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百七十四話 軍事演習

 いま俺とノネッテ国の兵五十人は、砦の外壁の上部に集まっていた。それも外壁の左半分に集中するようにして。

 そして俺たちが一同に見ている先は、砦の外に布陣している帝国の兵たちの様子だ。

 俺は着々と砦を攻撃する準備を進めている帝国兵の姿を見て、それが魔法的にどういう意図があるかを観察していく。

 そんな中、俺の横に立っているセンティスが、呆れ口調で言ってくる。


「ミモ坊よ。以前に、この砦は帝国相手じゃ無力だって言ってたけどよぉ。なにも演習で壊させることはねえだろうよ」


 苦情は分かるけど、これはこれで必要なことなのだ。


「良し悪しは別にして、ノネッテ国は帝国の隣国になっちゃっているんだ。それも広い地域に渡ってね」

「広い地域って部分は、ミモ坊が考えなしに攻め入って領地を広げちまったのがいけねえんじゃねえか?」

「仕方がないだろ。相手国を攻め落とさなきゃ、色々と拙い情勢だったんだから」


 俺はチャチャを入れないでくれと身振りして、この砦を帝国に壊させる理由の続きを話していく。


「とにかく、帝国の武力に怯えているままじゃ、ここまでの歴史で帝国に併呑されてきた国々と変わらない。生き残るための方策が必要なんだ」

「その方策を立てるために、帝国に砦を攻撃させて、その魔法の威力を体感しようってことか?」

「相手の詳しい脅威が分かれば、対抗するためにどれだけの力を得れば対抗できるかは分かるってもんでしょ」

「理屈はわかった。そのミモ坊の企みを、帝国は見抜いていねえのか?」


 センティスの疑問は、この演習は帝国だけが手の内を晒すようなものなのに、どうして乗ってきたのかということだろう。


「帝国にとっても、利点はあるんだ」

「どんなもんがだ?」

「あんな小部隊でこの砦を破壊できると証明すれば、帝国の全体兵力ならどれほどの脅威かを、こちらに知らしめることができるってことだよ」

「帝国にはどうあっても勝てそうにないと、こっちに分からたいってことか」


 センティスは「なるほど」と呟くと、呆れ顔をこちらに向けてくる。


「ってことはミモ坊は、震え上がるほどの帝国の脅威を知ったとしても、勝てるように考えようってことか。馬鹿じゃねえか?」


 失礼な評価に、俺は腹を立てる。

 しかしセンティスの言葉は止まらない。


「いいか。帝国兵の脅威度を実感で知らなくたって、帝国に敵う国になりたいなんて考えたのは、後にも先にも騎士国だけだ。その意味が分からないってのか」

「帝国に敵うような武力を手にすることが困難なことは、重々承知しているよ。だから目標の一歩目は、帝国に侮られない程度の力を得ることしようと思っているんだ」

「いやいや。それすら大変だろうが」

「そうかな?」


 とりあえず経済的には、砂漠地帯から得る白砂、日用品の鉄器、木工や硝子細工などで、ロッチャ地域――ひいてはノネッテ国の有用性はアピールできている。

 ここに武力的に一目置かれるような点が加われば、帝国としても無理に理由付けて攻めてくることは躊躇うんじゃないだろうか。


「センティスの懸念は分かった。そうなると、ノネッテ国が辿れる道は、帝国の属国や植民地になることだけど、それでいいのか?」

「帝国が征服した地域の住民をどう扱っているかを聞いた限りじゃ、良くはねえよ。でもよ、それが現実ってもんだろう」

「ふーん、勝てない相手には不満を飲み込んで尻尾を振るだなんてね。少し見ない間に、腰抜けになったもんだ」

「うっせえ。意地を通すためだけに無駄死にするなんてことは、御免なんだよ」


 そんな言い合いをしている間に、帝国の陣営から信号弾が撃ちあがった。あの色づいた光る玉は、正確に言うなら色をつけた光の魔法なのだけど、意味合い的には同じだ。

 帝国が動き出すぞと、俺とセンティスだけでなく、他の兵士たちも固唾を飲んで待つ。



 百秒ほど経って、帝国の攻撃が始まった。まずは魔法兵が前に出てきて、杖を手に呪文を唱え始めた。


「「――は火――――よ―――――」」


 呪文が完成すると、巨大な火の球が数十個現れ、標的に指定した砦の右半分に殺到した。

 着弾、爆発、そして耳をつんざく爆音と地揺れが起こる。


「うおおおおおぉぉ!?」

「なんだ、この威力!」


 初めて帝国の攻撃を間近で見て、ノネッテ国の兵士たちが肝を潰した様子で狼狽えている。

