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百七十六話 脱走兵を殲滅

 キャレリアラ中尉に忠告された通りに、帝国兵が六人砦の中に入ってきた。

 俺はあらかじめノネッテ兵たちに伝えていた通りに、砦の奥まで彼らを誘引してから攻撃で足止めしたとこでノネッテ兵で包囲する作戦を実行。

 目論見はほぼ成功したのだけど、気は抜けない。

 なにせ相手は六人だけとはいっても、戦闘用の魔導具を持った帝国兵なのだから。


「大人しく帰ってくれれば、見逃すよ?」


 相手の神経を逆なでしないよう優しい口調で言ってみたのだけど、逆に帝国兵たちには侮られてしまったらしい。


「弱兵が五十人集まったところで、我らの敵ではない!」


 帝国兵たちの武器や防具が、薄っすらと輝き始める。彼らの装備に備わる魔法効果を発動したんだろうな。

 その武器の威力は、軍事演習の際に砦を破壊されたことで、十分に分かっている。

 だからだろう。ノネッテ兵たちは、及び腰とまではいかないまでも、少し気後れしたような雰囲気になってしまっている。

 ノネッテ兵たちには、俺がロッチャ地域から持ってきた研究部謹製の魔導具の盾や武器を渡してあるのだけど、効果は検証中の段階だし数も揃えられなかった。そのためノネッテ兵の大半は通常装備で、砦に死蔵されていた『串剣』を応急的に持たせているだけ。

 明らかに装備が劣っているから、帝国兵相手に尻込みしてしまうのは仕方がない。

 ここはやっぱり、俺が矢面に立つしかない。


「センティス。指揮は任せるよ」

「ミモ坊が暴れている間、あいつらを包囲して、隙があれば攻撃だよな。任せておけ」


 俺は魔導具の鉄盾を左手に、研究部で作ってもらった鋼の剣を右手に、帝国兵に近づいていく。先の一撃からすでに、自分の肉体を神聖術で強化し続けている。


「もう一度、言うよ。今帰るなら、不法侵入はなかったことにする。返答は?」


 一足で斬り込める位置で立ち止まって尋ねると、帝国兵の一人――キャレリアラ中尉の側にいた顔だ――がすぐに言い返してきた。


「もちろん――押し通る!」

「抜剣突撃!」


 帝国兵の中には斧や槍や弓を持っている人もいるから、『抜剣』じゃないじゃないのか。

 っていうツッコミを心の中でやりつつ、一塊になって突撃してくる六人の帝国兵に対処するため、俺も行動に入る。

 この近距離じゃ呪文を唱えている時間はない。

 ここは神聖術で大上がりしている膂力で、押し止めるしかない。


「行かせるか!」


 俺は左手の盾を構え、帝国兵の先頭にいる槍持ちに突っ込んだ。


「そんなチャチな盾など!」


 帝国兵はすぐに反応し、槍を突き出してくる。その穂先に魔法の光。軍事演習で砦の壁を穿った姿から考えると、貫通力強化の魔法だろう。

 こちらに迫る穂先を見て、俺は左腕の神聖術を解除。神聖術の影響がなくなって操作可能になった魔力を、左手にある魔導具の盾に流すことで障壁の魔法を発現させる。

 すぐさま半透明の板が盾の面の上に浮かび上がり、帝国兵の槍を受け止める。


「魔導具の盾だと!?」


 驚く帝国兵の声と、槍と盾が衝突した音を聞きつつ、俺は盾の具合を見る。

 槍の穂先は魔法の障壁は貫通しているが、盾にぶつかって止まっていた。

 恐らく、槍が発揮していた魔法の貫通効果は、盾の障壁を貫くことで失われてしまい、槍は素に近い状態で盾と打ちあったんだろうな。

 詳しい検証は後ですることにして、左腕の神聖術を再発動。再び魔力が操れなくなったことで盾の魔法障壁は消滅するけど、神聖術で増した膂力を使って盾を跳ね上げ、帝国兵が持つ槍を大きく弾いた。


「うおおおおお!?」


 弾かれた衝撃で、槍持ちの帝国兵が驚愕しながら仰け反る。しかし後続の帝国兵がその背を押して、ひっくり返ることは阻止していた。

 これで瞬間的に、二人の帝国兵が行動不能状態だ。

 そしていま俺を攻撃できるのは、槍持ちのやや後ろの左右に展開していた斧持ちと剣持ち、そして後方の弓持ちだ。

 まず斧持ちと剣持ちの二人が、俺に攻撃を仕掛けてくる。


「ミリモス王子!」

「覚悟!」


 的確に訓練された、洗練された身動きによる、申し分ない連携攻撃。剣に魔法効果が乗っている分を加味すれば、並みの兵士なら、この攻撃でやられてしまうことだろう。

 しかし俺にとっては、それほどでもない。


「遅いな!」


 日頃の訓練相手であるファミリスと比べたら、攻撃の迫力も速度もいま一つ。神聖術を発動中の俺なら、避けることは簡単だった。

 帝国兵の連携攻撃を後ろに一歩下がってやり過ごすと、今度は踏み込みながら盾で殴打して剣持ちを吹き飛ばし、鋼鉄の剣で斧持ちの腹部を横に斬る。

 鎧にも魔法効果が発動してあったようだけど、神聖術を剣に通していたこともあって、簡単に両断することができた。


「ぐおっ――」


 腹から零れる内臓を抱えるかのように、斧持ちは蹲るようにして膝を地面につく。

 吹き飛ばされた剣持ちが転がる音がして、直後に弓持ちから矢が俺に飛んできた。

 咄嗟に掲げた盾に矢が深々と突き刺さり、俺の眼前まで鏃が迫ったところで止まる。


「半引きじゃ、貫通しきれなかった!」

「だがこれで、盾の魔導は失わせた!」


 確かに矢を貫通させられたら、盾にある魔法を発現させるための模様はダメになってしまっているはずだ。

 俺の防具が一つ役立たずになったと見越してか、体勢を立て直した槍持ちを含めた帝国兵の四人が一気に攻撃しにきた。あわよくば、勢い任せに俺を突破しようという意図も見受けられる。


