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閑話 第二師団の師団長は考える

 儂ことペケェノ国の第二師団の師団長ディヴィザ・ゾーガノーズは、ノネッテ国のミリモス王子との会談を終えた。

 終始理知的に話は進んで終わったものの、実りある話し合いとは言い難かった。


「大筋で儂らの負けが決まり、被害を最小限に食い止めるための会話であったからな」


 陣地に設置した天幕の中で、寝台に一人で横たわりながら愚痴をこぼす。

 目を閉じて考えることは、今回の戦いの流れ。その中で、儂らが勝つ流れがなかったかの探求である。


 帝国から魔導具の支援を受け、カヴァロ国と共にペレセ国を攻めたことに、間違いはなかった。

 瞬く間に領土を切り崩し、道中の村や町から食料を徴発しながら、更なる進撃をする。

 カヴァロ国の軍勢との連携も十全だった。

 どちらか片方が堅い砦に当たった際は、もう一方が素早く先へと侵攻することで、その砦を孤立させる。援軍なき籠城など自殺も同然。すぐに敵は砦を放棄して、後方へと逃れていった。そうして空になった砦を、楽々と落としていった。

 破竹の勢いのまま、ペレセ国の領土を半分奪い取った。

 その頃だっただろうか。ノネッテ国からの援軍が戦場に現れ、儂ら第二師団の進撃の速度が緩まったのは。

 厄介な敵の登場に、仕方なく第二師団がノネッテ国の軍勢を相手にし、儂は第一師団を先行させることにした。第一師団の師団長が主張したという理由もあるが、第一師団の方が攻め手が得意で素早い侵攻が可能と、儂は判断したからだ。

 儂の狙いは当たり、ペレセ国は滅亡まであと一歩まで迫っていたはずだった。

 しかし、ミリモス王子の登場と、ノネッテ国の不可思議な巨大な甲冑の登場により、儂ら第二師団は痛手を受けて後退を余儀なくされた。

 あの巨大甲冑の暴虐ぶりは、兵士が「帝国の兵を相手にしているようだ」と愚痴を言うほど。まともに戦って勝てる相手ではなかった。だからこそ、儂の後退策は最善とは言えないまでも、優善なものであったと自負できる。

 だが儂らという戦力を欠いたことで、戦線を押し込む力が弱まったことも事実。

 その結果、ペレセ国を滅亡させる前に、ノネッテ国からの大援軍が戦場に到着することとなった。

 彼の大援軍の物量と戦力は凄まじく、たった数日で戦線がペレセ国の元の国土の半分まで押し戻されてしまっている。

 その勢いはとどまることを知らず、また数日もしたら、ペレセ国の全土が奪還されてしまうと予想できた。 


 今までの戦いの流れを考えると、やはりノネッテ国の援軍の登場から、戦場の流れが変わったように思える。

 では、ノネッテ国がやってくる前に、戦争を決着できたかと考えると、それもまた難しいと言わざるを得なかった。


「儂らの進撃の速度は、目一杯だった。これ以上の無理はできなかっただろう」


 そう結論付け、別方向からノネッテ国の参入を阻むことはできなかったのかと考える。

 しかし、ペレセ国がノネッテ国に援軍を求めにいくことは想像できたが、それは山脈を越えての強行という考えの下でだった。

 山越えの行程は厳しい。例えノネッテ国が援軍を求められたとしても、大規模な軍隊を遣わすことは絶対に無理だ。無理に山越えなどさせようものなら、出立させた兵士の半数は山の雪の下に埋もれることになるに違いないのだから。

 そう考えていたからこそ、山に穴を開けて道を作るなど想像の埒外だった。

 いや。当初、ノネッテ国からの援軍が小規模なのを見て、山越えがどうにか可能な人員だけを送り、援軍は出したという建前を得たのだろうと、そう判断してしまったことが間違いだった。

 まさかまさか、山の穴を拡張する時間を確保するための先遣部隊とは、儂は見抜くことができなかった。


「仮に山に穴を開けるという発想ができていたら、援軍要請を止め得たのか」


 アンビトース国が健在だったのなら、彼の国をノネッテ国に攻め入らせることで、援軍を出す余裕をなくさせることはできたかもしれない。

 いや、そもそもアンビトース国が滅んだからこそ、援軍を要請する相手に選ばれるほどにノネッテ国が強大になったのだ。詮無い想像であるな。

 では、帝国に仲介を頼むなり、ペケェノ国からの特使が帝国領を通ってノネッテ国に入らせることはできたか。

 いや、これも難しいだろう。儂が想像するに、今回の戦いは帝国がノネッテ国に、ペレセ国とペケェノ国にカヴァロ国の土地を取らせるために仕組んだ戦いだからだ。


「想像というよりかは、被害妄想に近いが」


 証拠が全くないため、そう自嘲してしまう。

 だが、儂は直感で確信していた。この想像は合っているのだと。

 そして直感に従えば、この戦いを始めた瞬間から、ペケェノ国とカヴァロ国の負けは決まっていたも同然だったと分かる。


「なるほど。最初の最初から、川の流れを見誤っていたということか……」


 儂が結論をだしたところで、伝令が天幕に飛び入ってきた。


「報告します!」

「第一師団が近くまで来ているのだろう?」

「え、あ、はい。その通りです!」

「被害の状況は? あの師団長のことだ。半壊までに被害は押さえてあるのではないか?」

「えーっと、怪我人を含めて半壊ぐらいであると。そして」

「儂ら、第二師団も戦力に加わり、ノネッテ国の大援軍に当たれと伝言があるのだな?」

「……別の誰かから聞かれていたのですか?」

「いいや。戦況と第一師団の師団長の能力を考えれば、これぐらいの予想は可能だよ」


 さてさてと呟きながら、儂は体を寝台から起こす。

 第一師団の師団長。彼の直情的な性格を考えると、説得が大変だ。

 だがやらねば、ペケェノ国はノネッテ国に滅ぼされてしまうことになる。

 ここは口八丁を用いてでも、ペケェノ国の存続の道を得なければならない。仮に、同じ戦場で味方としたカヴァロ国を、ノネッテ国へ生贄に捧げることになったとしても。


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