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百八十話 ノネッテ国の舵の向く先

 俺が謁見の間に入るや、チョレックス王が早速切り出してきた。


「フンセロイア帝国一等執政官と会談を行ったな」

「はい。帝国は、ノネッテ国を第三の大国にしたいという思惑があるようです」


 俺の返答に、チョレックス王が頭痛を堪えるような格好になった。


「帝国という強大な国が、我が国が領土を広げることを手助けしてくれる。国主としては歓迎するべきなのだろうがな……」


 煮え切らない口調から察するに、もともと国土拡大の野望を持っていなかったチョレックス王には、有難迷惑な話なんだろうな。

 正直言って俺も、特に国土的な野心はないし、戦争なんて懲り懲りなので、帝国の要望に応えたくはない。


「帝国が何か言ってこようと、隣接する領土は帝国領だけになっている現在。実行不可能だと突っぱねればいいのではありませんか?」

「ところが、そう言ってはいられないのだ」

「そうなんですか?」

「帝国が、我が国の左側にある山脈に、他国へ通じる穴を開ける計画をしているからだ」

「なら、その計画を遅らせれば――」

「違う。ノネッテ国側から開けるのではない。その逆なのだ」 


 俺はチョレックス王の返答を疑問に思いかけたところで、遅れて理解した。

 つまり帝国がノネッテ国と山脈を挟んで隣にある国に働きかけて、その国がノネッテ国に侵攻するように仕向けるのだろう。

 そしてノネッテ国は、侵攻の反撃という大義名分を得て、その国を攻め落とすことができるようになるわけだ。


「そうフンセロイア殿がチョレックス王に語ったということは、既に実行に移していると考えた方が良いでしょうね」

「であろうな。だからこそ、悩みが深くなるのだ」


 既に計画が動き出しているのなら、ノネッテ国は乗り切るしか生き残る道はない。

 今後の展開に憂鬱を感じ、俺は溜息をつく。チョレックス王も顔色が鈍くなっている。

 そんな中、宰相であるアヴコロ公爵だけは普通の表情――いや、呆れを通り越して普通になってしまった顔をしていた。


「帝国の要望を叶えなければ、逆にノネッテ国が滅ぶことになるのです。悩むだけ無駄というもの。同じ思い悩むのならば、次なる戦争に勝てるように知恵を尽くした方がよろしいのでは?」

「道理ではあるが、戦争に勝つために取れる手段は、我には一つしかあるまいよ」


 チョレックス王の視線が、再び俺へと注がれる。

 なにか嫌な予感がする。

 しかし、俺は何と言ってチョレックス王の発言を止めたらいいか迷い、その間に会話が先に進んでしまう。


「ミリモス。お前を『王権代理人』に指名する」


 聞き慣れない単語に、俺はオウム返しで問い返す。


「……王権代理人とは?」

「言うなれば、王に代わって王の権利を行使できる者のことだ。宰相や王太子と同列の権限があると思ってくれていい」

「そんな!」


 俺が驚いて抗議しようとするが、チョレックス王に止められた。


「我が国に、戦争を主導して勝てる人材は、ミリモスしかおらん。その手腕を十全に振るうためには、王権を存分に使わせることが最上なのだ」

「本来なら王太子に指名することが最上なのですが、ミリモス王子の上には『二人』の上位継承権を持つ王子がいるため、混乱を避ける措置と思ってください」


 アヴコロ公爵の補足説明の中に、おやっと思った点があった。


「二人ってことは、もしかしてサルカジモ兄上の王位継承権は?」

「此度の件の咎により、剥奪となった。慣例に従い、民の身分に落とすことになる――そのハズだったのだがな」

「何か問題が?」

「スピスク・ノメラツペイクは帝国貴族の子女。それを平民に落とすとは何事かと、帝国側から警告が来たのだ」


 帝国にしてみたら、尊い血の一族の一員が小国の平民に落とされるなんて、屈辱もいいところだろう。


「でも、それ以上の罰はないのではありませんか?」

「帝国の言い分としては、貴族のまま名誉を守って死ぬか、帝国に身柄を移すかだ」

「それはサルカジモ兄上も一緒にですよね?」

「当然。帝国に移る判断をした場合、サルカジモは帝国の低級貴族になるのだそうだ」


 低級とはいえ帝国貴族だ。小国の王子のままでいるよりも、良い暮らしができそうな感じがする。

 自殺かどちらか選べというなら、答えは決まったようなものだろう。


「なら、スピスク義姉上とサルカジモ兄上を差し出す代わりに、ガンテとカリノの両姉上は帰国することになるんでしょうか?」

「いや。サルカジモは我が国の王族ではなくなるのだ。ガンテとカリノには人質として居続けてもらう」

「帝国からの人質が、こちらにいなくなる形になりますよ?」

「その点は問題ない。我が王城に、帝国貴族の子弟と子女のうちから二名が、行儀見習いに来ることになっている」


 その申し出を受けたのかと、俺は驚いてしまう。


「小国といえど、政治中枢ですよ。そこに帝国の息がかかったものを入れるだなんて」

「ははははっ。ミリモスが心配することはあるまいよ。なあ、アヴコロ公爵」

「そうですよ。こんな山間の小国に秘するべきことは、さほどありません。重要な部分は、ミリモスが全て抱えているのですから」


 アヴコロ公爵の変な言い回しを要約すると、俺が手掛けている事業や抱えている秘密は、現時点からチョレックス王に伝えなくても良いということだ。


「ああー、だから王権代理人に指名するって話に繋がるわけですね」


 俺の決定はチョレックス王の決定と道義と扱うことで、帝国に手の内を見せないようにできるわけか。

 ようやく話の全容が見えたところで、チョレックス王が少し申し訳なさそうに言ってくる。


「ミリモスには手間をかけることになるが、これも国のため。励んでほしい」

「まあ、もともと帝国に目をつけられたのは、ミリモスの活躍があったからですので。その責任を取ると考えれば、身が引き締まるのではありませんか?」


 アヴコロ公爵の棘のある言葉に、俺は苦笑いするだけで返答の言葉を紡げなかった。






 フンセロイアからの要望と、チョレックス王の認可の下、ノネッテ国は第三の大国を目指すことになった。

 その決定から、早くも二年が経った。


「戦争なんて、一つも起らないじゃないかーー!」


 俺はロッチャ地域の城にある執務室で、いつものように書類仕事をし終わった後で、そう叫んでしまったのだった。

最後時間が飛びましたが、打ちきりじゃありませんので、安心してください。

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