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百八十三話 ロッチャ地域の成長具合

 経済が好調なことで、ロッチャ地域での商業活動もより活発化するようになった。


 街道が整備されたことと、農地の拡大で家畜用の食料も多く取れるようになったこと、ハータウト国とフェロニャ地域から森林地帯に住む野生の馬を輸入したこと。

 それらが合わさって、ロッチャ地域では辻馬車――前世で言うところの路線バスのようなものを運行することができた。

 辻馬車によって、人と物の行き来がより速度を増し、領民の間では旅行が流行る結果を生んだ。

 旅行する人がいれば、その人たちを護衛する人、宿屋を経営する人、旅行者用の物品を販売開始する人が現れ、更なる産業が花開いた。

 新たな産業で経済がより潤い、潤った分を領民に還元すると、産業がより活発になって経済が回る。


 こうした連鎖して続く好景気は、領民の満足度に直結しているため、各地の平定につながっている。

 各地を管理している豪族連中も、自分の懐が黙っていても潤うからだろう、わざわざ俺に会いに来て恭順の意を示してきた。

 その豪族の中には、俺に娘を貰って欲しいと言ってきた人もいたけど、突っぱねている。


 もともと他に嫁を取る気はないけれど、ホネスと結婚を約束しているのに、戦争にいつなるか分からない状況だからと先延ばしにしてしまっている。

 ここで豪族相手に良い顔をしたいからと、演技であろうと迷うような様子を見せるわけにはいかない。


 さてさて、好景気は文化的な部分にもいい影響を与えている。

 ロッチャ地域の強みだった鍛冶技術は、好景気によって素材を潤沢に使えるようになったことで、技術的な成長を遂げている。

 金回りがよくなって鍛冶師に人を雇う余裕が生まれたことで、多くの弟子が働くようになり、鉱山夫になっていた鍛冶師も元職に戻って働くようになった。

 職人が多くなったことで、各々が差別化を自然と図るようになり、多様化が生じる結果に繋がっている。

 それは鍛冶職人だけでなく他の業種の職人でも同様の状況で、数年前に帝国に経済的に滅ぼされそうだったことなんて嘘のような状況だ。


 こうした鍛冶技術の向上は、俺が抱えている魔法の研究部にも影響を与えている。

 魔法を生じさせることができる模様をつけた鋼鉄――『魔鋼』は、言わば魔法と鍛冶技術の結晶。鍛冶の巧みさが上がれば、その分だけ魔鋼の制作技術が上がることは当たり前のこと。

 経済的に好調なので、予算もたっぷり渡しているので、研究開発も異様なスピードで進ませることもできた結果、多数の試作の魔導具を作ることができた。

 現在では、試作品の中から効果的なものだけ選別して改善改良ブラッシュアップし、試用して見ている段階に入っている。その中でも軍務関係については、いつ他国との戦争に入ってもいいようにと、優先的に武器や防具の試作品を回して使い心地や問題点の意見を集めて順次改良し、軍隊の戦闘力は格段に向上していっている。

 現在のロッチャ軍の強さは、もしも俺が他の小国の王でロッチャ地域に攻め入らなきゃいけない状況になったとしたら、どう頭を悩ませても勝ち目が見えないぐらいだ。せいぜいが、将軍相手に一騎打ちを連続して行うことで進軍を遅ら続けて兵糧攻めにするか、単独で侵入して領主や王を相手に決闘を挑んで撃破するぐらいしか、勝ち目がないだろう。

 自分の手勢ながら、末恐ろしい軍隊になったもんだと、ちょっと背中が寒くなる思いだ。


 そうそう、研究部といえば。

 研究を続けていた『魔導鎧』も、実戦で使える程度に形になっていたな。

 理由は、最近に鍛冶場からの要請で帝国から輸入した、魔力で上下に動作する機械のような大型ハンマー。好景気によって大量の鉄鋼製品が売れるようになり、その数を賄うには必ず必要になるからと要望がって、領地の予算を工面して作った大枚を叩いて購入したもの。

 鍛冶師のような、魔法使いじゃないものが持つ魔力でも、この魔導具は十全に働いてくれる。

 その仕組みに研究部が興味を持ち、解析してみたところ『魔導鎧』に転用可能な技術が見つかったのだという。研究部の連中から話も聞いたし報告書も貰ったけど、技術的な理解までには至れず、なんとなく魔法で油を流動させてシリンダーを動かす『油圧式』らしいとだけ分かった。

 研究部の報告を聞きながら、こうして軍事転用が可能な魔導具を、金を払ったとはいえ、よく帝国が渡してくれたなと思った。けど、これもまたフンセロイアの仕込みなんだろうな。ロッチャ地域が発展しなきゃ、ノネッテ国が第三の大国に成れる道はないんだし。

 ともかく、この機構を流用することで魔導鎧は完成に一先ずの完成に至ったわけだった。




 こうした、二年間に成長した諸々のことを思い出してみて、他国と戦争をする準備は整っていることを自覚した。


「他国との戦争なんて、起こさない方が良いに決まってはいるんだけど……」


 帝国の企みが入っている時点で、その望みは薄いだろうな。

 俺がつい呟いた愚痴を聞きつけたように、執務室に伝令が入ってきた。


「ミリモス王子に報告します!」


 伝令の口から、先ほどファミリスから伝えられたのと同じ内容が、ノネッテ本国からの知らせという形で語られた。


「加えて、その西の山脈を掘り抜いてきた者の代表者はチョレックス王と会談し、戦争ではなく国交を結ぼうとしているようです」

「へぇ、それは良い知らせだ」


 先ほども思ったけど、戦争にならないに越したことはない。


「その新たに国交を得たいという国は、何という名前なんだ?」

「代表者は『ペレセ国』と、語ったそうです」








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― 新着の感想 ―
[一言] 好景気によって大量の鉄鋼製品が売れるようになり、その数を賄うには必ず必要になるからと要望がって、領地の予算を工面して作った大枚を叩いて購入したもの。 「要望がって」 → 「要望があって」…
[良い点]  二大国の緊張状態、という世界観。  国外勢力が愚かすぎたり、または一筋縄にいかない賢さがあったり、良くも悪くも主人公の「ままならない」環境。だからこそミリモスの頑張りが光っています。  …
[良い点] 案外にジヴェルデさんとアテンツァさんも主人公さんにしっかり好意を持てる様に成りましたね!
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