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百六十三話 二本の剣――魔導の剣

 鋼鉄の剣は、騎士国の騎士であるファミリスも満足の出来栄えだった。


「じゃあ次は、魔導の剣だね」


 俺が水を向けると、魔導の剣を作った班の代表者が、前に進み出てきた。

 俺は彼が差し出してきた剣を受け取ると、金属製の柄を握って引っ張り、白木の鞘を取っ払う。


「へー。しっかりとした造りの鋼鉄の剣だけじゃなくて、いままで使ってきた帝国の魔導剣よりも、だいぶ細身だね」


 両側に刃のある真っ直ぐな剣身の長さは、先に試した鋼鉄の剣とほぼ同じ。

 だけど身幅は、鋼鉄の剣が指三本分に対して、魔導の剣は指二本分。厚さも、鋼鉄の剣の半分ほど。おそらく、細剣ってカテゴリーの剣だろう。

 そんな見定めをしながら魔導の剣を軽く持ち替えて感触を確かめていると、今までにない手応えが来た。

 軽く振るうと、剣身が揺れて戻ってくるような、独特の感触。


「これって、素材はバネ鋼?」

「おおー。流石はミリモス王子。お分かりになりましたか」


 あてずっぽうで言ったことを、大げさに喜ばれてしまって、少し恥ずかしい。


「でもバネ鋼って、普通の鋼鉄に比べて、強度が弱かったと思うけど。どうして剣の素材にしたわけ?」

「先頭の際に曲がったりヒビが入ったりで魔法の模様が断線しないよう、剣身の復元性を重視した結果ですよ」

「魔法の模様の保全を第一にすること自体はいいけどさ。武器の強度を下げたら、攻撃力も下がるんじゃない?」


 俺の疑問に、魔導剣の制作班の代表者はニヤリと笑う。


「ミリモス王子。お忘れですか。その剣は、魔導の剣。普通の剣と重視する点が違うのですよ」


 魔導剣はその名前の通りに、魔法の効果を刃に乗せることができる。

 その魔法分、普通の剣より強度が劣る素材を使っていても、攻撃力は変わらないと言いたいんだろうな。

 俺は試しに剣に魔力を流し、この剣の魔法を発動させてみた。そして薄っすらと光る剣身を振るって、魔法が発動する前と後の感触の違いを確認する。

 空気を斬り裂く音が鋭く鳴り、バネ鋼のたわみが小さくなっている。


「感覚としては――刃の切れ味が増すものと、剣自体を頑丈にする魔法かな?」

「その通りです。一番実用的なモノに絞って、剣に組み込みました」


 戦闘で使う武器として考えるなら、面白みがないほどに手堅い魔法の選択だな。身体に感じる魔力の消費も少なく、長い時間使うことができそうだ。

 でも、どうせ魔法の武器を作るんだから、もうちょっと遊び心があってもいいのにな。刃から炎がでたりとか、切った相手を凍らせるとか。いやまあ、そんな武器は使いどころが限定されちゃうし、魔力消費も大きいから、実戦向きじゃないんだろうけどさ。

 そんなことを考えながら剣を手元で操っていると、鍛冶師たちが標的を用意してくれた。鋼鉄の剣のときと同じく、丸太だ。


「さあ、ミリモス王子。試し切りをしてみてください」


 要望されるがままに、俺は丸太の前に立つ。

 そして魔導の剣の魔法効果を乗せたまま、丸太を斜め斬りにする。

 細身の剣で重量がないこと、素材がバネ鋼であることもあり、振り慣れない感触。

 だからだろう、狙いが少し外れてしまい、丸太を両断することができず、斬った痕も歪になってしまった。

 その結果に、魔導の剣の制作班からは溜息が、鋼鉄の剣の班からは勝ち誇ったような鼻息が聞こえてきた。


「いや。いまのは俺の振り方が悪かったんだよ」


 もう一度、今度は剣の特徴を把握し、それに見合った振り方をする。

 バネ鋼がたわまないように剣筋をしっかりと立てながら、腕じゃなくて手首を使ってコンパクトに振るう。剣身の根本から先端までの刃を全て使うようにして、丸太を斬りつける。

 するりと抵抗なく刃が丸太へと斬り入り、そして今度は丸太を両断することができた。

 俺は手早く剣を引き戻し、突きを放つ。

 剣の先端が丸太に突き刺さると、その勢いのままに反対側まで突き抜けた。


「うん。切れ味は最高だ。それに剣身を強化する魔法が入ったバネ鋼なら――」


 少し乱暴に扱っても壊れることはないだろう。

 そう考えた俺は、剣を丸太に突き入れたままの状態のまま、柄を握る自分の手を捻る。剣身が捻じれるようにたわみ、丸太から切り口が破断する音が鳴った。ここで俺は剣を横に振り抜いて、丸太の切り口に横一本の線を斬り加えた。

