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二百二十七話 フォンステ国へ――ノネッテ国道中

 フォンステ国の一騎討ちに、俺が代理で出る。

 その許しを得に、ノネッテ本国の王城までチョレックス王に会いに行った。


「――という事情ですので、許可を頂きたいのです」


 俺が経緯を説明すると、あっさりとチョレックス王からの許可が下りた。


「ミリモスが必要と判断したのだ。思う通りにする良い」

「……お伺いを立てた立場で言うのも変ですが、そんなあっさりと認めてしまっていいんですか?」


 俺が一騎討ちで負けてしまったり、勝っても勝負を不服とした『盟約の御旗』連合の国々がノネッテ国に戦争を吹っ掛ける可能性だってある。

 つまりフォンステ国を助けるということは、ノネッテ国に新たな動乱を呼ぶようなものだ。

 俺は、砂漠の通商路で上がる利益と、将来の動乱を秤にかけて、通商路を取った。だからフォンステ国を助けるべく行動している。 

 しかしチョレックス王は、その判断の類を行った様子がなく、簡単に許可を出してくれた。

 それが、俺には疑問に映ったのだ。

 チョレックス王は、そんな俺の危惧に対して、大笑いで答える。


「はっはっは! なに、ミリモスのこと。フォンステ国を手助けする決定は、色々と勘案した末の結論であろう。それを支持するだけのことよ」


 度量が広いことを言ってから、チョレックス王はさらに付け足す。


「それにだ。儂の判断が間違っていていたら、アヴコロ公爵が止めるはず。なぁ?」


 話を向けられて、アヴコロ公爵は肩をすくめる。


「ミリモスの危惧する点と、フォンステ国を助ける利点を比べたら、フォンステ国に肩入れする方が良いと判断しましたからね」

「そう考えた、アヴコロ公爵の見解を告げよ」

「話は簡単です。そもそも小国が連合し出したのは、我がノネッテ国を仮想敵と考え、その対抗のために違いありません。つまるところ、遅かれ早かれ、連合とノネッテ国は戦う運命にあるわけです」

「将来戦う相手なのだから、フォンステ国は助ければ味方になるだけ、今回のミリモスの判断は得だということであるな」

「加えて、通商路の利権も保持できますので」


 俺以上に、アヴコロ公爵はノネッテ国の未来について考えていたようだ。

 連合の成り立ちを考えれば、仮想敵がノネッテ国だということは分かりきっていたのに、その視点が俺には欠けていたな。


「では、フォンステ国を助けて参ります」

「うむ。頼んだぞ、ミリモス」


 チョレックス王の言葉を受けて、俺は謁見の間から立ち去ろうとする。

 その直前、アヴコロ公爵に呼び止められた。


「ミリモス。さっき来たばかりの情報なのだけどね。カヴァロ地域に隣接するサグナブロ国が、国境で軍事演習を始めるようだ。それに伴い、街道の通行が制限されているらしい」

「軍事演習――俺の移動を阻害するためでしょうか?」

「そう考える方が、自然だ。砂漠の道行きは、砂漠の民でも大変な難行だから」


 フォンステ国への道は、ノネッテ国からだと二通りある。

 アンビトース地域で砂漠の民と合流して通商路を行く、砂漠行。

 ペレセ地域、カヴァロ地域、サグナブロ国、ルーナッド国を通る、街道行。


 砂漠行は、食料から水まで用意しなければならない上に、砂漠の民に案内料を支払う必要がある。

 その労苦を惜しんで、俺は道々で補給が楽な街道行を選ぼうとしていた。

 そんな俺の判断は、『聖約の御旗』の連中に読まれていた。だから連中はサグナブロ国に圧力をかけて、街道を封鎖させたってことだな。


「でも、軍事演習する場所の横を通り過ぎればいいだけですよね?」


 俺なら『人馬一体の神聖術』を使えば、楽に通過出来てしまう。

 そんな片手落ちのようなサグナブロ国の行動について、アヴコロ公爵は見解を持っていた。


「サグナブロ国としては、国境で軍事演習することで、連合に言われた役目をこなしつつ、ノネッテ国には『ただの演習で敵対行動ではない』と言い訳できる余地を残しておきたかったんだろう」

