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百四十九話 砂漠の戦い・開始

 パルベラが賭けの景品の一つになっての、戦いになってしまった。

 これは敗けられないと意気込んだのは、なぜか俺だけじゃなかった。


「ミリモス王子。連中にパルベラ姫様を渡しちゃいけませんよ!」

「そうだ! あの方は、ミリモス王子の側にいてこそ、幸せなんですからね!」


 アンビトース地域の騎乗兵たちが、俺の予想外にパルベラに味方してくれた。

 なぜかと問いかけると、騎乗兵たちは少し恥ずかしそうに理由を話し始める。


「ミリモス王子の厳しい訓練が終わると、パルベラ姫様が労ってくれたんですよ」

「優しい言葉を掛けてくれるあの方を妻とした、ミリモス王子が羨ましいと、何度思ったことか」


 騎乗兵たちの口振りは、まるでアイドルに心酔するファンの様だった。


「パルベラを褒めてくれることは嬉しいけど、横恋慕はしないでくれよ」


 思わず釘を刺すと、あり得ないと首を横に振られてしまった。


「心配しなくていいですよ。パルベラ姫様はミリモス王子にゾッコンだってのは、誰が見ても分かりますから」

「ミリモス王子に惚れ抜いているパルベラ姫様が、オレらは好きなんだってことです」


 よく分からない心理だけど、とりあえず、俺とパルベラの仲を認めてくれてはいるのだと理解しておこう。

 そして騎乗兵たちは、パルベラのため、この戦いに勝つ気で溢れているとも分かった。


「それじゃあ、訓練通りにやって、勝ちを取りにいくぞ」

「「もちろんです!」」


 パルベラのことで固く一致団結した俺たちは、砂漠の戦士たちとの戦いに突入したのだった。




 砂漠の戦士たちとの戦いの決着は、指揮官である者が打ち取られたり、カミューホーホーから落ちたときとなった。

 自軍の指揮官は、もちろん俺。

 相手側の指揮官は、俺にパルベラを貰うと言い放った、あの最年長の砂漠の戦士だ。

 お互いに百メートルほど離れた位置に布陣し、神聖国の名の下で審判を買って出たファミリスからの号令があってから開始となるのだけど、俺は相手側の布陣を見て首を傾げた。

 こちらは騎馬を用いる兵法の定石通りの密集陣形なのだけど、相手側は横に広く散開している。

 予想できる戦法としては、一塊であるこちらを包み込んでの包囲殲滅だろうか。

 でも今回の戦いは、お互いに兵力はカミューホーホーに乗る五十騎ずつ。そんな少人数を薄く広く布陣したところで、こちらの集団機動を生かした突破力の前には、薄紙で投石を受け止めるように役に立たないはずだんだけどなぁ。

 そして、広く展開しているからこそ、砂漠の戦士たちの一人一人の姿が見分けられるため、最年長の砂漠の戦士らしき人物の位置も丸わかりだった。


「単なる考えなしなのか、それとも罠なのか……」


 相手の力量を推し量れないままに、両陣営の中間地点にいるファミリスから号令が発せられた。


「両者、戦闘を開始しなさい!」


 号令を受けて、両陣営が動き出す。

 こちらは、俺を中心に据え、先頭に盾と馬上槍を持たせた騎乗兵を配置した、いわゆる突破陣形で進んでいく。広く展開している中から見つけた、最年長の砂漠の戦士らしき人物がいる方向へと。

