ニ百十話 遅延中
道を行けば、ペケェノ国の民に止められる。
そんなことが続きに続き、俺たちの進行具合はとても遅々としたものになっていた。
何度も何度も同じことをされて、俺の部下である兵士たちも警戒を強めている。
「ミリモス王子。敵は、我々が民を虐げないことは分かったはず。なのに、なぜ続けてるんでしょうか?」
「時間稼ぎが主な目的だろうね。副次的に、俺たちが我慢できなくなって、民を傷つけることを待っているとかかな」
「時間を稼ぐということは、逆転の一手を打ってくると?」
「そうだろうね。けど、相手が打てる手は限られているよ」
俺は自分がペケェノ国の指揮官だったらと仮定して、ここから打てる逆転の手段を思考していく。
「カヴァロ国からの援軍は、ドゥルバ将軍たちがカヴァロ国の軍隊を蹴散らしちゃったから無理だね。騎士国を呼び込む手は、村人を活用することで使っているね。となると、帝国を呼び込む手段があるのかもね」
「どうやってでしょう?」
「帝国は、利があれば動くっていう、商人的な思考をする国家だよ。だから取引材料を出せばいい。一番楽なのは、国を売っちゃうことかな」
「我々から国を守るために、国を売るのは変じゃないので?」
「どっちがマシと考えるかだね。ノネッテ国に組み込まれるか、帝国の下に入るか、どっちがいいかで考えればいいんじゃないかな」
「ふーむ……。他に、ペケェノ国が取れる手段はないので?」
「そうだな。民を動かして俺たちを足止めしている間に、方々から予備役や傭兵を集めて、一大戦力を編成することかな。でも、これはこれで、問題がないわけじゃないんだよね」
「大軍団を編成するのは良い手なのでは?」
戦争は兵数が肝と言われている。
その部分だけを考えたら、大人数を集めることは、確かに悪いことじゃない。
でも、軍隊として考えると、人数が多いということは必ずしも良いことばかりじゃなかったりする。
「数ばっかり重視して傭兵や予備役を組み込むと、指揮系統に混乱が起きかねないんだよ。傭兵は自分本位に動くから命令に従わないことが多いし、予備役を正規兵のように扱おうとしても練度不足で思うように動いてくれなかったりするし」
「数が多くなればなったで、困難な部分が二人するわけなんですね」
感心してくれるところ悪いけど、こんなことは、兵法書を読んだだけの俺でも知っているような、用兵の初歩の初歩。
前線働きが主体な様子のペケェノ国の第一師団長のコウガンならともかく、第二師団長のゾーガノーズが用いてくるとは思えない。
なんていう俺の予想だったのだけど、先を偵察させていた兵が慌てた様子で戻ってきた。
「ミリモス王子、大変です! 前方に、大人数が集結しています!」
「……集結? 砦か何かの中に集まっているとか?」
「いいえ。平地に陣取っています。その周囲に柵や空堀などはありませんでした」
不可思議な報告を受けて、俺は全軍を停止させた。
そして俺は偵察兵と二人で、ペケェノ国の軍勢が集結しているという地点に近づいてみることにした。
俺の予想とは違う展開に、偵察兵が何か勘違いをしたのだろうと期待したのだけど、本当に大人数が集結していた。
しかも、俺がやってこないと思っていた、予備役や傭兵らしき人たちが人だかりの中に存在している。
「ええ~……」
俺は困惑しながら、神聖術で視力を強化し、敵集団の容態を観察する。
傭兵らしき装備がチグハグな人たちが最前に配置され、その後ろに正規兵らしき装備が整った人たちが陣形を作っている。
その正規兵の左右の端に、予備役らしき古びた装備を付けた人たちがいる。
兵たちの陣形の奥には、義勇兵だろうか、農具を持って木板の鎧を着た人たちの姿がある。
総勢は、二万人以上、三万人未満って感じで、半分以上が傭兵、予備役、義勇兵といった塩梅だった。
これはまた、動員できそうな人をかき集めました、って感じが強いな……。
数だけは凄いけど、あんな陣容で戦えると、本当に思っているんだろうか。
俺が、敵が破れかぶれになっているんじゃないか、という疑念を抱いていると、偵察兵が警告してきた。
「敵陣に動きがあります。何人かが離れ、こちらに向かってきているようです」
「――見えた。あれは、ゾーガノーズ。あとは交渉旗か」
ここでゾーガノーズが交渉に出てくるということは、武力衝突をする前に交渉が入るってことが決定したのだった。