 もし丸太が人間だったのなら、突き開けられた傷口を大きく捻り開けられた上に、真横へ新たな傷をつけられたような感じになるだろう。

 こんな風に、使い方によっては極悪非道なことができそうだけど、問題は俺の戦い方と腕前だった。


「俺って動きながら攻撃することが多いから、こうも剣身がフニャフニャだと、まともに刃を立てることができそうにないんだよなぁ」


 突き限定で使うのなら、それなりに使うことはできるだろうけど、突きしか使わないのなら以前使った『串剣』で良いしね。

 そんな感想を呟いていると、ファミリスが興味深そうに魔導の剣を見ていることに気付いた。


「試してみる?」

「バネ鋼の剣とは、珍しいですから」


 ファミリスは魔導の剣を握ると、魔法の効果を発動させずに、素振りを始めた。

 振るうたびに剣身は揺れ動いているのだけど、不思議なことに、斬撃を開始する直前と直後に至るまでの間は、真っ直ぐな状態になっている。

 恐らく、柄を微細に動かすことで剣身の揺れを相殺して、剣筋を整えているんだろう。

 しかしそれは、騎士国の騎士にまでになったファミリスが持つ、類まれな技量があってこそ。俺が真似したところで、より剣筋が狂うのは目に見えていた。

 素振りをすること三分ほど、ファミリスは満足した様子になる。

 

「手応えが面白く、使いこなすまでが楽しい剣ではありますが、やはり邪剣の類という印象は拭えませんね」


 『邪剣』という不可思議な評価を疑問に感じ、俺は眉を寄せる。


「魔法の剣だから、邪剣ってこと?」

「いいえ。邪剣とは、剣自身の特性で相手を惑わす剣のことを言います。例えばこの剣だと――」


 ファミリスは俺に向かって剣を振るってきた。俺に当てる気がないこと、俺に剣の動きを見せたいことは、ファミリスの動きの遅さと大きさから分かった。

 俺が冷静にファミリスの剣の軌道を見続けていると、こちらの左側から来ていた刃が大きくたわんだ。そして俺の眼前を通り過ぎて、横へと振り抜かれていった。


「ミリモス王子。いまの斬撃の目的、分かりますか?」

「剣をたわませて軌道を変えることで、防御しようとする人の手首を斬り落とすんでしょ。盾で受け止めようとするなら、縁から潜り込むようにして。剣で受け止めようとするなら、柄尻の下から回り込むようにしてね」

「正解です。このように、普通の剣ではできない変化で相手を翻弄することこそが、邪剣の神髄なのです」


 魔導の剣は見た目が普通の細剣だからこそ、相手側は斬撃の軌道変化は読めない。要するに初見殺しの剣ってわけだな。

 使いこなせば、これはこれでいい武器なんじゃないだろうか。

 そう考えていた俺の顔を、ファミリスが覗き込んできた。


「言っておきますが、ミリモス王子にこの剣は似合いません。というより、私が戦闘法を教えているからには、使わせません」

「えっ、どうして?」

「邪剣を使うようになると剣の技量が歪み、邪剣を使わない戦闘だと勝てなくなります。そして一度歪んだ技量を元に戻そうとすると、多大な労力が必要です。そんな徒労に終わると分かっている無駄な努力をするぐらいなら、真っ当に技量を伸ばした方が、ミリモス王子は強くなりますので」

「そうは言うけどさ。さっき、ファミリスはその『邪剣』をうまく扱っていたようだけど?」

「あれは単なる応用ですよ。私は普通の剣でも、同じようなことができますので」


 自信たっぷりなファミリスの声に、俺はそれが真実だと理解した。


「つまり、順調に訓練を重ねていけばいつかできることを、剣の特性に任せて先取りする意味がないってことだね」

「そうです。日々積み上げた努力こそが、自分の技量を確かなものとするのです」


 ファミリスは俺に剣を返しながら、『良いことを言った』という顔をする。

 その後でファミリスは、こちらを微笑みながら観ていたパルベラに顔を向けた。


「ということで、パルベラ姫様の訓練もビシビシ行きますので、そのお積りで」

「そうは言いながら、わたくしの技量に合わせて訓練強度を調節してくれるファミリスが、私は好きですよ」

「ぐぐっ。結婚してから、パルベラ姫様は強かになられた……」


 二人のやり取りに苦笑いし、俺は魔導の剣を鍛冶師に返した。


「ということで、素材が理由で、この剣は使えなくなったよ」

「うううぅ。新素材で新機軸を打ち立てようとした試みは、失敗だったようですね……」


 肩を落とす魔導剣の班の代表者に、鋼鉄の剣の代表者が大笑いする。


「ぐははははっ。奇をてらうからそうなるんだ。鍛冶師も、努力を積み上げてこそ、良い武器が作れるってもんだ」

「確かに今回のことは、こちら側の失態です。ですが、このバネ鋼の研究は、魔導鎧の発展開発に必要となるもの。笑っているのも今の内です」

「おい、なんだそりゃ。初めて聞くぞ。バネ鋼を魔導鎧にどう組み込むってんだ?」


 二本の剣のどちらに軍配が上がるか決まったからか、二班に分かれていた鍛冶師たちが一つに再集合し、魔導鎧に関して議論を始めていた。

 仕事熱心なのは良いことだけどと肩をすくめつつ、俺は今回の勝者である鋼鉄の剣を手に取った。


「それじゃあ、この剣は貰っていくからね」

「「どうぞー!」」


 おざなりな返事をしてから、鍛冶師たちはすぐに議論に戻る。

 ああなったら、もう放っておくしかない。

 俺は新たな剣を腰に吊るし、パルベラとファミリスを連れて、研究部を後にしたのだった。

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