視点で見れば、ルーナッド国と我が国が共謀して、テスタルド殿を打ち破り、『聖約の御旗』の盟主になり上がろうとしていると、判断してのことではないかと」
「なるほど。もしも共謀しているのなら、一団の中にルーナッド国の人物を入れていたら、変な企みをされかねないと用心したわけか」
テスタルドは騎士国の元騎士。音に聞こえた強者だ。
しかし例えば、一騎討ちの前に食事に毒を混ぜたらどうだろう。致死性のものでなく、腹下し程度のものであっても、一騎打ちに支障がでることは間違いない。
そういった危惧を考えれば、テスタルドたちの中にルーナッド国の人物を入れていないことに筋は通るな。
そんな道々の暇つぶしの会話をしている内に、国境の町に到着した。
一騎討ちを行うために確保された広間は、町に入ってすぐにあるらしい。
町の中に入ると、町の中の人の表情は二つに区分されていた。
一つは、朗らかな笑顔で、何の心配もないッといった感じ。誰もが旅に適した服装をしていることから、フォンステ国の外からやってきた人たちだろう。
もう一つは、将来を悲観した沈んだ表情。ごく普通の町中の服装であるため、この町や周辺に住むフォンステ国の国民だな。
つまり双方の人たちは共に、一騎討ちでフォンステ国が負けると思っているからこそ、そう言った表情になっているわけだ。
俺が町の様子を見ている間に、広間に到着。
国境の町にある広間という割には、石畳で舗装された立派なもの。
整備具合から予想するに、この四角い広間は、戦争が起きた最に兵士のテントが立ち並ぶ場所になるんだろう。
そんな観察をしていると、フォンステ国と『聖約の御旗』で、人員が離れた。
「では、一騎討ちの準備に入りましょう」
「戦闘前の休憩というわけだな。うむ、異存はない!」
広間に入ってすぐの場所で、『聖約の御旗』は乗ってきた馬から荷物を下ろして、休憩を始める。
一方、俺とフォンステ国の面々は、広間の反対側へと移動する。
そこには既に陣幕で囲われた、休憩スペースが出来ていた。
中にお邪魔すると、数人の人物が椅子に座っていた。その中の一人の男性は、ロッチャ地域で作られたと思わしき金属鎧を全身に着けていた。
鎧を着た人物は、俺たちが入ってきたのを見て、顔面蒼白になっている。
「も、もう、『聖約の御旗』が来たのか?! で、できるだけ、一騎討ちを引き延ばせないか!?」
恐怖に振るえる声に、彼の周囲に居る人物たちは悲痛な面持ちだ。
しかし俺と共に入ってきた人たちは、逆に笑顔になる。
「喜べ。手紙を送ったノネッテ国から、助っ人が来てくださった。こちらのお方だ」
紹介されて俺が前に出ると、鎧を着た男性は明らかに安堵した顔に変わり、血色もよくなる。
「そ、それじゃあ、オレは戦わなくてもいいんだな!?」
いそいそと鎧を脱ぎ始め、脱ぎ終わるや否や、陣幕の外へと逃げていってしまう。
俺が苦笑いで彼の後ろ姿を見送っていると、フォンステ国の面々は恥ずかしそうに赤面していた。
「選抜大会優勝者だというのに、あやつは……」
「兵士の中でも強いことは確かですが、大会内容を考えると、貧乏くじを押し付けられたようなものでしたし……」
同情的な言葉があるから、さっきの人は、さほど悪い人物じゃないんだろうな。
それでも情けない場面には代わりないからか、フォンステ国の人たちは慌てた様子で俺に椅子を進めてくる。
「ささ、ミリモス王子。こちらにお座りを」
「喉は渇いておりませんか。それともお腹はお減りでは?」
「ご用命があれば、何でも用意いたしますので!」
その必死さを、俺への期待だと好意的に受け取りつつ、申し出は断ることにした。
「食料は持ってきたものがありますから。それで済ませますよ」
「そうですか……」
「だから、美味しい料理やお酒は一騎討ちで勝った後に受け取ります。楽しみにしてますね」
「おお! はい! 勝利してくださった暁には、この町を上げてお祝いいたしますとも!」
さて、祝勝会の約束もしちゃったことだし、テスタルドに勝つことにしよう。
カクヨムにて、ゴールデンウイークの暇つぶし用の物語を投稿してます。
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