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十五話 砦防衛・後編

 メンダシウム国の兵たちによる、砦への攻撃が始まった。

 敵の魔法使いたちが、大きな盾を構えた人の後ろに隠れながら、魔法を放ってくる。

 使ったのは火の球の魔法。火による延焼と、軽い爆発を伴う、少々危ない魔法だ。

 その火の球たちが砦の外壁に次々に衝突。連続して爆発が起こった。

 外壁近くで陣頭指揮を執ることになった俺は、すぐにダメージチェックを行うよう指示する。

 だが、修復の必要なしと報告が返ってくるだけだった。


「ずいぶんと頑丈だな」


 火の球の魔法は、爆発力を持っている。前世のダイナマイト並み――まではいかなくとも、石で組んでいる外壁にヒビを入れるぐらいは出来るはずだった。

 しかし返ってくるのは、ほぼ無傷という報告だけ。

 砦勤めの兵士たちが暇に飽かせて日々改良を加えていると聞いたけど、どれだけ頑丈にしたのだろうか。

 そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられた。


「数発の火の球なんぞで砕けるほど、ヤワな外壁じゃねえよ。心配すんなよ、ミモ坊」


 声がした方へ顔を向けると、センティスと新兵三人組が立っていた。

 彼らの手にはバケツがあり、その中には外壁修理に使われるという特殊な粘土らしきものが入っている。


「四人は外壁の修復班なんだ」

「アレクテムのジジイが「この三人のうち誰かを死なせたら、ヒラまで降格させるぞ」って脅しやがったからな。新兵どもを戦場に立たせるわけにはいかなくてな。かといって人手を遊ばせておく理由もないってんで、修復作業をすることになったわけだ」

「……命令違反を三人作っておいて、それだけの甘い沙汰なんだから、納得しとけばいいのに」

「うおっ、批判が痛烈だな。ま、今回の戦いがいつもより危ないとは、オレも思わなかったんだよ。知っていりゃ、前例のある行いだからって、連れて来やしなかったよ」


 新兵を砦の防衛線に連れてきた人の前例があるからこそ、アレクテムが下した処罰が軽かったわけか。

 俺が納得していると、センティスの後ろにいたホネスが口を開いた。


「ミリモスくんは、ここで何をしているの? やることがないなら、修復班に入らない?」


 気を使って言ってくれたんだろうけど、反応に困ってしまう。

 俺が何と言って断ろうかと頭を悩ませていると、他の新兵二人がチャチャを入れてきた。


「へんっ。こんなチビがいたって、背が足りなくて役に立たねえよ」

「外壁のヒビに手が届きそうにないもんなー」


 勝手な理屈を並べる二人に、センティスはニヤニヤと人が悪そうな笑顔を浮かべる。一方で、ホネスは怒りだした。


「身体的特徴を笑うなんて、信じられないほど考えなしね」

「うっせえよ、ムネ無し! お前のことを言ってんじゃねーんだから聞き流せよな!」

「胸が平ら過ぎて、男と勘違いされたんだよなー!」

「よくも気にしていることを言ってくれたわねー!」


 わーわーと騒ぎ始める三人を生暖かく見守ってから、俺はセンティスに鋭い視線を向ける。「ここは戦場だぞ」と「ちゃんと教育しろ」という意味を込めて。

 するとセンティスは「怖い怖い」と言いながら、肩をすくめてくる。


「怯えて動かないよりかは、マシってもんだぜ――っと、第二弾が弾着したな」


 火の球の魔法が壁に当たる音の後で、被害報告がやってくる。再び、修復の必要性はないという報告ばかりだ。

 それらを聞いて、センティスは顎に手をあてる。


「この分だと、修復作業が始められるまでかなりかかりそうだな。もしかしたら、向こうが攻撃に疲れて引き上げてからになるかもしれね」

「なに難しい顔しているんだか。センティスたちの仕事がないってことは、砦が安全ってことだから喜ぶべきところでしょ」

「だってよ、待機するしかねえってのは、暇なんだぜ」

「暇なことはいいことじゃないか」


 軽口を叩き合っている間に、敵の魔法の第三弾が着弾。各部からの報告は、相変わらず修復作業の必要なし。

 これほどあまりに被害がないと、状況を動かしようがない。

 これは長い戦いになりそうだ。




 メンダシウム国の戦い方は、半数が午前にやってきて正午に帰り、もう半数が午後から夕方まで攻撃するといったもの。

 人数を半分にわけたことで、進軍と撤退の効率が上がるだけでなく、兵士たちに十分に休憩を取らせることができる。

 一方で俺たちノネッテ国側はというと、砦の被害は少ないものの、一日中浴びせられる攻撃魔法に緊張しなけばならないうえに、夜は夜で外壁の修理をしなければならない。


「これは持久戦だな……」


 こちらが根を上げて攻撃に打って出るか、向こうが根を上げて撤退するかしか、状況が動かないように思えた。

 攻撃が始まって、二日目、三日目も同じ状況が続く。

 砦の鉄壁具合は物凄い。一日中爆発する火球の魔法を食らっても、ヒビが入るぐらいで持ちこたえてしまう。しかもそのヒビすら表面だけで、夜の修復作業であっさりと直ってしまう。


「実はな。砦の外壁は多重構造になってんだ。石を積んで作った三つ重ねの壁の間には、粘土や土を混ぜたものを詰めてある。粘土が吸収するからな、爆発力が後ろの壁に届かねえようにしてんだ」