 センティスも冷や汗をかきながら外壁にある欄干の陰に隠れ、隙間から帝国の行動を見るようになる。

 一方で俺は、内心でビックリしながらも、帝国の戦闘方法を逃さず観察するため、欄干を掴みながら少し身を乗り出す。


「素早く二撃目。一斉投射で一ヶ所に集中しているな」


 俺が見識を呟いていると、外壁に再び火の球が殺到。爆音と地揺れ、そして外壁が少し崩れる物音が聞こえてきた。

 外壁材が転げ落ちる音が兵士たちにも聞こえたのだろう、真っ青な顔色で煙が立つ外壁の右半分に視線を向ける。


「まさか、こんなに早く!?」

「狼狽えるな! どうせ外壁の一層目が崩れただけだ!」


 にわかに騒がしくなったこちら側とは裏腹に、帝国の魔法攻撃は一時中断になっていた。

 俺が予想するに、この砦の外壁の硬さが予想以上だったのだろう。そして、より破壊力に優れた魔法を選別し直し、使用する用意をしているに違いない。

 この予想の通りに、帝国は別の魔法を使い始めた。

 

「「――――――水は濁流に――――――よ現れよ―――――」」


 風に乗ってかすかに聞こえてくる呪文。それが完成したとき、帝国軍の前に巨大な水球が一つ生まれていた。

 その大きさは、球なので正確な大きさじゃないけど、四方が二十メートルあるように見える。


「それぞれの魔法兵が作った水球を、一つにまとめた?」


 言いながら、俺は違うと直感する。

 直感だけど、魔法兵たちが共同して一つの魔法を使ったんだろう。

 さて、どうやるのか俺が知らない方法で生み出された魔法は、どれほどの威力があるのだろうか。

 待ちわびていると、水球の形が円錐状へと変化し、そのままの状態で矢のような速さで突っ込んできた。

 あの水量であの速さだと――


「――拙い。全員、伏せろ!」


 俺の号令に従い、兵士たちが外壁の上に伏せる。

 直後、衝突音と共に外壁が大きく揺れた。

 それもそうだろう。目算で百トンはありそうな水量が、矢のような速さで襲来した衝撃だ。詳しい威力を計算するのは難しいけど、途方もない威力であることは間違いない。

 そうして俺たちが揺れを堪えていると、外壁が倒壊する音が聞こえてきた。それも、完全崩落と分かるような、とても大きな音だった。

 一通りの音が止んだところで、俺たちは立ち上がり、外壁の右半分へと視線を向ける。

 すると外壁の高さは半分になっている。では上半分の外壁材はというと、水に塗れた状態で砦の内側に散乱していた。


「い、一撃で……」


 兵の絶句する言葉が聞こえた。

 すると、その声が引き金になったかのように、帝国の側から雄叫びが聞こえてきた。


「突撃ー!」


 キャレリアラ中尉の大音声での号令に合わせ、帝国兵たちが突撃してくる。普通、突撃というと戦列が崩れるものだけど、器械体操かのように縦横の列が揃っていた。

 帝国兵の練度の高さを思い知らされるが、驚きはこれだけでは終わらなかった。

 突撃してきた帝国兵が持つ、剣、盾、斧、槌、槍、弓に魔法の煌めき。そう、誰もが魔導具を手に携えているのだ。

 それが意味することは――


「はあああああああああああああああ!」


 弓から放たれた矢が、下半分だけ残った外壁に突き刺さる。それも、矢羽根だけを残すように深々と。


「おりゃあああああああああああああ!」


 投げられた槍が、豪速球のような速さで空を飛び、外壁に衝突して大きなひび割れを生む。


「どっせええええええええええええ!」


 肉薄した外壁に斧や槌を振るうと、まるで大岩を転がし当てられたかのような衝撃が走った。


「おっと、危ない危ない」


 頭に崩れ落ちてくる外壁材を、盾持ちが軽々と受け止める。盾の直前には半透明な板――バリヤーのようなものが浮かんでいる。


「斬り開く!」


 そして満を持して登場したキャレリアラ中尉が、大剣を大上段に構え、振り下ろす。

 すると、外壁に大きな切れ込みが入った。それも、大剣の剣身以上の幅と長さで。


「こ、これが、帝国の魔導具か……」

「は、はは。あっという間だ。この外壁が、こんな短時間で」


 あまりの衝撃的光景に、ノネッテの兵たちはショックを隠せていない。

 そして、ノネッテ兵の心が折れる音の代わりのように、標的にされた部分の外壁が完全に崩落し始めた音が聞こえてきたのだった。


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