三百二十二話 ホネスと結婚
戦後の調整が大まかに終わり、草取り以外の畑仕事がなくなったころ、俺はホネスと結婚式を挙げた。
場所はノネッテ本国の、ホネスの生まれ故郷の小さな村。
俺とホネスは、豆の茎の繊維で作った民族衣装に着替え、二人並んで上座に座らされてる。
「「「おめでとう!」」」
「ありがとうね、みんな」
ホネスは満面の笑みで、結婚式に集まった人たちに応えつつ、談笑している。
どうやら村全体が顔馴染みのような間柄らしく、ほぼ全ての村人がお祝いに駆けつけてくれているようだ。
これほどの村人が集まれば、ホネスの昔の恋人や片思いをしていた相手が現れそうなもの。しかし、ホネスは十三歳から兵士になって村を離れたこともあり、そういう手合いは現れたりはしないようだった。
楽しそうにホネスが会話をしている一方で、俺は村の男性連中と酒を酌み交わしていた。
「ほら、王子様。次の杯ですよ。さあ、ぐっと、ぐっと!」
「貰います。そっちも、ぐっと、ぐっと」
お互いに掛け声を言い合い、木杯の中身を煽り飲む。
今世では酒は嗜んでこなかったことと、前世では見たことがなかった豆から作った独特な酒の味もあって、一杯飲み干すのに苦労する。
でもまあ、花婿が酔いつぶれるまで飲ませることが、この村での仕来りというのだから、飲まなきゃいけない。
それでも、どうしてこんな仕来りができたのかと、つい考えてしまいたいくなる。
「さあ、王子様。つぎですよ、つぎぃ!」
「はいはい。どうも、ありがとう」
お互いに次の酒を飲み干すと、俺の相手をしてくれていた中年の男性の赤ら顔が青くなった。
「うぅぷ。し、しつれい……」
酒量の限界を迎えたらしく、口を押えて式場の外へと向かっていった。
それを待ってましたと、また別の男性が酒を携えて俺のところへとやってきた。
「王子様は、まだまだ元気なようですね。この調子で、この村の酒を飲み干しちゃってください」
「ありがとう。あなたも俺に付き合って、沢山飲んでくださいね」
二人で、結構なハイペースで酒を飲んでいき、十数分の後に俺の相手が別の村人と交代となった。
かなりの数の杯を空けているのに、俺が平然としていられるのには、もちろん理由がある。
それは、神聖術で身体機能を向上させて、アルコールの分解を促進させているから。
酒を飲んで十秒ほどは、アルコールの影響で頭がくらっとする。
でも、その時間を過ぎたら、元の調子になる。
もちろん、神聖術を解けば酒に酔うことができるので、ある程度の数の村人と飲み交わしたら、酒に酔うようにするつもりだ。
さっきの村人は『村の酒を全部飲め』と言っていたけど、酒も村の大事な備蓄だ。全部飲みほしちゃったら、悪いしね。
村での結婚式が終わり、俺とホネスは村で一泊することになった。
寝泊まりする場所は、村長宅の客間。
場所を貸してくれた村長一家はというと、新婚の俺たちを配慮して同じ村の親戚の家に行ってくれた。
俺は村長宅の客間に入り、伝統衣装を脱いで、身軽な格好になる。
「あ~~……」
酒に酔った体で椅子に座ったところ、自然と呻き声が出てしまった。
正体を失わない程度に酔いは調整したはずだけど、俺は自分の予想よりも酔っているのかもしれない。
「んむぅ~~~……」
神聖術で酔いを失くそうかどうか悩んでいると、軽装に着替えたホネスが俺の腕を引っ張ってベッドに誘導した。
「ほら、センパイ。唸ってないで、横になってくださいよっと」
ホネスに導かれるままにベッドに座り、そのまま横倒しで寝転がった。
ううむっ、こうして横になると、自分が酔っていることが強く分かる。
しかし、今から寝るところだし、神聖術は使わなくても良いか。
いや、でも今寝たら明日二日酔いになるかもだし……。
寄った頭でウダウダ考えていると、ホネスが水が入った杯を俺の口元に当ててきた。
「ほら、センパイ。お酒にはお水です。ほら、ゆっくりと」
「んっ……んっ……」
ホネスに世話されながら、俺は水を飲んでいく。
一杯分飲み終えたところで、ホネスは俺の体を動かして、ベッドの中央に配置し直した。
そんな、されるがままの俺を見て、ホネスはなぜか嬉しそうに笑っている。
「いつもは何でもしちゃうセンパイが、今日は赤ちゃんみたいにやられるがままなのって、可愛いような気がする」
「……男に可愛いは、褒め言葉じゃない」
「はい。分かって、言ったんです」
ホネスは微笑み顔のまま、俺の横に寝転がると、ギュッと抱き着いてきた。
「今日だけは、わたしがセンパイを独り占めですよ」
甘えて、俺の胸元におでこをくっつけてきた。
俺は酔って動きが鈍い腕を動かし、ホネスの頭を抱き寄せて、そして撫でてやった。
「そういうこと、酔っていても自然とできるあたり、センパイってタラシですよね」
「嫌なら、止めるぞ?」
「イヤとは言ってないですしー」
ホネスは甘えながら、腕を俺の服の内側に入れてきた。
体を撫でてくる手を、俺は掴んで止める。
「ここは人の家だぞ」
「結婚式の夜ですよ?」
「いや、流石にダメだろ」
「むぅ。センパイの意気地なし」
「自宅に帰ったら、ちゃんと相手するから。今日はダメ」
俺は服の内からホネスの腕を引っ張りだすと、いたずらできないように、ホネスの腕と体を共に抱え込んだ。
じたばたと暴れるけど、大人の体つきになったうえに鍛えている俺の腕力から、ホネスが逃げられるはずもない。
このまま俺は、ホネスを抱き抱えたまま、眠りに落ちていったのだった。
最後、ホネスが痴女っぽくなってますが、これはホネスの村で結婚式に花婿が大量の酒を飲まされる風習に関連した理由があってのことです。
ちょっとぼやかして述べます。
酔って前後不覚になった花婿を、花嫁は甲斐甲斐しく世話をします。
着替えさせ、床を整え、そして一緒のベッドで。
その際、花婿は酔って体が動かないので、花嫁のやりたいように急所を握ったり分からせたりできます。
翌朝。
花婿が「酔って覚えてない」とでも言おうものなら、それも弱みとして握ります。
花婿が二日酔いで苦しんでいたら、特製の酔い覚ましを作ることで、彼の気持ちと胃袋を掴みます。
以上のことから、結婚式の後でそう行為ことをやることが、この村では普通なんですね。