表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/497

百三十四話 二度目の結婚式

 フェロニャ地域の領主も決まったところで、俺とパルベラが結婚した祝いを、盛大に執り行うことになった。


「結婚式は騎士国で挙げちゃったし、ノネッテ国で大げさに行わなくても……」


 という俺の真っ当な主張は――


「ソレリーナの結婚をノネッテ国で祝えなかったのに、ミリモスも祝わせてくれないなんて、酷いわ!」


 ――と今世の母のモギレナ妃に非難され、撤回するしかなかった。


「ミリモスの可愛いお嫁さんのために、お母さん張りきっちゃうわ!」


 そう宣言し、モギレナ妃が陣頭指揮を取って、二日間の吶喊準備の後に宴が開催される運びとなった。

 結婚式を開催するのは、王城にある大広間。

 優に二百人は入りそうな部屋の大きさは、前世で修学旅行での宿の夕飯に、他の客と隔離するために押し込められた、宴会場を思い起こさせる。

 そんな部屋の一番奥にある、一段高く作られた舞台の上に、俺とファミリスが正装した状態で座らせられていた。

 俺たちの目の前には、一つの机と上に乗せられた沢山の豪華な料理がある。

 そして広間――料理と酒が置かれた等間隔に並べられた机がある――に集まった人たちが、思い思いのタイミングで、こちらに祝いの言葉をかけにきてくれる。


「ソレリーナ様の次が、まさかミリモス様とは。やるものですな!」

「ミリモス王子。美しいお嫁さんを貰えて、よかったですね!」


 王族相手にしては気安い言葉だけど、これがノネッテ国では当たり前だ。それに、俺も畏まられるよりかは気持ち楽だから、目くじらを立てることはないしね。

 というか、呼ばれた人たちは村々の代表とかなのだけど、既に赤ら顔の酔っ払いなんだよね。


「ははは、ありがとう。宴を楽しんでいってね」


 俺は愛想笑いで祝いの言葉を言ってきた人を宴会場へ送り返すと、隣でニコニコと笑っているパルベラに耳打ちする。


「騎士国の結婚式と違って、ノネッテ国の結婚式は騒がしくて、ごめんね」


 俺の謝罪に、パルベラは首を横に振る。


「いえいえ。実を言いますと、私、こちらの方が嬉しいんです。心から祝っていただいているって気持ちになれますから」

「そう言ってくれるとありがたいけどさ。変な質問をしてくる人には、ガツンと言い返しちゃっていいからね」

「変な、ですか?」

「さっきあったじゃないか。ベッドは一緒なんですかとか、子供は何時ですかとか、不躾な質問がさ」


 結婚式の新郎新婦にかけるには、不適切な言葉だろうに。この世界では、倫理観が育ってなくてセクハラという言葉がないけどさ。

 俺が少し怒っていると、パルベラは笑みを強くしていた。


「男女が共になったのならば、感心が二人の子に向かうのは当然の流れです。私だって、体のことがなければ、ミリモスくんと……」


 最後に言い淀んだ部分は『子供を作りたい』という言葉が入るんだろうなと予測して、気になる言葉があったことに気付いた。


「体のことって?」


 俺が心配しながら問いかけると、パルベラは気にし過ぎと示す身振りを返してきた。


「私の身体に異常がある、という意味ではありませんよ。神聖騎士国では、女性は肉体の成長が終わるまで、子供を作ることを戒めているんです。あまりに幼い体で身ごもると、母体が危ないとされているんです」


