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百三十三話 結婚報告

 ロッチャ地域へ帰る道中に、ノネッテ本国に寄ることにした。

 行きは騎士国に着くことを優先して通り過ぎちゃったけど、旧フェロコニー国と旧プルニャ国の領土を合わせたフェロニャ地域のことについて、チョレックス王と話さないといけなかったんだ。

 ついでに、俺がパルベラと結婚したことも伝えないといけない。

 結婚報告をした後の騒動を考えると、少しだけ憂鬱な気分になる。絶対に、あれこれとイジられるに決まっているんだから。


 ノネッテ本国の王城に入り、さっそくチョレックス王との面会となった。

 謁見の間に集まったのは、俺、パルベラ、ファミリス、チョレックス王、アヴコロ公爵、フッテーロ、サルカジモ、あと衛兵が数人。

 領主となってから知ったけど、執政者は時間が貴重だ。

 チョレックス王の執務を遅らせないように、俺はフェロコニー国とプルニャ国との連戦からここまでの出来事を端的に伝えた。


「――ということで、僕とパルベラは夫婦となりました」


 報告を締めくくると、ノネッテ国側の面々が頭痛を堪える姿になった。

 その後で一番最初に口を開いたのは、チョレックス王だ。


「戦争の結果といい結婚の報告といい。ミリモスからの知らせは、どうしてこう、事後承諾を迫るものばかりなのか」

「申し訳ありません。緊急事態の連続で、事前に話を通すのは難しくて」


 今回の一連のことは、俺も対処するだけで手いっぱいで、チョレックス王への報告を後回しにしがちだった。

 前世のようにメールやSNSで楽に連絡ができれば、チョレックス王を苦悩させずに済んだかもしれないけど、そんな技術がなくて連絡事情が悪い世界なんだから知らせるのが遅れても仕方がないよね。

 なんて内心で弁明していると、パルベラが俺の横に歩み寄り、チョレックス王に一礼する。


「改めまして、ミリモスくんの妻となりましたパルベラです。よろしくお願いいたしますね、お義父とう様」

「お義父様!?」


 パルベラに義父と呼ばれ、チョレックス王が絶句している。

 大国の次女姫の言葉は、小国の王だからこそ、受ける衝撃が強かったんだろう。

 絶句するチョレックス王に代わるように、アヴコロ公爵が喋りだす。


「ミリモスと貴女が結婚したということは、ノネッテ国は騎士国の傘下に入るということでしょうか?」


 当然の疑問だが、パルベラは首を横に振る。


「その必要はありません。だってこの結婚は政略結婚ではなく、恋愛結婚ですから」

「……えーっと、つまり?」

「個人間の色恋の結果に、家や国の思惑を乗せるのは『正しいこと』ではない、ということです」


 パルベラの意見に、俺も同意だ。

 変に他者の考えを介在させると関係が壊れやすいことは、テレビドラマや友達付き合いからわかることだ。

 それにしても、いまのパルベラの言い方だと、政略結婚の場合なら家族や国家間の思惑を乗せてもいい、と言っているも同然のような。

 その点に疑問を抱いていると、絶句から立ち直ったチョレックス王が、疲れ果てたような口調で呟いた。


「ソレリーナに続き、ミリモスも恋愛結婚とはな……」


 なんか、教育を間違えたと言外に言われた気がする。

 いや、チョレックス王が苦笑いしているから、いまのは被害妄想かも。

 どう受け止めた者かと俺が悩んでいると、場の空気を読めていない発言が入った。サルカジモだ。


「ミリモスの結婚のことなど、どうでもいいはず。いま話すべきは、属国となったハータウト国の処遇と、新しき領地を誰に治めさせるかでは?」


 空気が読めていないのは横に置くとして、サルカジモにしては真っ当な意見だった。

 軍のトップに相応しくなるようにと、元帥就任から今までの期間、アレクテムにしごかれたのかもしれない。


「ではまず、ハータウト国のことから話すとしよう」


 チョレックス王は宣言した後で、俺がフェロニャ地域の統治に精を出したり騎士国に言っている間に、ハータウト国のクェルチャ四世と話し合った内容を教えてくれた。


「ハータウト国はノネッテ国の属国となったが、この王城とは立地的に距離がある。そこで、隣地の領主であるミリモスと協調して、国を治めていきたいという考えだそうだ」


 先ほど、この世界の連絡事情が悪いと回想したこともあり、その考えには納得がいく。

 属国は、基本的に主上国の思惑の通りに動かねばならない。

 しかし距離が離れたノネッテの王城までお伺いを立てると、余計な時間がかかってしまう。

 そこで、領土近くに住むノネッテ国の王子である俺を、チョレックス王の名代と見立て、俺の考えをノネッテ国の要望とする。これで距離による、伝達の遅延は極力抑えられる。

 って感じの寸法だろう。

 でも、この方策には二つ問題点がある。


「ハータウト国の意見を受け入れたら、対外的に僕の意見がノネッテ本国の考えと受け取られますし、ハータウト国は事実上ノネッテ国ではなくロッチャ地域の属国になってしいますよ?」


