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百四十六話 戦う人たち

 指揮を執ることになったからには、アンビトース地域の兵士の実力を知らなければいけない。

 敵としてちゃんと戦ったことはあっても、スペルビアードのの戦いでの一度きりで、ちゃんと把握できているとは限らないしね。


「で、砂漠の民との戦争に参戦する兵士を、フヴェツクに連れてきてもらったわけだけど……」


 中央都から外れた砂漠にきた俺の目の前に並んでいるのは、カミューホーホーを横に連れた兵士が五十人ほど。


「これが全軍ってこと?」

「はい。指揮官を含めて五十人。この人数で戦ってもらいます」


 フヴェツクの返答に、俺は渋面になった。


「いやいや、少なすぎじゃない?」

「いえ。相手側の砂漠の民も、同じ人数を出すと決まっていますので」

「相手が五十人出してくるんなら、こっちは百人だせば、楽に勝てるのが兵法ってものなんだけど?」

「相手よりも大人数で勝ったところで、誇れるものではないでしょう?」


 いやまあ、同数や小勢で勝った方が、こちらの実力を相手側に分からせる効果は強いだろう。

 だけど、戦争だよ。

 人の生き死にがかかっているのに、なんで正々堂々(スポーツマンシップ)を掲げなければいけないのだろうか。

 そう思ったとき、俺は考え違いをしているんじゃないかと考えが至った。


「もしかして、砂漠の民の戦争っていうのは、模擬戦のようなものだったりする?」

「似てはいますが違います。なるべく相手を殺さないようにはするのですが、実物の武器を使いますから、手足を斬り落としたり殺したところで罰があったりはしませんし」


 差し詰め、過激な模擬戦ってぐらいに考えればいいようだ。

 そういうことなら、お互いに同数で戦闘することが規定になっていてもおかしくはない。

 理由に納得はしたのだけど、なんで、こんな危ない仕来りがあるんだか。


「模擬武器を使う模擬戦にすればいいのに」

「砂漠は、生きるための資源が限られています。なので、ミリモス王子が言う『過激な模擬戦』で他の部族の人数が減れせれば、その分だけ自分の部族が生き伸びる可能性が上がるからだと、成立理由を小耳に挟んだことがありますね」

「殺伐としているなぁ」


 まあいい。

 とりあえず、俺を含めて五十人で戦うということは分かった。


「それで、五十人全員がカミューホーホーに乗る騎乗兵なのは、これも仕様なの?」

「カミューホーホーの騎乗兵は、脚が入りこみそうなほどに細かい砂の場所でも、素早く展開できる最強の兵種ですので!」

「砂漠最強なのはわかるけど、随伴の歩兵は要らないと?」

「アンビトース地域から南――通商路付近にある土地は、多少の岩石地帯はあれど、ほぼほぼ粉のような砂の大地。伏兵を警戒する必要はないのです!」


 本当にそうなのかと疑問に思うのだけど、砂漠で暮らすフヴェツクが言うのだから、それが砂漠の民の共通の考え方なんだろう。

 疑問は棚上げして、とりあえず騎乗兵たちの技量や戦い方を見てみることにしよう。


「じゃあ、兵士たちに日頃にやる訓練をして貰おうかな」

「分かりました。者ども! ミリモス王子が、お前らの技量を確かめたいと仰せだ! アンビトースの兵が精強である様子を、たっぷりと披露するがいい!」

「「「はっ!」」」


 フヴェツクの発破で気合が入った様子で、騎乗兵たちは相棒のカミューホーホーの背に乗ると、二手に分かれて模擬戦を始めた。

 一先ず俺は、彼らの腕前を観戦することにしたのだった。




 訓練が終わり、騎乗兵たちはやり切ったといった表情で、再び整列する。

 一方、観戦していた俺は、なるほどと頷いていた。


「騎乗兵が砂漠で最強の兵種っていうことが理解できたよ」


 砂の大地を行くカミューホーホーは、砂の中には石が混ざっていようと関係なく、訓練中は延々と走り続けていた。

 仮に兵士たちが乗っているのが馬だったなら、石を踏んで蹄が欠けたり、砂に足を取られて転んだり、疲労から途中でバテたりしていたはずだ。

 そして歩兵相手への優位性は、馬とほぼ同程度なのだから、最強の兵種だという評価も頷ける。

 カミューホーホーという間抜けな名前の割に、侮りがたい存在だ。

 でも、横一列に並んで相手へ駆け寄り、手の武器をひと当てしてから通り過ぎ、反転してまた突撃。それを繰り返す戦法はいただけない。


「戦術面の訓練が必要かもね」


 俺がつい呟いたところ、横でフヴェツクが困惑と悲痛を混ぜたような複雑な表情を浮かべた。


「特に精強で中核だった者たちもいましたが、スペルビアードと共に果ててしまったので」

「あー。たしかに彼らは、連携も取れていたし強かったなぁ……」


 そして彼らを殺したのは、俺。

 つまり、目の前に並んでいるアンビトース地域の騎乗兵たちが見劣りして見えた理由も、俺が原因――因果応報というわけだ。


「砂漠の民と戦争するまで、何日ある?」

「指揮官が決まったと本日中に向こうへ知らせるので、返事がやってくるまでをかんがえると――十日は確実にあるかと」

「よしっ。じゃあその十日で、元通り以上に鍛えてあげよう。俺だけじゃ手腕に不安があるから、ファミリスにも手伝ってもらおうかな」

「鍛えてくださることは有り難いですが、移動前には丸一日は休憩を取らせて欲しいのですが」

「付け焼刃以上まで鍛えられたら、それ以上は訓練はしないよ」

「鍛え方が、そこまで至らなかった場合は?」

「この戦争、勝たなきゃいけないんでしょ?」

「……休みが欲しければ、粉骨砕身する気で訓練しろということですか」


 フヴェツクは笑顔を浮かべようとして失敗したように、頬を引きつらせている。

 そう心配しなくても、騎乗兵たちの下地は出来ているんだ。

 ここからの訓練は戦術に適した行動を覚えること――前世の体育でやった団体行動の訓練に毛が生えたようなものだ。

 十日もあれば、形にすることなんて造作もないはずだ。

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