 なんてセンティスが語っていたけど、その工夫が砦勤めの兵士たちの暇つぶしの結晶だというのだから、なにが役立つか分かったものじゃない。

 こんな調子で、もう十日も戦い続けている。

 あまりにも状況が動かず、そして砦の中は安全だからか、兵士たちの間に緩んだ空気が流れている。

 俺も敵の攻撃中だというのに欠伸あくびをしてしまったぐらいだ。

 俺は出てしまった欠伸を噛み殺しながら、気持ちを引き締めなければいけないと決意する。


「というわけで、アレクテム。いい方法ない?」

「まったく、唐突ですな。ですが、ワシもその必要があると思っておりました」


 アレクテムは腕組みし、考えながら提案してきた。


「まずは、兵たちにメンダシウム国を罵倒する声を出させることですな」

「それはまた、どうして?」

「罵倒することで、暇をつぶせますぞ。あとは向こうが怒って突撃したりしてくれば、状況に変化がつき、兵士たちの気持ちが引き締まりますな」

「他には?」

「メンダシウム国の陣地に焼き討ちをかけることですな。密集して野営をしておるので、火炎瓶を投げ込めば被害は甚大なものになるはずですぞ」

「それは良い作戦だ。でも、まだなにか案がありそうだね?」

「お見通しですな。あとは、メンダシウム国が山向こうに残している陣地を焼き払うことですな。先も言いましたが、山間の道にある野営地には場所の余裕がありませぬ。食糧や水などは、数日分だけ運び入れ、残りはその後方陣地に残している可能性が高いと見ます。そして後方の陣地では、砦に籠るワシらが襲ってくるとは思っておりますまい。容易く警戒を突破し、焼き払えるはずですぞ」


 どれも効果がありそうだ。どれか一つ選ぶのもいいけど――


「よし、その三つの作戦、全部やろう」

「全部、ですかの?」

「考えてみると、三つ同時にやった方が効果が高い気がするだよ」


 まず砦に残った兵士が罵倒することで、前線の敵兵を引き付ける。敵軍が砦に注目している間に、陣地襲撃部隊が砦裏からこっそりと発進して山を登り、山間の陣地と山向こうの陣地に対し、焼き討ちをする。見事に決まれば、メンダシウム国は大混乱になるだろう。

 問題は一時的に砦にいる兵の数が少なくなることだけど、砦の壁で魔法の攻撃を防ぎきれるるし、敵が怒って突撃してきてこようと、破城槌や高梯子を持ってないから砦の防御力で対処可能だ。

 そうアレクテムに説明しながら、気になることが浮かんだ。


「唯一の不安は、帝国製の杖が向こうに残っているかもしれない点だ。兵数が少ない間に、あの杖が前線に投入されたら、まずいことになるんだけど」

「敵軍が使用する機会はいくらでも御座いました。それでも使ってこないということは、あの杖は全て壊れていると思った方が良いのでは?」

「木製の鳥の目で何度確認しても、杖の存在が確認できないから、自分でも心配しすぎだとは思っているけどね。でも不安が残っているのなら、対応はしておかないといけないでしょ」

「そういうことであれば、帝国の杖を使用したときの火球魔法の破壊力を、ミリモス様が使ってみて試してはどうですかの。それを兵士たちに見せ、どれぐらいの数ならば外壁が耐えられるか、意見を募ればいいのではないですかな」

「良い考えだ! 早速やろう! そして一日持ちそうだと判明したら、さっきの三つの作戦を決行だ!」


 俺は現場を離れて保管してあった帝国の杖を持つ。そして外壁の防御力に明るい兵士を募ってから、魔法の威力を山肌へ試してみた。


「火種が火に、火は炎に、炎を球形へ。烈火の殻を纏い、内に破裂の風を孕み、飛べよ火球。エウスタウ・スペレリカ!」


 呪文が完成し、杖の先に火の球が現れる。

 メンダシウム国が使っているのと同じ魔法のはずだが、球の直径が四倍ほど大きい。

 俺が杖を山肌に向かって降ると、火球が発射された。意外なことに、飛ぶ速度は変わらないらしい。

 やがて着弾。そして大爆発。

 もうもうと砂煙が上がり、パラパラと小石が上から降ってくる。

 そのあまりの威力に、俺だけでなく兵士たちも、あんぐりと大口を開けてしまった。


「おいおい。冗談じゃねえぞ、この威力」


 修復部隊の一人であるセンティスが、俺が放った火球が着弾した場所に駆け寄り、手を振って砂煙を追い散らす。

 現れたのは、山肌に刻まれた大きな焦げ跡と亀裂。

 他の兵士たちもその場所に集まり、魔法の威力を検分していき、やがて一容に安堵した様子をみせた。


「見た目が派手だったがヒビが浅いところを見ると、爆発の力の大半は岩に跳ね返されているようだな。ヒビの部分に連続して食らうと崩落の危険が高まるが、これぐらいの威力で収まるなら、敵から一昼夜魔法を食らっても、外壁の一層目が壊れるだけで済むだろう」

「同意する。これから敵が使用してこようと、五日は壁は持つはずだと。懸念は扉への集中攻撃だが、こちらも対処する手はある」


 兵士たちの見解を聞き、俺はアレクテムに先ほどの三つの策を直ちに実行するように、命令を下すことにした。

 ちなみに、俺は襲撃隊には参加できず、砦でお留守番役になってしまったのだった。


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