二百二十一話 状況が変われば立場も変わる
小国同士の連合が出来つつあるという話だけど、いますぐにノネッテ国に関わる話でもない。
それでも来る小国連合との戦いに備える必要はあるので、物資の増産と武装の研究開発の指示は出しておこう。
それとフンセロイアの話にあった通り、ハータウト国とペレセ国にスポザート国は、自分から国体を解体してノネッテ国に組み込まれる道を選んだ。
もちろん、それぞれの国に思惑あってのこと。
ハータウト国は、属国という立ち場と経済でどっぷりとノネッテ国に依存している状況。国を維持することと領地に堕ちた状態を天秤にかけ、どっちが有利になるかを判断した。
ペレセ国は国土の荒廃が酷く、国民の気持ちもペレセ王家から離れていて、新王が即位したと知らせても歓迎するどころか反乱の機運があるだけだったから。
スポザート国は、ノネッテ国が国土を拡大していく姿を見て、独立独歩を貫くよりも今の内に配下になって追た方が、後々の立場が良くなるのではという打算からだ。
もっとも、それぞれの国が配下に入った理由の一番の理由は、国から地域と名前は変わっても、王家や役人は役職の続投が約束されているからだろうな。
「俺の面倒くさがりが、こんなところで生きてくるなんてな」
俺は攻め落とした土地の運営を早く立て直したかったから、運営に携わっていた役人を雇用し続けた。
それがなぜか、ノネッテ国の基本方針として取り入れられているようなのだ。
先々で問題が起きそうな予感があるけど、それは起きたときに考えればいいかな。
各地の状況を見て、ノネッテ国全体の物資の流通や経済状況を整えていく。
本来なら、これはチョレックス王の仕事なんだろうけど、ノネッテ国の国土の真ん中にロッチャ地域がある関係で、物流の仕事が俺に回されている。
まあ、物流が生まれれば経済活動が活発になるから、ロッチャ国にお金が多く回ってくるから、仕事した分だけ利益が上がるからいいんだけどね。
そんなことを想いながら仕事をしていると、役人が執務室に入ってきた。
「ミリモス王子。お客様です」
「客? 今日面会予定がある人はいなかったはずだけど?」
「それがその。ドゥエレファ・アナローギとソレリーナ・アナローギと名乗る方々でして」
役人が困惑している理由に納得がいった。ソレリーナが自己紹介で、俺の姉だと名乗ったのだろうな。
「ソレリーナ『姉上』が来たのか。何の様だろう。連れてきて」
俺が姉であることを強調して言葉を放つと、役人は安心した様子で下がっていった。
それから程なくして、ドゥエレファとソレリーナが入ってきた。
俺は執務の手を止めて立ち上がり、二人を迎え入れる。
「ようこそ、遠路はるばるロッチャ地域に。お二人は相も変わらず、仲睦まじい様子ですね」
俺が掛けた言葉の通りに、二人は腕を組み合わせながら登場だ。
こちらの指摘に、ドゥエレファは気恥ずかしそうにするが、ソレリーナは当たり前という態度を崩さない。
「いやはや、仲良くさせてもらっています」
「ミリモス。私たちが仲違いするはずがないでしょう。それに仲が良さそうなのは、ミリモスも同じでしょう?」
ソレリーナが目を向ける先は、下腹のふくらみが見え始めたパルベラと、俺の隣で執務をしているホネス。
どうやら俺の情報を随時、ソレリーナは手に入れているようだな。
「妻と妻になる人ですからね、仲が良いに越したことはないでしょう。それで、姉上は今日はどうしてここに?」
話題転換で質問すると、ソレリーナは微笑みを向けてくる。
「ミリモスが、カヴァロ地域の領主に誰を据えるか困っていると耳にしました。一案で、帝国に留学中のガンテとカリノを呼び戻そうとすら考えているとか」
「それは案として出しただけで、結局は破棄しましたよ」
ガンテとカリノは帝国の暮らしが長くなっている。今ではすっかり、親帝国派だ。
そんな帝国に有利に動くと分かっている人物を領主に推薦するほど、俺は馬鹿じゃない。
「カヴァロ地域の領主の話を持ち掛けてくるということは、その充てを推薦しにでも来たんですか?」
俺が半ば冗談で告げると、ソレリーナは微笑みを強くする。
