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二百十一話 カヴァロ国へ

 ゾーガノーズと調印して、これでペケェノ国との戦争状態は解除となった。

 俺とノネッテ国の軍隊は、もうペケェノ国にいる必要がなくなったので、国外へ撤収することにした。

 次の行き先は、俺を追ってペケェノ国に入ろうとしているはずの、ドゥルバ将軍と合流することだな。

 終戦したことを知らせるためと、行き違いにならないために、伝令を先に進発させておくとしよう。


 その道すがら、この部隊の千人長が俺に質問してきた。


「でも、終戦して良かったんですか?」

「どういう意味?」

「いえ。ペケェノ国の軍勢は、数は多くとも寄せ集め。オレたちが時間を稼いで、ドゥルバ将軍の来援を待てば、勝てた戦いじゃ?」


 千人長の言ったことは、一面に置いて正しい。

 戦争の勝利を至上とするなら、提案してきた方法が一番良かっただろう。

 けど、別に俺は戦争の勝敗に拘る必要はないと思っていた。


「ペケェノ国が残った方が、なにかと便利なんだよ」

「どんなところがですか?」

「仮にペケェノ国を占領したら、その統治はノネッテ国の仕事になるでしょ。現時点で、ペレセ国の支援と、ドゥルバ将軍が占領下カヴァロ国の支配に手が必要なんだ。ペケェノ国まで面倒は見切れないよ」

「そんな仕事を増やすぐらいなら、お金を貰って解決した方が楽なわけですね」

「復興と統治にお金がかかるからね。ペケェノ国がそれを支払ってくれるというのなら、大助かりだよ」


 それに、と俺は続ける。


「ノネッテ国には、実は大きな問題が一つある」

「大きなというからには、重大事だと思いますが、思いつきませんね?」

「単純な話だよ。ノネッテ国は多くの土地が、帝国と接しているってこと」

「ウチと帝国の仲は良いと思ってましたが?」

「いま良くても、将来で良好が続いているかはわからないだろ」


 帝国は、大陸を二分する大国の片方。そこと広い範囲で国土を接している小国は、現時点ではノネッテ国ぐらいしかないんだしね。


「帝国に対する緩衝地帯がないから、もし帝国が全面攻勢をかけてきたら、ノネッテ国はアンビトース地域しか残せない状況だ」

「なるほど。そのもしものときのために、ペケェノ国を緩衝地にしようというわけですね」

「そうすれば、ペレセ国とアンビトース地域とカヴァロ『地域』が残せる。まあ、帝国の武力を考えたら、ペケェノ国なんて紙の盾もいいところだろうけどね」


 それでも、無いよりはマシなはずだ。


「つまるところ、ペケェノ国を攻め滅ぼさなかったのは、純粋に残したほうが利点が多いから。敵のハッタリに臆したわけじゃないってことは、分かった?」

「それはもう。なるほど、全て支配すればいいというわけではないのですね」

「あくまで、ノネッテ国の状況に合っている方法ってだけだよ。帝国ぐらいの強国なら、支配しちゃったほうが楽だろうしね」


 帝国ほど、武力と資金と多種多様な魔導具があれば、周囲に敵なしだ。

 支配した土地に顕在する多少の脅威や住民の不満なんてものは、全て帝国流に塗りつぶすことができるだろう。


「とにもかくにも、ペケェノ国は残ることになったんだ。『過去のもし』を考えるよりも『未来のもし』だよ。これから統治作業で忙しくなりそうだ」

「忙しくなるのは、ミリモス王子だけでは?」

「……あー、書類作業が待ってるんだろうなー」


 もう何国もの支配と統治作業を行ってきたので、慣れた感があるのが、自分ながらに業が深いと思いそうになるのだった。



 ドゥルバ将軍とその部隊にカヴァロ国の国境付近で合流し、そのままカヴァロ国の首都へ。

 首都決戦を行ったのか、首都の外壁はボロボロで、内側の街並みにも破壊された痕が残っている。

 そして、この都に暮らす住民たちは、俺たちに恨みがましい目を向けてきている。特にドゥルバ将軍への視線は、かなり強い。


「随分と、嫌われたようだね」


 俺が問いかけると、ドゥルバ将軍は苦笑いした。


「魔導鎧の力に物をいわせて、半日で征服しましたので、カヴァロ国の民にとっては力を出し尽くしていないと考える者もいるようでして」

「民がそう思っているってことは、カヴァロ国の王家や、この国の運営を手伝っていた人もそう思っているんじゃない?」

「王家の方は、最後の一兵までと抵抗してきたので、首を跳ねましたから、分かりかねます。だが運営する貴族の方は、すり寄って来てます」

「貴族がすり寄ってくるって、面倒事にしか思えないんだけど……」


 なんて話をしていると、俺たちの前に人だかりが立ちはだかる。

 カヴァロ国の残党かと身構えたが、それは違うのだとすぐにわかった。

 俺たちの前に立つ人たちが、綺麗で豪華な服を着ていて、武器になりそうなものを一つも持っていなかったからだ。


「お待ちしておりました、ミリモス・ノネッテ王子。我々は、貴方様を歓迎いたします」


 代表者の一人が、愛想笑いを張り付けた顔で言ってきた。

 ドゥルバ将軍が俺に耳打ちする。


「あれが貴族連中の代表で、アリストロ・クレ・ティナウストスと名乗る、侯爵です」

「侯爵? 大公とか公爵とかじゃないんだ」

「大公や公爵は、王と共に戦って果てたか、自領へと逃げたかです。首都に残ってはいません」

「だから、次点の侯爵が代表になったってわけか」


 そして俺の目の前にいるアリストロ侯爵は、王と共に死ぬことを『選ばなかった』人物。

 つまるところ、国の存続より、自分の家や命を重んじる人物ということ。

 その他の面々も、爵位の違いはあれど、アリストロ侯爵と同じような人ばかりだろう。


「これはまた、面倒な会談になりそうだな」


 俺はカヴァロ国の貴族連中がどんなことを言ってくるかを予想しながら、アリストロ侯爵の案内に従って首都の道を進んでいったのだった。

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