 一方で相手側は、広く布陣した状態を保ったまま各々の武器を掲げて走り寄ってくる、いわゆる散開突撃だった。


「連中、訓練を受ける前のオレらの様ですね」


 俺の隣にいる兵が軽口を叩いてきた。

 確かに一見すると、数にモノを言わせることしか知らない野盗の動きのように、砂漠の戦士たちの行動は映る。

 しかし、砂漠の魔物と戦って糧を得ていると言われている彼らが、そう容易い相手だろうかと疑問を覚えた。


「得体のしれない相手は、ファミリスと同等の強敵だって思うようにした方が良い」

「確かに。いたずらに相手を侮るより、強敵と考えて戦った方が被害が少なく済みます」


 俺の一言で、アンビトースの騎乗兵たちの気が抜けていた顔つきに締まりが戻る。これで、慢心からの失敗はなくなった。

 ここで、相手との距離が縮まり、残りは二十メートルほどになる。

 さあ、気を引き締めて、一度目の突撃だ。

 そう俺が気を引き締めた瞬間、砂漠の戦士たちの声が風に乗って聞こえてきた。


「――――――戯曲。ダンツァ・サヴィア」

「――――――踊り手。ヴァィ・ナノゥ」

「――――――火の群れ。フオコ・マンドラ」

「! 気を付けろ、魔法が来る!」


 俺の警告と同時に、砂漠の戦士たちが魔法を放ってきた。

 地面の砂を巻き上げての目つぶしに、スーパーボールのように地面を跳ねてくる砂の球や、群れた蜂のような小さな火が、こちらにやって来る。

 魔法としては、どれも大したことのない威力の類のものばかり。

 恐らくは、こちらの足を鈍らせるための攻撃だろう。

 こちらの行き足が鈍れば、その分だけ突進の威力が減じて、敵の薄く散開した兵力であっても受け止める余地が生まれるのだから。


「密集、防御陣形! 魔法の群れを一気に突破し、そのまま相手にぶつかる!」 


 俺の号令に合わせ、先頭が盾を前面に出して槍を引き戻し、両端に展開する騎乗兵も盾を掲げ、俺を含めたその他の兵士はカミューホーホーにしがみつくようにして鞍に体を伏せる。

 防御を固め終わって数秒後、展開した盾に魔法が当たる音が聞こえてきた。同時に、こちらのカミューホーホーが狼狽える泣き声を発する。


「キュケーキュケー!」

「よしよし、大丈夫だからな」


 俺が自分が乗るカミューホーホーに声をかけながら落ち着かせたように、周りの兵士たちも乗騎を操って混乱させないようにしている。

 そうして魔法の群れをやり過ごしたところで、敵兵はもう目の前に迫っていた。こちらが足を止めずに魔法を突破するとは思っていなかったのか、次の動きが鈍いように見える。


「ミリモス王子! 指揮官、目の前!」


 こちらの兵士の一人が発した大声に、俺は顔を上げる。

 確かに、俺たちが進む先に、最年長の砂漠の戦士らしき人物が見えた。

 いや、ターバンの布地と衣服は、確かに彼の物に違いない。


「打ち取れ! 最悪、カミューホーホーから落とすだけでもいい!」


 俺の声を受け、先頭の騎乗兵が槍を翻して前後逆にすると、石突を前へと突き出す。

 狙い違わず、進行上に位置していた敵兵は、カミューホーホーの上から吹っ飛んで、地面に落下した。


「これで、オレらの勝ち――」


 槍を突き出した格好のままで喜ぶ兵士の声を耳にしながら、俺は地面に落ちた敵兵を改めて観察した。

 衣服と髭面で咄嗟には分からなかったけど、落ちたときにターバンが外れて顔が良く見えるようになると、その顔は髭があっても若々しい。

 間近で言葉を交わしたからわかる。こいつは最年長の砂漠の戦士じゃない!

 そう理解した瞬間に、俺は慌てて周囲に新たな号令を出した。


「カミューホーホーの速度を緩めず、駆け抜けろ! 俺たちが落としたのは『影武者』だ!」


 立ち止まろうとしていた自軍の兵士たちは、咄嗟に自分の乗るカミューホーホーの速度を上げ直し、一斉にこの場から離脱する。

 走り去りながら、俺が周囲を確認する。

 敵兵たちは『負けた』といった苦笑いの表情で、こちらを包囲するように近寄ってくる最中だった。

 恐らく、俺たちが影武者を倒して勝ったと安堵した後、何気ない顔で近づいてきて、俺を不意打ちで打ち取るつもりだったんだろうな。

 その証拠に、こちらが逃げを打ち始めた瞬間に、砂漠の戦士の表情は舌打ちしそうなほどに苦々しいものに変わっていた。

 そして、危うく敵の計略にハマりかけたこちらの兵士たちも、同じように苦々しい表情をしている。


「広く布陣したのは、こちらに偽物を狙わせるためとは」

「危うく、こんな狡すっからい手段で負けることに」


 士気が下がりかけているのを見て、俺はあえて明るい声を出すことにした。


「そんな顔をしなくていいよ。こっちは無傷のまま、相手を一人打ち取ったうえに、向こうの戦法を一つ潰したんだ。これは見事な成果なんだから」

「ミリモス王子の言う通り、状況的にこちらが一手先んじたことは確かですね」

「勝てると思った瞬間に、危うく負けそうになったことで、変に負けた気になっていたな」


 兵士たちの気持ちが盛り返したようで、なによりだ。

 さてさて、見るに砂漠の戦士たちも本腰を入れ始めた様子だし、ここからが本格的な砂漠の戦いになりそうだな。

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