 パルベラが言ったような、若すぎる妊娠は母体に負担とかという話は、前世の学校の性教育で習ったような気がする。うろ覚えだけど。

 なるほど。ファミリスが子作りはしないようにと言ったには、それなりの理由があったってことかな。


「騎士国の男性の方には、そういう仕来りはないの?」

「そういえば、ありませんね。むしろ、年上の女性を娶ってでもと、推奨しているぐらいだったような?」


 表現は悪いけど、男性の場合は出すだけだから、機能自体は精通したら十全に発揮出来るもんな。

 って、なんて話題を話し合っているんだ、俺たちは。

 酔客の戯言に引っ張られ過ぎたと反省し、話題を机の上にある料理に変えることにした。


「パルベラには、こんな豆料理の数々は口に合わないんじゃない?」


 なにせ騎士国では、小麦の栽培が盛んな様子だった。しかも、国策として食糧生産が盛んで、飢饉とは無縁の土地でもある。

 そんな場所で育ったのなら、豆なんて家畜の食べ物だ、なんて考えている可能性もある。

 そう危惧しながらの質問は、パルベラに笑われてしまった。


「ふふっ。心配しなくても、こう見えて私、豆料理は食べ慣れているんですよ」


 証明するように、パルベラは豆料理を掬って器に入れると、嬉々として食べ始めた。

 素朴な豆料理を食べるパルベラは、なんだか大国の姫というイメージには合わないな。

 なんてと思っていると、パルベラがこちらの勘違いを正すように喋り始めた。


「神聖騎士国――特に騎士王家では、食べ物に貴賤はないとされているんです。だから、他の国では家畜の食べ物とされているものも、平気で食卓に並びます。そんな中で育ったため、豆に悪い印象はありません」

「そうなんだ。でも、騎士国で出された料理に、違和感はなかったような?」

「色々な食材を違和感なく食べてもらうために、味と見た目に工夫がされているんです。もしかしたら、ミリモスくんが食べていた料理の中にも、聞けば『げっ』と思うものが入っていたかもしれませんよ?」

「怖いこと言わないでよ。次に騎士国に言ったときや、パルベラが手料理を作ってくれたときに警戒しちゃうじゃないか」

「心配なくても大丈夫ですよ。食べられるものしか入れませんから」


 食べられるものって、虫とかコケとかも含まれるのだろうか。

 どちらもノネッテ国で受けた兵士教育のサバイバル訓練のお陰で、俺は食べること自体は克服済みだけど、あまり好んで食べたいものじゃないのも確かなんだよなぁ。

 育った土地が違うから価値観の相違はあるとは確信していたけど、これはちゃんとすり合わせをしておかないと、結婚生活が危ういのではないのだろうか。

 食に関しては、俺がパルベラに合わせる方が、食生活が豊かになって良いんだろうけどね。

 結婚後の課題の一つが見えたところで、モギレナ妃が俺たちの前に現れた。


「ミリモスとパルベラ姫。楽しんでいるかしら?」


 宴の主催者であるモギレナ妃に、パルベラはニッコリと笑う。


「はい、とても。盛大かつ賑やかに祝ってくださって、とても幸せです」

「ふふっ。そんなこと言って、パルベラ姫はミリモスが隣にいれば、牢屋でも楽しいんじゃないかしら?」

「ちょっと、母上!」 


 それは失礼だと咎めようとしたのだけど、パルベラは気にした様子もなくモギレナ妃へ頷き返していた。


「その通りです。ミリモスくんの側にいられるだけで、私は幸せですから」


 当たり前のことを告げるような口調に、モギレナ妃の方が驚かされたようだった。


「まぁ、なんて良い子なのかしら! ミリモス。こんなに貴方を愛してくれる子、絶対に離しちゃダメよ!」

「パルベラが、俺には勿体ないほどの伴侶だって自覚はあるから、その手の心配しないで良いよ」

「まあまあ! ミリモスも、パルベラ姫にゾッコンなのね。ふふふっ、お似合いの夫婦ってことね」


 なんだかいつになく上機嫌だなと思って見てみると、モギレナ妃の頬が化粧越しにも赤いのがわかった。

 どうやら酔っているらしい。

 俺の結婚式だからって、羽目を外しているのだろうかと伺っていると、モギレナ妃の後ろから俺の姉の双子――ガンテとカリノが現れた。


「お母さまはね、寂しいのよ。一番可愛がっていたミリモスが、お嫁さんを貰っちゃったから」

「お母さまはね、寂しいのよ。子供の多くが、ノネッテ国から離れていっちゃうからね」

「あなたたち! なに変なことを言っているの!」

「「わー! お母さまが怒ったー!」」


 逃げる双子姉、追いかけるモギレナ妃。

 無礼講な感じの席だからか、三人の様子を、参列者たちは微笑ましそうに見ている。

 一方で俺は、実の母と姉の蛮行に、赤面を隠せないでいた。


「本当に、騒がしくてごめんね」

「いえいえ。楽しいです」


 パルベラの言葉が本心からと分かり、それだけですくわれた心地になったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版1巻 令和元年10月10日から発売してます! 書籍版2巻 令和二年5月10日に発売予定?
61kXe6%2BEeDL._SX336_BO1,204,203,200_.jp 20191010-milimos-cover-obi-none.jpg
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 感心が二人の子に 関心
[気になる点] >そんな部屋の一番奥にある、一段高く作られた舞台の上に、俺とファミリスが正装した状態で座らせられていた。 ファミリスではなくパルベラでは?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