「俺の行動を阻害できなくても良いと考えている、ってことですね」

「いやいや。サグナブロ国にも意地がある。演習地にミリモスが入ったりしたら、全軍を上げて阻止しないといけない。それが国防というものだからね」

「分かってます。演習地は迂回しますよ」


 アヴコロ公爵からの情報を得て、俺は街道行の行程に修正を加えることにしたのだった。



 ノネッテ本国から山のトンネルを通り、ペレセ地域に入る。

 ペレセ地域の光景の中には、先の戦争での爪痕は残っている。だが復興されている場面もよく見えた。

 戦争によって畦道が破壊されたままの畑が多く見受けられるが、その畑には新たな芽が日差しを受けて伸びつつある。

 壊れた家屋を立て直す一方で、使えないと判断された木材が煮炊きに使われている。

 石塚に向かって故人の冥福を祈る者の後ろでは、子供たちが笑顔で駆けまわっている。

 ペレセ地域に住む人たちの生き強さを横目に見ながら、俺は『人馬一体の神聖術』を使用しながら馬を駆けさせ、素早くペレセ地域からカヴァロ地域へ。


 カヴァロ地域は、貴族の反乱と鎮圧が起り、統率者が俺からドゥルバ将軍を経てソレリーナ夫婦に変更している。

 そんな混乱があった土地であるにもかかわらず、カヴァロ地域に入って見えた人々の暮らしは、いたって平和だった。

 不思議に思い、俺と馬の食事休憩で立ち止まった村で、それとなく話を聞いてみることにした。

 すると、村人たちが語ってくれた。


「戦争に負けてどうなるかと思ったが、負けた方がいい暮らしになって驚いているよ」

「この辺は、いけ好かない貴族が管理していたんだけどな。反乱の際におっ死んじまったらしくて。代わりに来た貴族が、それはまた出来た人で、戦争で村の備蓄を徴収してしまったのだから今年の税は取らないってね」

「それに、新たな王様――女王様だ。女王様のはからいで、税の比率も見直してくれるらしくて。万々歳だよ」


 俺は『女王』という言葉に首を傾げたが、村人の話からソレリーナのことだと分かった。

 どうやら村人たちは、この場所がノネッテ国の一部になったことについて、あまり理解していないらしい。だから領主であるはずのソレリーナのことを、新たな王様だと誤認しているらしかった。

 普通ならあり得ないことだろうけど、帝国に支配された国の民がどのような道を辿るかを知っていれば、考えられないこともない。


 帝国では、下した国の民を二等民と扱い、差別している。

 しかしカヴァロ国が負けてノネッテ国の支配下に入ったのに、カヴァロの民の立場は変わらない。むしろ良くなっている節さえある。

 だからカヴァロの民――特に情報の入手法が制限される村人なんかだと、『戦争には負けたけど、国は滅びずに王様が変わっただけ』と勘違いしてもおかしくはないわけだ。

 もしかしたら、ソレリーナはこういった村人の勘違いを正さないことで、統治をやりやすくしているかもしれない。


 そんなカヴァロの村人の様子が知れたところで、街道行を再開する。

 街道を走りに走り、国境まであと少しというところで、二千人規模の兵士に遭遇した。

 サグナブロ国が侵攻してきたのか、と一瞬警戒したけど、兵士たちの装備を見てノネッテ国の兵だと気付く。

 俺が馬に乗りながら近づくと、兵士たちも警戒する素振りを見せてから、馬上に俺が居ると知って相好を崩す。


「なんだ、ミリモス王子か」

「伝令! ドゥルバ将軍に、ミリモス王子がお越しだ!」


 兵士たちは道を空け、俺を先へと行かせてくれた。

 有り難く道を進んでいると、二頭引きの馬車――チャリオットに乗ったドゥルバ将軍が見えてきた。


「これはミリモス王子。このような場所で会うとは、国境警戒に同行してくれるお積りでしょうか?」

「いや、俺はフォンステ国に向かう途中だよ」


 と断りを入れてから、改めて質問する。


「国境警戒って、サグナブロ国の軍事演習のこと?」

「軍事演習と言いながら国境侵犯をしないか、見張らないといけないので」

「見張りにしては、カヴァロ地域に残した魔導鎧の大部分を持ってきているようだけど?」


 俺が兵士の間を抜ける際に見かけた装備について尋ねると、ドゥルバ将軍は顔に男臭い笑みを浮かべた。


「領土侵犯を犯してくれた暁には、それなりの措置を取らねばなりません」

「俺としては戦争は回避して欲しいんだけどね。後に大戦争が起こるかもしれないから」

「大がつく戦争とは、どことですか? 帝国でしょうか?」

「ははっ、まさか。相手は小国の連合だよ。『聖約の御旗』っていうね」

「見抜きました。ミリモス王子がフォンステ国に向かうのは、その小国連合と事を構える前準備ということですな」

「俺としては、事がフォンステ国で終わる方が望ましいんだけどね」


 情報交換をしている内に、あヴァロ地域とサグナブロ国の国境がある場所が遠くに見えてきた。


「俺が兵たちと行動を共にしているところを見えられたら、俺がサグナブロ国を通るとき、領土侵犯と受け取られかねないからね。ここで離脱するよ」

「国境の守りはお任せを」


 ドゥルバ将軍と兵士たちに見送られて、俺は街道を走り、サグナブロ国の土地に踏み入ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 226話でも連合がノネッテを仮想敵としてるとミリモスは理解してるのに、227話では、その視点が抜けてたと言ってて前後の話が噛み合ってない
[気になる点] 誤>情報交換をしている内に、あヴァロ地域と 正>情報交換をしている内に、カヴァロ地域と
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