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百六十二話 二本の剣――鋼鉄の剣

 俺の新しい剣が出来上がったということで、研究部へ見に行くことにした。


「で、なんでパルベラとファミリスもついてくるの?」

「ミリモスくんがどんな剣を持つか、気になります」

「ミリモス王子の剣を折ってしまった負い目がありますので」


 二人には何かしら思惑がありそうなんだけど、まあ俺にとって悪いことにはならないだろう。



 研究部に入ってみると、二班に分かれた研究部の面々が待ちかねた様子で待っていた。

 そして両班の代表者が、一本ずつ剣を手に立っている。


「それが俺の剣?」

「はい。こちらがロッチャ鍛冶師の技術の粋を込めた、鋼鉄の剣です」

「そしてこちらが、我ら研究部の研究成果を詰め込んだ、魔導の剣です」


 ずいっと、俺に差し出してくる剣が二本。

 鋼鉄の剣と紹介された方は、黒い革鞘に入れられ、持ち手に茶色い革が巻かれている。

 魔導の剣の方は、白木の鞘に、金属製の鍔と持ち手がついている。


 まず俺は、鋼鉄の剣を鞘から抜いてみることにした。


「へぇ。ちょっと普通の剣とは違うね」


 黒くて真っ直ぐの剣身は少し厚く、そして鈍鉄色に砥がれた刃が片側だけについている。その刃には、ミミズがのたくった痕に似た刃文。俺の片腕ほどの剣身の長さと両手持ち可能な柄があるので、片手半剣というカテゴリーの剣だと思う。

 前世日本人な俺からすると、片側刃の刃物というと日本刀をイメージしがちだ。しかしこの剣の刃は真っ直ぐだから、日本刀というよりかは、マグロの解体包丁のような風体だ。もしくは身幅の厚さから鉈とかに近い感じもある。


「それなりに重いけど、取り回しはいいね」


 手の中でぐるっと剣を一回し。

 良い重心の取り方をしているようで、バトンのように楽々と回すことができる。


「ミリモス王子。切れ味を試してみなよ」


 鋼鉄剣の班から、太さが俺の胴の半分ほどの、丸太が置かれた。

 俺が『縦に? それとも斜め?』と身振りで尋ねると、ご随意にという返事がきた。

 そういうことならと、剣の基本とも言える斜め斬り――袈裟斬りをしてみることにした。


「ふぅ。よっと!」


 右足を前に踏み出しながら、右斜め上から左下への斬り下ろし。

 鋼鉄剣の刃が丸太に入り、少し抵抗がありながらも、左下へ抜ける。カコーンと丸太が鳴り、上半分が斜めに斬れて吹っ飛んだ。


「へぇ。魔導剣でもないのに、いい切れ味だ」

「突きも、良い感じですぜ」

「そうなの?」


 俺は鋼鉄剣を引き、そして丸太の残りに突き込んでみた。

 ガツッと音を鳴らしながら、剣の刃が丸太を貫く。あっさりと剣身の半ばまで達し、丸太の後ろへと刃が貫通した。


「この威力。並みの鉄鎧なら突き抜けるんじゃない?」

「一回二回なら出来るでしょうがね、刃が潰れるんで止めて欲しいところだ」


 ぐっぐっと剣を丸太から抜いて、刃を検めてみる。

 斬った部分と突いた先の刃は、多少の擦れは見えたけど、潰れている様子はない。丸太を斬って突いて、このダメージで済むなら、上々の強度の刃だな。

 俺が研究部が作り出した鋼鉄の剣の優秀さに感じ入っていると、ファミリスが横に立ってきた。

 顔を見ると、俺が持つ剣に熱い視線を向けている。


「ファミリスも、使ってみる?」

「はい。是非に!」


 食い気味での返答に、俺は苦笑いをしながら、鋼鉄剣を手渡す。

 ファミリスは剣を握ると、軽く二回振った。


「重さもありながら振りやすい、兵士なら誰もが好むであろう良い剣です」


 そんな評価を呟いてから、ファミリスは丸太へ剣を一閃――いや、すかさず二閃目を繰り出した。

 音もなく丸太が三分割されて、床に転がった。


「素の切れ味でこれならば……」


 ファミリスは、俺が最初に斬り落とした丸太の上半分を掴み上げると、軽く上へ放り上げる。

 まるで小枝を投げるような軽い動きを見て、俺はファミリスが神聖術を使っていると理解した。

 そしてファミリスが神聖術を使っている目的が、神聖術を使用した際に、どれだけ鋼鉄の剣の切れ味が増すかの検証だと悟る。


「ふっ!」


 空中に浮かぶ丸太に、刃が二度、三度、四度と瞬く間に斬り入る。

 そして五撃目が上から下へと真っ直ぐ振り下ろされると、丸太は十個の破片に変じて床に散らばった。


「満足のいく上等な剣ですね。刃を両方にして作り直してくれるのならば、私自身の予備に一本、神聖騎士国にいる好事家の知人たちへの土産に十本ほど欲しいぐらいです」


 超大国の片方である騎士国。その国の騎士は、身一つで強大な敵と対峙するため、良い武具を常に欲している。その騎士が剣を欲しいと認めるということは、この世界では最大の賛辞だったりする。

 だからだろう、ファミリスの言葉を耳にした鋼鉄の剣を作った鍛冶師たちは、大喜びしながら抱き合いだした。


「よっしゃ! 流石はロッチャの技術の粋を集めただけはあるぜ!」

「くぅ。芝居以外で、騎士国の騎士様の剣を褒める言葉が聞けるなんてよぉ!」


 感涙にむせび泣く鍛冶師に、俺とファミリスとパルベラは苦笑いするしかない。

 さてさて、鋼鉄の剣が感動の結果に終わったところで、次は魔導の剣の評定に入ろうじゃないか。

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