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百二十六話 騎士国の王都

 騎士国の王都に到着した。

 ここまで続いた田園風景とは違い、火山灰を使用する古代コンクリート製に見える大小様々な建築物が立ち並んでいる、大都市らしい場所だった。

 王城へと続く太く大きい一本道の途上には、ドラゴンが入って通れそうなほどに巨大な門がある。

 まるでローマの凱旋門だなと見ていると、パルベラ姫が門について説明してくれた。


「あれは神聖騎士国がまだ小さかった頃に作られた外壁、その門だったそうなんです。それからしばらくして、王都が拡張されて新たな外壁が必要となったことで、今までの外壁が取り壊されることになりました。その際に、当時の騎士王様が『国の歩みを忘れぬように』と願い、あの門だけは残されたそうなのです」

「じゃあ、あの門はかなり昔のものなんだね」

「はい。詳しい年月は分かっていませんが、数百年の単位で存在している門だと言われていますよ」


 騎士国の歴史も、それだけの年月あるということだな。

 ノネッテ国は反乱者が立てた国だけあり、百年ぐらいしか歴史がない。そして前世の知識で考えても、数百年もの歴史を保つ国がどれほどあっただろうか。

 それほどの長い年月、国として形を保つどころか、二大国と言われるほどの勢力を保持したままとはね。

 やはり騎士国は、化け物国家だな。


「っと、門に見とれている場合じゃなかったね」

「そうですよ、ミリモス王子。騎士王様がお待ちなのですから、ちゃきちゃきと進んでください」


 ファミリスに急かされて、俺たちは道を進んでいく。

 その道中、出くわした人たちがこちらを見て、なぜか不思議そうにしている。


「なんだか注目されているみたいだけど?」

「この私――神聖騎士国の騎士と馬を並べているのです。民に注目されるのは当たり前でしょう」

「それにミリモスくんの外見は、明らかに神聖騎士国の者の格好ではありませんからね」


 言われて自分の格好を見下ろしてみれば、パッと目に着くのは旅装の内にある、旅路の用心のために装備していた帝国製の革鎧と魔導剣。

 騎士国の騎士や兵が金属鎧な点を考えると、確かに浮いている格好だろうな。


「でも注目されるというなら、俺のような一見珍しいだけの存在より、自国のお姫様なパルベラ姫の方じゃない?」

「ミリモス王子の言い分は正しいですが、パルベラ姫様のお顔を知る民はごく少数ですよ」

「華々しい実績のある兄弟姉妹に比べて、わたくしは初陣で良い戦果は得られませんでしたから」


 寂しそうに言うパルベラ姫。

 騎士国の事情はよく分からないけど、要するにパルベラ姫は民に人気がないってことのようだ。


「なににせよ。顔を覚えられていないっていうのは、良い点だと思うけどね」

「そうでしょうか?」

「どこに行っても顔を覚えられていると、買い食いするのも大変だからね」

「ふふふっ。ミリモスくんは、ロッチャ地域の中央都で人気者ですものね」

「そう言っているパルベラ姫も、あっちじゃ顔を覚えられているじゃないか」

「そう言われてみると、そうでした。ふふふっ。生まれ故郷より、他の土地で知られているだなんて、なんだか面白いですね」


 屈託なく笑い始めたパルベラ姫の様子に、ファミリスは小さな身振りで俺に『よくやった』と告げてきた。

 今のは純粋に事実を列挙しただけで、パルベラ姫を慰めるつもりじゃなかったんだけど――まあ、喜んでもらえたんだから、それでいいか。

 その後も、俺たちは他愛無い会話をしながら、馬を騎士国の王城へと向けて進めていったのだった。 



 騎士国の王城に到着した。

 目の前にそびえる白亜の城は、失礼な感想だけど、王都の発展ぶりに比べると、ちんまりとした印象だった。いやまあ、ノネッテ国やロッチャ地域にある城に比べると、十分に大きいのだけどね。

 そう考えたところで、道の途上にあった、凱旋門に似たあの門のことを思い出した。


「この城も、建国当時から使われているものだったりする?」


 俺の質問に答えてくれたのは、ファミリスだった。


「当時そのままではありませんね。増改築を繰り返して、今の姿になっていますので」

「じゃあ、大きさも変わっているんだよね?」

「多少は変わっているでしょうが、大した違いはないはずです」

「改築しているのに、大きくしないのはなぜ?」

「他国の城とは違い、神聖騎士国の城は騎士王様と騎士王家の住まいという面と、宗教拠点という意図が強いのです。国を運営するための設備は、騎士王様が関わるもの以外は、全て外に出されています」