 問題点を指摘すると、チョレックス王は分かっていると頷いた。


「だが、ミリモスが提言した欠点を帳消しにするほどに、利点が多いのも事実なのだ」

「利点、ですか?」


 俺がパッとは思いつかないでいると、アヴコロ公爵が苦笑いしながら教えてくれた。


「ハータウト国を実質的に手助けするのは、領地の生産力からいってロッチャ地域が主体となる。であれば、そこの領主であるミリモスが舵取りをした方が、話が楽に進むはずでしょう。それにミリモスは、アンビトースとフェロニャの統治作業で、他領地のことに詳しい。多角的にハータウト国とノネッテ国が共に発展する方法を思いつく可能性が高いと予想しているのです」


 もっともらしい長々とした説明だけど、要するに『面倒だからミリモスに押し付けよう』ってことだ。

 俺だって面倒事は嫌なので拒否したいところなのだけど、戦争に勝ってハータウト国を属国にしまったのは俺自身。その尻拭いが必要と考えれば、苦労を背負いこむことは、仕方がない。


「分かりました。ではハータウト国のことは、僕のやりたいようにやらせてもらいます」

「……任せはするが、無茶なことはせぬように」


 チョレックス王からの注文がついたところで、ハータウト国に着いての話は終わった。

 さて次は、フェロニャ地域を誰が治めるかという話だ。

 候補者は、チョレックス王の子供で、領地を貰っていない人。

 つまり、外交に強いフッテーロ、双子姉妹のガンテとカリノ、元帥として働くサルカジモの四名。

 以前、アンビトース地域の統治を誰にするかの話し合いの際、ガンテとカリノは領地運営に後ろ向きだった。

 その事実がだからだろうか。領主を決める話し合いの場に、二人の姿がないのは。

 二人が候補にすら入っていないとすると、候補者はフッテーロかサルカジモの二人に絞られる。


 ではさて、どちらが適任だろうか。

 フェロニャ地域は、ハータウト国が属国となってはいるけど、四方を他国で囲まれた飛び地。そこを治めようとするなら、周囲とのバランスを考えながら統治しないといけない。

 そう考えると、外交に強いフッテーロが適任と言える。

 しかし、他国に囲まれている土地だからこそ、軍事力は必要だ。戦う力がないと、相手の要求を突っぱねるのが大変だからね。

 そうなると、元帥として教育を受けているはずのサルカジモも、候補から完全に外すことは躊躇われる。

 チョレックス王の決断はいかに。


「彼の領地を治めるのは、フッテーロに任せる」


 妥当な決断だなと納得していると、チョレックス王の発言が続いた。


「ただし、統治業務はミリモスと共同で行うように」


 追加事項について俺が質問を投げるより先に、サルカジモがチョレックス王に抗議を始めた。


「なぜですか! なぜ、俺ではないんです!」


 その語気の強さから、サルカジモ自身は自分が領主に選ばれると思い込んでいたとうかがえた。

 抗議を受け、チョレックス王はサルカジモを諭すように言う。


「どちらを領主に選ぶかに際し、決断に悩むほどに、フッテーロとサルカジモに差はさほどなかった」


 その発言は、俺的には少々衝撃だった。

 でも、元帥となったサルカジモの働きぶりを、俺は知らないのに対し、チョレックス王は知っている。その差が、そのまま評価の差に繋がっているのだろうな。

 そしてフッテーロと差がなかったと知って、サルカジモはさらに抗議を強めた。


「では、俺に任せてくれても!」

「待て。フッテーロに軍配が上がった理由が、ただ一点だけあるのだ」

「それは、なんですか!?」

「先ほど言ったであろう。彼の地の統治は『ミリモスと共同』であたるようにと。そこで逆に問う。サルカジモよ。二心なく、ミリモスと協調できるか?」


 チョレックス王の質問に、サルカジモは嘘でも即答するべきだった。

 しかし言い淀んでしまった結果、俺と共同作業することを嫌がっていると証明してしまった。

 それを答えとして、チョレックス王は告げる。


「だからこそ、サルカジモには任せられぬ。理解したな?」

「……はい。わかりました」


 悔しそうに顔を歪めながら、サルカジモはチョレックス王に一礼。そして顔を上げる中で、一瞬だけ俺に睨むような視線を向けてきた。

 それがどういう気持ちから放たれたものかはわからないけど、そういうところが領主になれなかった理由だとちゃんと理解して欲しいところだった。

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― 新着の感想 ―
自己中な家族が居ると、ツラいよね。。。 簡単に縁切れないし、当たり前のように迷惑かけてくるし。
[一言] めっちゃシンプルに、国とりをした本人を疎んでいる相手をとった国任せても不安でしかない
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