「その通りよ。その領主の任、私たちではどうかしら?」
ソレリーナの言葉に、俺ではなく、彼女の夫であるドゥエレファが驚いていた。
「ソ、ソレリーナ。初めて聞いたよ、そんな話!」
「あら。貴方の手腕なら、領主の仕事ぐらいできると思うわよ?」
「いやいや、出来る出来ないの話じゃなくてだね」
狼狽えるドゥエレファとは違い、俺はその提案に魅力を感じていた。
ソレリーナは、長姉ということもあって、お姫様としてしっかりと教育を受けている。その知性は、長兄のフッテーロを越えていて、一時期は次王はソレリーナ女王だと評価されたものだった。まあ当の本人がドゥエレファとの恋に落ち、国を出奔して押しかけ女房に収まったから、実現する芽はなくなったけどね。
ともあれ、そんな経歴があるから、ソレリーナが領主ないしはその夫人となって辣腕を振るってくれるのは、俺としては大賛成だった。
ドゥエレファにしても、外交官として派遣されるほどに有能な人物だ。こちらも領主としての敵性は高いはずだ。
考えれば考えるほど、領主として適任な夫婦だった。
「ソレリーナ姉上。カヴァロ地域は反乱を収めたばかりで治安が不安定だし、大貴族はそのまま運営を続けている難しい土地だよ。それでも領主をしたいの?」
「ええ、構いません。それぐらい骨がある方が、治めていて楽しいでしょう」
女傑のソレリーナらしい意見に、俺は苦笑いするしかなかった。
「分かった。チョレックス王に推薦状を書くから、後は姉上と父上で話し合ってほしい」
「ふふっ。ミリモスの推薦状があれば、お父様は二つ返事で受け入れるわね」
それほど強い効力があるとは思えないけど、推薦状をスラスラと書いていく。
文章を書き終えるまでの繋ぎに、俺が気になったことをソレリーナに聞いてみることにした。
「それにしても、よくスポザート国から出ようと思いましたね。何度父上が要請しても、国に戻っては来なかったのに」
「事情が変わったのです。スポザートが国から地域と変わったことで、夫の立場が微妙になってしまったの」
「ドゥエレファ殿は外交官だから、国じゃなくなったことで仕事がなくなったとかですか?」
「いいえ。スポザート地域の新たな主家となったノネッテ王族。私がその出身だからだわ」
分かりずらい言い回しだったけど、俺はちょっと考えて理解できた。
要は、運営の指揮系統の中にソレリーナがいると支障が出るんだ。
ソレリーナは、降嫁して王位継承権はなくなったけど、ノネッテ王族であることに変わりはない。
では、ノネッテ国の一部地域の領主とノネッテ王族では、どちらの立場が上だろう。
俺が考えるに、両者は良くて同格、ないしはソレリーナの方が一段高い位置に置かれるのではないだろうか。
そんな相手がいたら、領主は仕事をし難くなる。
だからこそソレリーナは、厄介な事態になる前に、スポザート国がスポザート地域になるタイミングで、土地を離れる決心をしたんだろう。
次の転勤先に、新領地の領主を望む当たり、ソレリーナの思考回路は飛び抜けていると思うけどね。
「はい、推薦状ができましたよ」
「ありがとう、ミリモス。推薦してくれたこと、カヴァロ地域の平定と発展で返すと約束するわ」
「お願いします。いまカヴァロ地域に駐留している部隊は、しばらくそのままにする予定なので、疲弊しない程度に使ってくれていいですよ」
「あら、引き上げないってことは――内戦じゃなく、外からの攻撃の備えね」
「あくまで、現段階では用心のためですけどね」
小国連合のことを出してはいないけど、なんとなくソレリーナは気付いたのではないかという感じがした。
「わかったわ。争いになったなら、駐留部隊で撃退すればいいわね」
「置いてある将軍は優秀なので、任せてしまえばいいですよ」
「そこは私が見極めて、どうするか判断するわ」
俺が苦笑いで差し出した推薦状を、ソレリーナは満面の笑みで受け取る。
一方でドゥエレファは、会話に入れないまま転職先が決まったことに、諦め混じりの半笑いを浮かべていたのだった。
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