「意気込んでいるところ悪いけど、俺って普段は盾を使わないんだよ」


 研究部が作った盾の防御力が、帝国兵の武器というこの世界でトップの魔導具相手に通じるか、試してみたかったから使用していただけ。

 効果のほどが分かったからには、こだわって持っている必要はない。

 俺は矢が刺さったままの盾を、神聖術で強化しているうでで、帝国兵へ投げつける。狙いは、目の前にいる槍持ちだ。


「またか!」


 槍で俺が投げつけた盾を防いだようだけど、咄嗟のことで態勢が崩れてしまっている。

 その隙を見逃さず、俺は槍持ちへ剣を突き出す。兜で覆われていない部分の顔面に鋼鉄の剣の切っ先が突き入り、槍持ちは力を失ったように膝を曲げる。

 俺はその槍持ちの腹を蹴りつけながら、剣を顔面から引き抜く。後続の帝国兵がさっと身を避けたため、蹴り飛ばした槍持ちで態勢を崩すことができなかった。


「連携は、流石の練度だけど」


 先の軍事演習で分かっていたけど、帝国兵の強みは魔導具と数を生かした連携だ。

 神聖術を使用している俺でも、ファミリスとの訓練がなければ負けていたと思わせるほどに、帝国兵の動きは機敏で洗練されている。


 しかしその性質上、数を減らせば減らすだけ、帝国兵の脅威度は下がるもの。

 いま俺が倒した帝国兵の数は、倒れたまま起き上がってこない剣持ちも含めれば、剣持ちが二人と弓持ちが一人の計三人。

 人数が半減しているのなら、帝国兵たちの脅威度も半分以下まで落ち込む計算となる。


「それに、魔導具を使っても肉体的に強くなるわけじゃないから、攻撃してくる速さは普通だしね!」


 目がくらむような速さで繰り出されるファミリスの斬撃に比べたら、帝国兵たちの動きなんて止まっているも同然。

 唯一警戒すべきは、もの凄い速さで矢を放ってくる弓持ちだったけど、いま俺が斬り倒したので脅威ではなくなった。

 残るは二人。

 すると片方が、俺につばぜり合いを仕掛けてきた。


「ミリモス王子は食い止めます! だから早く!」

「頼んだ!」


 もう片方――キャレリアラ中尉の側近だった兵が、俺の横を通り過ぎて、砦の外へでるルートを走り始める。


「待て――って、つばぜり合いで吹っ飛ばせない!?」

「こっちだって、騎士国相手の訓練はやっている! 神聖術を使う相手と競り合う方法はあるんだ!」


 俺が力任せに吹っ飛ばそうすると、帝国兵は巧みに力を逃がしてくる。ならと剣を引こうとすると、今度は体ごと刃を押し付けにくる。

 まるでダンスや柔道の組手をやっているかのように、帝国兵が離れない。

 このままでは、もう一人に砦を突破されかねない。

 そんな危惧は、センティスの大声で払しょくされることになる。


「退け退け! 退けば怪我をせずに――」

「行かせるか!」


 武器を振りながら突破しようとする帝国兵に、センティスが斜め横から棒状の何か――剣を鞘ごと投げつけた。鞘入りの剣は帝国兵の動かす足と足の間に入り込み、その動きを阻害させる。


「――ぐおあ!?」


 帝国兵は足がもつれて倒れ、走る勢いのままに地面を転がった。

 しかしそこは訓練された帝国兵。すぐに立ち上がって疾駆を再開しようとする。

 その顔面を、走り寄ったセンティスが蹴り飛ばす。


「いまだ! 集まれ、お前ら!」


 センティスの呼びかけに応じたノネッテ兵が十人ほど、再び地面に倒れた帝国兵へ殺到し、手にした剣や串剣で滅多刺しにする。魔導具の鎧の効果で、何回か刺突を耐えたようだったけれど、数の前に押し切られた形になった。


「さて、残るのは君だけだけど?」


 降参しないかと聞いてみたのだけど、俺とつばぜり合いをしている帝国兵の目は決死の意思を示していた。

 仕方がない。

 俺は左手を素早く剣から放すと、その手で普段から腰につけている騎士王家の家紋入りの短剣を引き抜き、帝国兵の腕を斬りつける。


「ぐっ――」


 痛みで帝国兵が巧みなつばぜり合いができなくなった瞬間、俺は右手で鋼鉄の剣を押し込みつつ、左手の短剣を剣の背に当ててグッと押し付ける。

 一度傾いた均衡を帝国兵は立て直すことができず、鋼鉄の剣の刃がその首筋に到達。そのままジリジリと首の肉が切り裂かれ始め、やがて頸動脈まで刃が達した。

 ぷしゅっと血が首の傷からしぶき、吹き出す血の量に比例して帝国兵の体から力が抜けていく。

 それから一分ほどで、帝国兵は顔面蒼白の虫の息になり、仰け反るようにして地面に倒れた。

 いまから首の傷を縫えば助かるかもしれないけど、この帝国兵は望まないだろう。

 俺は鋼鉄の剣で、帝国兵の首を両断して止めを刺した。

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