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百四十一話 決断の影響

 パルベラとの結婚を機として、フンセロイアの提案を俺が蹴ったことで、帝国と微妙な関係になってしまった。

 なってしまったからには受け入れる他ないし、そもそも俺としては大して騒ぎ立てるようなことではないと思っているのだけど、俺の周りはそうではなかったらしい。


「センパイ。帝国の申し出を断っちゃって、本当によかったんですか?」


 フンセロイアが去った翌日、ホネスがそう問いかけてきた。

 パルベラの仲立ちで、ホネスとの間柄に新たに『恋人』が追加されたわけだけど、お互いに書類作業中は仕事に没頭しているためか、普段の雰囲気のままでいられている。

 そんなことはともかく、まるで帝国の提案を受けるべきと言いたげな質問に、俺は不思議に思った。


「ホネスとしては、俺に帝国貴族の人を妻にして欲しかったってこと?」

「そんなわけないです!」


 間髪入れない大きな声での言い返しに、俺は思わず仰け反った。

 ホネスは大声を出したことに対して恥ずかしそうに顔を背けながら、質問理由を話してくれた。


「事務作業の人たちが、帝国に歯向かうなんてって、怯えているんです。だから、ちゃんと先輩に考えがあるってことを、聞かせてあげなきゃいけないんです」


 なにをそんな怖がることが――と考えて、そういえばロッチャ地域の運営に関係する人の多くは、ロッチャが国だった頃の役人をそのまま登用し続けているという事実を思い出す。

 そして旧ロッチャ国は帝国相手の借金を苦にして、ノネッテ国が持つ『同格証明書』を欲して攻め入ってきた。

 つまり帝国には苦渋を舐めさせ続けられた背景があるため、役人たちが帝国相手に苦手意識があることは当然だった。

 役人たちの背景を失念していたことを恥じながら、帝国が今後取りえる行動を、俺はホネスに語ることにした。


「フンセロイアが語ったように、帝国はバイブーン国とラバンラ国を占領するだろうね。そうしてノネッテ国を帝国領土で囲うことで、ロッチャ地域からの輸出を抑え込み、経済的に疲弊させようとするんじゃないかな」


 そういう政策じゃなきゃ、わざわざノネッテ国を囲う必要はないんだしね。

 この俺の予想に、ホネスは不機嫌そうに眉を寄せてた。


「それって大変じゃないですか」

「いいや。実は、そんなに大変じゃない」

「はへ?」


 俺の返答が予想外だったようで、ホネスが『ぽかーん』としている。

 その間抜け面に、可愛らしさと可笑しさを感じて、俺は小笑いを隠しながら説明を続けることにした。


「戦争で領地がさらに広がったことで、内需が拡大しているんだよ。ロッチャ地域の武具や工具は優秀だから、輸出相手じゃなかったフェロコニー国やプルニャ国――フェロニャ地域にも売れる公算は高い。それに、ウチの最大の輸出先は帝国だよ。帝国が不買運動をしない限りは、経済的に抑え込まれる心配はないと考えているよ」


 ホネスは俺の説明に納得した様子の後で、疑問を告げてきた。


「帝国が自国民に、ロッチャ地域の物を買わないようにと、主導はしないってことですか?」

「可能性としては低いと思うよ。ロッチャ地域から帝国に輸出している主な物品は、製鉄用の鉄鉱石、製鉄の炉に使う白砂、硝子とその細工品、鉄の工具だ。鉄鉱石と白砂は、帝国が必須に欲しがっているものだから、規制はかけ辛い。となると細工品と工具ってことになるけど、先の二つに比べたら取引額は微々たるものだし、民が欲しがっているものでもあるから、規制すると民の反感を買いかねないんじゃないかな」


 日々上がってくる報告書を読んで把握した内容を語ると、同じ作業をしているホネスも知識はあったのか納得が早かった。


「ハータウト国の木材を買い入れて作る木工品もありますけど、あれはもっと輸出量が少ないです」

「要するに、帝国はこちらを囲い込むので精一杯。それ以上のことはやりようがないってことだね」

「……本当にそうですか?」


 疑うホネスに、俺はより深く帝国の行動を考えていく。


「そうだなぁ。他の手としてあり得るものは、関税を上げてロッチャ地域からの輸入品を値上げさせることだけど――」


 多少の値上げで済むなら、帝国の民への売れ行きが落ち込むことはないはずだ。

 仮にドカンと値上げする必要に迫れたら、こちらは輸出品が売れなくて困ることになるかもしれないけど、帝国の民たちも買えなくて困る事態になる。

 しかし、こちらは拡大した領土であるフェロニャ地域相手の販路が期待できるため、痛手と言えるほど困る事態にはならないんじゃないかな。


「――それに、鉄鉱石と白砂は帝国が国として買っている分だからね。いまより安く売れと交渉してくることはあっても、値上げする意味がないと思うね」


 関税を課したところで、帝国の懐に入る分と同じ額が出ることになるだろうしね。

 そんな予想を語ると、ホネスは安心した様子になった。


「役人の人たちに、センパイの考えを伝えておきますね」


 そう言って書類作業に戻ろうとしたホネスは、思い出したという身動きをした。


「そうそう。センパイは、研究部に顔を出して、今後の帝国との関係を説明をした方がいいですよ」

「なんでいきなり、研究部がでてくるんだ?」


 連中は武具や工具の製造もしているけど、主体は魔法技術の研究で、経済に深く関わっていないはずだけど。

 疑問に思う俺に対し、ホネスが苦笑いを浮かべてきた。


「帝国との関係がこじれたことで、帝国との戦争が近いかもしれないって、研究に熱が入っている様子だと、役人の人が教えてくれました」

「うあー。研究に張りきってくれることは有り難いけど、帝国を目の敵にするような発言は止めてほしいなぁ」


 フンセロイアがこちらの最新事情を把握していた件を考えると、帝国のスパイのような人が身近にいることは確定だ。

 そのスパイの耳に、ロッチャ地域の研究部――俺の直属の部下が帝国を敵視しているとでも情報が入ったら、厄介なことになりかねない。


「忠告ありがとう、ホネス。早速、行ってくるとするよ」

「はい、センパイ。ああでも、やらないといけない書類はまだまだ沢山あるので、お早いお帰りを待ってます」


 ホネスからの戻る気が失せるような言葉を背に受け、俺は研究部へと向かうことにした。

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