百六十一話 新たな剣
愛用の剣が折れてしまった。
まあ、騎士国の騎士の本気の一撃を、地力が劣る俺が受けたんだ。折れない方がおかしいってもんだよな。
「でも、ああー。帝国とは仲違い中だから、新しい魔導剣を入手する方法がないんだよなぁ……」
鞘に入れた折れた剣を手に、俺は肩を落としながら歩く。
横に並んで歩いてるファミリスが、励ますように声をかけてくる。
「いい機会です。帝国の剣とは決別しましょう。きっと、その剣こそが、ミリモス王子の神聖術の技術向上を邪魔していたに違いありませんので!」
まるで自分は悪くないと言うような口調だけど、その表情はどこか申し訳なさそうにしているようにも見えた。
そんな顔をしなくても、俺の技術不足だって自覚があるから、ファミリスを責めたりはしないのに。
そうちゃんと伝えようかと悩んで黙っていると、ファミリスが話題を探るような素振りの後で喋り始めた。
「それで、ミリモス王子はいま、何処に向かっているのですか?」
「剣を新調するためと、折れた剣を研究材料にするため、研究部へ向かっているんだよ」
「なるほど。ロッチャの鍛冶師は、大陸の西側で一番優れた鉄鋼技術を持っています。いい剣を作ってくれることでしょう」
「それは俺も期待しているよ。帝国でも一時期、ロッチャの武器を輸入していたっていうしね」
喋り合っている間に、俺とファミリスは研究部に到着した。
さっそく扉を開けて中に入ってみると、いつものことだけど、鍛冶師たちが騒がしくしていた。
「どうだ、動けるか?」
「動けはしますけど、関節の動きがイマイチですよ」
「装甲をつけていない状態でソレじゃあダメだな」
「関節部の構造を、検証し直しましょう」
あれこれ言葉を交わしている人だかりの中央、そこには変なモノがあった。
それは鉄パイプで人型を形作られている。その中に人が入り、人型の手足に当たるパイプを人力で動かしているので、最初期のロボットスーツのように見えなくもない。
「……それ、なに?」
俺が思わず疑問を口にすると、鍛冶師たち全員の顔がこっちに向いた。
「ミリモス王子、いたんですかい!? それとファミリスさんも!?」
「あの! この『カカシ』は遊んでいるんじゃないんです。新型鎧の素体の研究なんです!」
「馬鹿、カカシは仇名だろう。魔導を利用した動く鎧が、正式な開発名だろうが」
わちゃわちゃと言い合いを始める鍛冶師たち。
魔導の鎧を作ろうとしていることは知っていたけど、どこをどうやったらロボットスーツの開発に舵をきることになったんのだろう。単純に変な方向に迷走した結果なんだろうか。
「ちゃんと研究しているのならそれでいいけど――俺が今日ここに顔を出したのは、皆に作って欲しいものがあるからなんだけど」
そう呼びかけると、鍛冶師たちは言い合いを止め、真面目な顔をこちらへ向けててきた。
「はい。なにをお作りになりたいんで?」
「剣が折れちゃったからさ、新しい剣を作ってもらおうとね」
俺が折れた魔導剣を渡すと、鍛冶師は俺とファミリスを交互に見て、勝手に納得した顔になった。
「分かりました。それで作るのは、鋼鉄の剣ですか? それとも、オレらの手で魔導剣を作れってことですか?」
「魔導剣、作れるの?」
純粋に疑問に感じての問いかけだったのだけど、それが鍛冶師たちのプライドを傷つけたようだった。
「既に作れるようになってますよ。じゃなきゃ、帝国でも作っていない、重装甲の魔導鎧なんて開発できやしないじゃないですか」
「魔導の武器や盾も開発しておけって、ミリモス王子本人が言ったことでしょう」
意外な返答に、俺は目を瞬かせる。
「魔導の武器が作れるようになったって報告、見たことないんだけど?」
「作れるっていったって、帝国の武器の猿真似でしかねえんでね。自由に魔法の模様を組み替えたり弄繰り回せるようになるのは、技術的にまだまだ先なんで」
要は、魔導の武器を作ること自体はできても、応用ができる段階じゃない――鍛冶師にとって一から十まで自分で作れないと出来たことにはならないってことなんだろうな。
道具は十全に使えれば仮定なんてどうでもいい俺としては、魔導の武器を作れるようになった段階で、報告を上げて欲しかったんだけどなぁ。
「それで新しい剣だけど――」
普通の鋼鉄の剣と、魔法が発動する魔導剣。
どちらを選ぼうかと考えて、ふと思いついた。
「――両方作ってみてよ。遣い心地が良い方を使うことにするからさ」
俺が思い付きでの提案すると、鍛冶師たちは示し合わせたように二組に分かれた。
「よっしゃ。こっちは鋼鉄の剣を作るぜ。いままで培ってきた技術、全部つぎ込んでやるぜ」
「こっちは魔導の剣ですね。ふふふっ、猿真似以上の出来に仕上げてみせますとも」
やる気を出して、二組に分かれて睨み合う鍛冶師たち。
そして、さっそく剣の制作にそれぞれが乗り出した。出来上がりは十日後を予定しているらしい。
出来上がる日を楽しみにするとして、鍛冶師たちが熱中している隙に、ロボットスーツにこっそりと入り込んで動かしてみた。
すると、筋トレ器具を動かしたときのような、重い手応えがきた。
まだまだ魔導鎧の完成は遠いようだ。
同人イベントに受かったので、原稿作るため更新を三日に一回に減らします。
ご了承くださいませ。






