二百二十六話 助っ人要請
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俺が予想していた通りに、フォンステ国からの親書が砂漠の通商路を経てやってきた。
普通、国の親書には随行員が居ることが当たり前。
しかし砂漠の道行きが過酷だからか、今回は手紙だけが俺の元に届いていた。
早速手紙を広げてみると、執務机の上に砂粒がパラパラと落ちてきた。砂漠の砂が入り込んでいたようだ。
「……一騎討ちの日時が決まったから、それまでに俺に助けに来て欲しいって書いてあるな」
手紙の中身を確認して、俺は溜息を吐く。
この救援要請に、帝国の企みの臭いを感じ取ったからだ。
この世界は、前世の日本と比べると、情報伝達の速度が遅いうえに到達域が狭い。
例えば、先の戦争で使った魔導鎧。この鎧の情報は、戦争があったカヴァロ地域とペレセ地域では有名だ。しかし、東端の領地であるフェロニャ地域では、魔導鎧のことはあまり知られていない状況だったりする。知っている人でも、せいぜいがノネッテ国軍は大きな鎧を使って戦争に勝ったぐらいしか認識していない。
ノネッテ国内の状況でも、これだ。
それがノネッテ国から小国を幾つか挟んだ先にある国となれば、俺の情報なんて無いに等しいものになるのは間違いない。
それにもかかわらず、俺を元騎士国の騎士との一騎討ちの助っ人に呼びたいなんて、あり得ない話だ。
しかし、こうして俺の手元には助っ人要請の手紙が来ているからには、フォンステ国は俺が神聖術の使い手であることを知っていることは間違いない。
では、誰がフォンステ国に俺の情報を教えたかと考えると、候補は二つに絞られる。
一つ目は、砂漠の商隊が交易を通じて教えた。
しかし、これはあり得ない。
砂漠の通商はアンビトース地域に一任しているため、商隊が俺を褒め称えたところで利益に繋がらないからだ。
候補の二つ目は、帝国が戦争になりそうな予感を察知して、俺を参戦させるべく情報を流した。
これは荒唐無稽に思えるが、考えれば考えるほど、あり得そうな候補だったりする。
帝国の当面の目標はノネッテ国を第三の大国に押し上げること。ここで七国の連合になっている『聖約の御旗』をノネッテ国が倒せば、一気に領土を大きくすることが可能だ。
それに連合の盟主であるカバリカ国の代表は、元とはいえ騎士国の騎士。騎士国を敵とする帝国は、カバリカ国の跳梁を見逃すはずもない。
予想に予想を重ねる信憑性のない考えではあるけど、俺は帝国が裏で糸を引いていると考えを決める。
「それにしても、助っ人か……」
せっかく育ってきた砂漠の通商の利権だ。保全しなければいけない。
加えて『聖約の御旗』は軍事連合だ。当然仮想敵がある。小国数国が組んで挑む相手なんて、この近辺ではノネッテ国ぐらいしか相手がいない。
つまるところ、ノネッテ国の平和を維持するためには、俺がフォンステ国に行くしかない。
そう分かっていて俺が尻込みしている理由は、パルベラの妊娠だ。
俺の初めての子供だ。安定期に入ったというが、出産するまで気が抜けない。だからパルベラの側にいてやりたい。
そんなことを考えていると、同室にいるパルベラがこちらの内心を見抜いてか苦笑いしていた。
「ミリモスくん。私は平気ですから、フォンステ国を助けてあげてください」
それが『正しい』ことだと、パルベラは言外に告げている。
パルベラ本人にそう言われてしまったからには、せめて誕生の瞬間には立ち会えるように、『聖約の御旗』とフォンステ国の争いを治めないとな。
「パルベラには心細い思いをさせると思うけど」
「いいえ。ファミリスやホネス、侍医や産婆の方もいます。寂しなんて思うことはありません。だから、ミリモスくん。頑張ってください」
パルベラは、俺の気がかりを解消するように、笑顔で言う。
その言葉の響きで、本音八割、強がり二割だろうなって、俺は察知する。
「なるべく早く問題は片付けるようにするよ」
俺はパルベラのお腹を撫でる。そしてファミリスにはパルベラの世話を、ホネスに執務を頼んだのだった。