 話を聞いて俺が想像したのは、前世の日本にあった皇居と国会議事堂だった。


「この城は騎士王家の住居だから、大きくし過ぎると使い勝手が悪いってこと?」

「その認識で良いでしょう。加えて、無為に華美に飾り立てるのは国是に反しますし、城の壁や掘などは本当は必要ですらありませんから」


 無用な飾り立ては『正しくない』と判断しているという意味は理解できた。

 けど、城の壁と掘りが要らないとは、どういうことだろうか。

 そう考えかけて、ここが騎士国だということを思い返すと、理由はすぐにわかった。


「神聖術を使える兵と騎士がいれば、戦争の際に壁も堀も要らないよね」

「その通り。騎士や兵士こそが、神聖騎士国の国防の主にして要の防御装置なのです」

「敵の軍勢が襲い掛かってきたとき、城の中で籠城するより、打って出て神聖術で跳ね除けた方が手早いだろうしね」


 城や砦を必要としないなんて、本当に出鱈目な軍事力だよな。

 俺の今の実力とロッチャ地域の兵力じゃ、どうやったら勝てるかの筋道すら思い浮かばないぐらいだ。

 なんて会話をしている間に、城の門前に到着。

 数人の守護に立っていた衛兵たちが一瞬だけ気色ばんだが、ファミリスの姿を見て警戒を解く。


「騎士ファミリス・テレスタジレッド殿。王城になんのご用がありでしょうか。そして、そちらのお二方は?」


 最後の一言を聞いた俺は、彼の衛兵がファミリスの怒りの尾を踏んだと悟る。

 事実、ファミリスは烈火のごとくに怒りだした。


「貴様! 王家と関係のない民ならいざ知らず、衛兵という身分でありながら、自国の次女姫様たるパルベラ姫様のお顔を知らぬというのか!」


 轟っと音がでるような怒声に、衛兵が震えあがる。


「し、失礼しました!」

「謝罪する方向が違っている!」

「も、申し訳ございません! パルベラ姫様、自分の不用意な発言、平にご容赦くださいませ!」


 顔面蒼白にする衛兵に、パルベラ姫は気の毒そうな顔を向ける。


「誰もが見違いはするものです。私のことは気にせずに、これからも職務を全うしてくださいね」

「良かったな、衛兵! パルベラ姫様の広いお心に感謝するように!」

「はッ! ありがとうございます!」


 三人が独自の空間を作り出している横で、別の衛兵がおずおずと俺に質問してきた。


「そのぉ。失礼ですが、貴方様はどちらのお方か、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


 怒られた仲間を教訓にした、腰の低い態度だ。

 俺は気の毒だなと、パルベラ姫と同じような感想を抱きつつ、王子口調での自己紹介と用向きを伝えることにした。


「僕の名前は、ミリモス・ノネッテ。ノネッテ国の王子にして、ロッチャ地域の領主です。騎士王テレトゥトス・エレジアマニャ・ムドウ『殿』に呼ばれて、こうして参上した次第です」


 あえて他国の王族という立場を出し、騎士王への敬称に『殿』を使ってみた。

 一聞すると不敬に取られかねない言い方をすることで、衛兵の態度の変化を呼び起こそうという試みだ。

 さて、小国の王子が身の程を弁えろ、って怒ってくるだろうか。それとも、ようこそ他国の王子様、と歓迎するだろうか。

 見守っていると、衛兵は「ああ~」と納得したような声を上げてきた。


「貴方が例の。お噂はかねがね。騎士王様からも、貴方がお越しになられたら、すぐに通すようにと言われておりますよ」


 なにやら、とてもフレンドリーな態度だった。

 俺が噂になっているという点は気になったけど、質問するより先に、奥にどうぞと案内されてしまう。

 仕方がない。噂のことは後で知ればいいだろうしね。


「パルベラ姫、ファミリス。先に行くよ?」

「待ってください、ミリモスくん。お仕事、頑張ってくださいね」

「ええい。小言はこれまでだ。ミリモス王子を案内せねばならないからな!」


 パルベラ姫とファミリスに言われて、怒られていた衛兵は敬礼姿の直立不動で見送っている。

 少し先に進んでから、俺がチラリと後ろを見て確認すると、その衛兵は仲間に肩を叩かれ『不運だったな』と言った感じで慰められているようだった。

 そこで俺は視線を前に戻し、いよいよ騎士王と対面するのだと事実を改めて認識するとともに、下腹に力を入れて気合を入れなおしたのだった。

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あれ?短剣がどうのこうのっっていうのはもう良いの?
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