二百八話 逆侵攻
ノネッテ国から来た大援軍は、カヴァロ国の軍を蹴散らした。生き残りのカヴァロ国の兵士たちは、とりものもとりあえず、カヴァロ国がある方向へと逃げいていく。
その戦いの光景を見てか、ペケェノ国もまた自国へと移動を開始する。まあ、こちらは俺との約定もあってのことだろうけどね。
戦勝したドゥルバ将軍は、潰走した敵を追ってカヴァロ国へ軍を向かわせる判断をして、すぐにこの場から離れていった。
「その際に、俺たちへのお土産に砦に置いていったのか、食料と魔導鎧十個か」
食料は、山の様にとはいかないまでも、何日か腹いっぱいに食べても余る量が貰えた。
約束だからと、一時的に奪われていたペレセ国の土地に住む人たちにも当面飢えずに済むぐらいは、食料を配ったらしいけど。よくもそれほどの食料物資を集めておいたものだ。って、その作業を命令してたのは、俺だったか。
「準備期間だけは、沢山あったからなぁ」
過去の作業を思い出しつつ、目を向けるのは十個の魔導鎧。
これらはどこかしら破損していて、満足に動かせなくなったもの。
行軍のお荷物になるからと、ドゥルバ将軍が老いていったわけだ。
「研究部謹製の応急修理の手引き書があるから、それで幾つかは直せるって話だけど」
戦力が増えることは良いことなので、人手に兵士たちを呼び集めて、早速修理してみることにした。
まずは破損部の確認から。
不具合の程度を調べて、応急修理で対応できるものか、研究部に送り返さないといけないものかで振り分ける。
「二つは簡単に直りそうだ。他の八つは『共食い修理』ってことになるね」
「ミリモス王子。その伴食いというものは、なんだ?」
「要するに、不具合がある部分を取り外して、他の鎧から無事な部分を移植するってことだよ」
俺は手引書に従って、兵士たちにも手伝ってもらい、魔導鎧の不具合のある部分を取り外していく。
そうして不具合のある魔導鎧を、片欠け状態にする。
ここから最小限の移植で、最も多くの鎧を復活させる組み合わせを考えていく。
「これの右腕と左足を移動させれば、二つ復活できるよね」
「いや。その鎧は胴体部分の傷が少ないんだ。逆に傷が多いこれとかこれから、その鎧の欠けた部分に移植した方がいいんじゃないか」
ああだこうだと意見をぶつけながら修理を続けていき、結果的に八つあった魔導鎧のうち三つを動作可能な状態に持って行けた。
こう書くと簡単に終わったように見えるけど、分解から移植修理までに、作業になれていないこともあって三日もかかっている。
「付け外しに時間がかかっちゃうことが難点だったけど、途中から解決策が見いだせてよかったよね」
「無事な魔導鎧で作業を補助するなんて、考え付いてもおかしくはなかったんだけどなぁ」
兵士たちとそんな会話をしていると、砦に早馬の伝令がやってきていた。
「ミリモス王子、喜んでください。ドゥルバ将軍が大勝しました。カヴァロ国の王都を占領しました!」
「えっ。三日しかたってないよ? 早馬での移動を考えたら、二日でカヴァロ国が降伏したっていうのか?」
「どうやらカヴァロ国は、ペレセ国の侵攻に大部分の戦力を集中させていたようでして。まともな抵抗ができなかったようです。それに砦や城に籠ろうと、こちらには魔導鎧による打撃力がありますので」
「あー、無理やり城門を破壊したところで、カヴァロ国が降参を申し出たわけだね」
「その件について、実はミリモス王子の噂も関係していまして」
「俺の噂って、どんな?」
「戦争に負けた際に大人しく下った国は、その王家には寛大な処置が下され、役職者はそのままの役で用いられるというもので」
言われてみれば、俺って占拠した国の王家に対して、悪辣な真似はしてこなかったな。役職者に関しても、どうせ俺が統治するわけじゃないからと、統治作業のし易さ優先で登用したままにしてきたな。
「要するに、カヴァロ国の統治者たちは、俺がそう動いてくれることを期待しているわけだ」
「はい。で、どういたしましょう」
「今回、俺はカヴァロ国の王家や役職者を直に見たわけじゃないからなぁ」
未来で怨恨が噴出するような、厄介の芽になりそうなら積んでおきたい。
けど、見極めはここからじゃできないし。
「どうするかは、ドゥルバ将軍に任せるよ」
「念のためにお聞きしますが、どう判断すればよいのでしょう?」
「そうだな。民にとって良い王様や役職者だったなら、とりあえず領地運営に携わらせていいかな」
「では悪い場合は、処断するわけですね」
「あとは――そうそう。ドゥルバ将軍への伝言で【カヴァロ国の沙汰がひと段落ついたら、兵員をペケェノ国へ送るように』ってお願い」
「この際に、ペケェノ国も手に入れるお積りなのですね。了解です」
早馬の伝令は、水と食料を補給しtから、ドゥルバ将軍が待つカヴァロ国へと出発していった。
さて、俺とこの砦に駐留した兵士たちも、この三日間で十分に休憩は取れた。
人員を引き連れて、ペケェノ国へと入るとしよう。