二百二十五話 小国連合は動き出す
小国の動静が気がかりな俺は、カヴァロ地域にいるドゥルバ将軍に連絡を取ることにした。
ノネッテ国内で一番に小国の情報を得ることができる場所が、カヴァロ地域だからだ。
「で、ドゥルバ将軍からの情報が来たんだけど、当然のようにソレリーナ姉上からのものもくっ付いているし」
ソレリーナは、スポザート国が国体を解体してノネッテ国の一地域になったことが切っ掛けで、カヴァロ地域の領主になった。
正確に言うとソレリーナの夫であるドゥエレファが領主なのだけど、ソレリーナが辣腕を振るって領地を盛り立てているので、実質彼女が領主と言えるわけだ。
そして俺がソレリーナをカヴァロ地域の領主に推薦したこともあり、推薦の恩を返すのだと張り切り気味だ。
俺が複雑な気持ちでソレリーナからの報告書を見ていると、隣で執務をしてくれているホネスが笑顔になる。
「ソレリーナ様は、センパイの役に立とうとしているんですよ。そんな顔にならなくたって、素直に受け止めたらいいのに」
「それはそうなんだけど。この歳にもなって、姉の手を煩わせるのは悪いって気持ちが……」
「それは違うと思う。ソレリーナ様は、センパイに頼って貰ええる方が嬉しがると思う」
「そうかな?」
「はい。絶対に」
ソレリーナと同性のホネスの言葉だ。異性かつ地球の知識がある俺自身の考えよりも、当たっているかもしれないな。
「でも、とりあえずはドゥルバ将軍の方の報告から見ないとね」
俺が報告を頼んだのはドゥルバ将軍にだ。だから、あくまでソレリーナの報告はオマケ扱いだ。
本命の前にオマケを見るのは、順序が違うからな。
「で、なになに――」
ドゥルバ将軍の報告によると、周辺の諸小国の動きは地域ごとによって違うという。
まずペケェノ国は、戦争で負った負債もあって、帝国に領土を狙われている。だから連合を隣のエフテリア国と組み、再びノネッテ国に攻めかかろうとしているという。もっとも、国庫も物資もすっからかんなので、戦争を起こすには数年の時間が必要となるという。
カヴァロ地域の南にある、サグナブロ国。
この国はノネッテ国のことを、第二の帝国のように考えていて、襲い掛かられたりしないか戦々恐々としているらしい。
ソレリーナが懐柔しにかかっていて、時間をかければ友好国ないしは属国化することができそうだという。
サグナブロ国の南にルーナッド国。
そのさらに南に、砂漠の通商路を通して羽振りが良くなった国の名前が、フォンステ国がある。
この二国に関しては、立地が離れていることもあって、目ぼしい情報はカヴァロ国に赴任したばかりのドゥルバ将軍では掴めていない。
そして、問題の騎士国の元騎士が味方をしているという国の名前は、カバリカ国。
こちらも先の二国と同様に、国の名前は分かったものの、その国が組んだ連合の規模などは分からないという。
あまり得るものがなかった報告書に、俺は肩を落とす。
「ドゥルバ将軍は戦闘巧者であって、間者を使った諜報戦向きの人材じゃないからなぁ」
気を取り直して、俺はソレリーナの報告書に目を落とす。
ソレリーナの報告では、カバリカ国とその連合を中心に情報がまとめられていた。
あたかも、カバリカ国までドゥルバ将軍の情報の手が伸びていないと、知っていたかのように。
「……はぁ~。ソレリーナ姉上がノネッテ国の次期王に望まれていたって理由が、よく分かるや」
丁寧にまとまった情報を見て、つい感嘆の息が漏れてしまった。
報告によると、カバリカ国は国土を接していた五つの国を一騎討ちで下し、六国での連合――『聖約の御旗』の盟主国になったという。
さらに連合の規模を伸ばそうとして、真っ先にルーナッド国に接触する。
なぜルーナッド国を選んだのかについて、ソレリーナの見解では、ルーナッド国がフォンステ国を狙っていると知り、連合に加わる代わりに手助けを申し出たのではないかと書いてあった。
ルーナッド国も参加すれば、都合小国七国による連合軍だ。経済的に成長はしても、軍備も人材も育っていないフォンステ国なんて、一たまりもなかっただろう。
しかし、ノネッテ国のロッチャ地域で作られた武器がフォンステ国に入ったことで、『聖約の御旗』連合は形勢の見方を変える。
フォンステ国と戦争を起こせば、飛ぶ鳥を落とす勢いで国土を拡大しているノネッテ国に、戦争を起こす口実を与えかねないと危惧を抱く。
そこで連合盟主のカバリカ国は、フォンステ国に連合に入るよう打診し、一騎討ちの勝敗でどちらが上に立つか決めようと持ちかけている。
そして現在、フォンステ国は協議するとして、連合への加入や一騎討ちの話を待たせているのだという。
ソレリーナの報告書を読み終えて、俺は腕組みする。
この状況は、フォンステ国は時間稼ぎして、砂漠の通商路経由でノネッテ国に支援を求める流れだよな。
「要請を跳ね除けるにせよ、跳ね除けるにせよ、ノネッテ国――というより、俺にとって痛手だな」
要請を退けたら、砂漠の通商路に影響が出て、アンビトースの経済が下がり調子になる。
俺の領地であるロッチャ地域は隣の土地だ、必ず影響が出てしまう。
そして、フォンステ国の要請を受けたら、一騎討ちの代役を出さないといけなくなる。
相手が騎士国の元騎士とあれば、確実に勝利を得られる人材は、俺しかいない。つまり妊娠中のパルベラを置いて、単身赴任というわけだ。
さらに言えば、気がかりがもう一つある。
「……相手は小国が集まった連合だ。上手くいけば、一気に領土を広げるチャンスでもあるんだよなぁ」
ノネッテ国が大国に向かう道筋が出来ているような気がして、これも帝国の企みなんじゃないかと、疑いたくなってしまうのだった。
地図を更新します。
かなり大きな地図ですので、拡大縮小などを行って対応してくださいますよう、お願いいたします。
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ご報告:
書籍版ミリモス・サーガ。発売日が延期となりました。
私の執筆が遅いから、ではなく、コロナウイルスによる影響です。
おのれ、コロナめ!
改めて、発売日は【6月10日】の予定となりました!
でも、コロナの影響が抜けないと、また延期になるかもしれないと知らせが……
ともあれ、楽しみに待ってくださる方がたには申し訳ない決定ですが、ご了承くださいませ。