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百二十五話 騎士国へ

 二大国の一つである騎士国の騎士王からのお呼びとあれば、何を置いても急がなければいけない。

 とはいえ、占領地の統治作業の真っ最中なので、なにもかもを投げ出していくわけにもいかない。


「領地運営の方法は、俺が今までに整えた通りに。反乱や動乱が起きた場合、新兵教育中のドゥルバ将軍に指示を仰いでくれ」

「混乱を見て、他国が攻めてはきませんか?」

「そのときも、ドゥルバ将軍に任せる。もっとも、今回俺が向かう先は騎士国であり、呼びつけてきたのは騎士王なんだ。その留守を襲うとなれば、騎士国に敵対するも同様。耐えれば騎士国からの援軍が見込めるはずだ」


 俺が離れても問題が起らないよう、あれこれ指示を出していると、ファミリスから物言いが入った。


「ミリモス王子。騎士王様への不敬に聞こえる物言いは控えて欲しい」

「指示出しで慌てているんだよ。多少のことは目を瞑ってくれ」


 そもそも、その騎士王からの突然の招集に、パルベラ姫が乗り気で即日に移動しようと言ってこなければ、二日ぐらいは出発を先延ばしにして引き継ぎするつもりだったのに。

 なんて愚痴っぽく考えてはみたものの、二大国の騎士国の王を待たせて悪い心証を与えるのも拙いと分かってもいた。

 だからこそ、こうやって急ぎで引継ぎを行っているわけだしね。


 さて、粗方の指示を終えたところで、パルベラ姫にせっつかれながら、騎士国に向かって移動を開始することになった。

 ちなみに道中は、人馬一体の神聖術を用いての強行軍。俺はロッチャ地域から連れてきた体格の良い馬車馬に乗り、パルベラ姫とファミリスは黒馬ネロテオラに同乗する形だ。


「ミリモス王子が人馬一体の神聖術を使えるようになってくれていて、助かりました」


 ファミリスの発言に、俺は苦笑いを返す。


「巨馬のネロテオラでも、人間三人を背に乗せるのは大変そうだしね」

「たかだか三人分の体重など、ネロテオラには苦ではありませんよ。そうではなく、鞍に食料や天幕を乗せる場所がなくなってしまうのです」

「ああ、積載場所の問題があるのか」


 ネロテオラの鞍を見れば、なるほど、前に旅装のパルベラ姫、真ん中に全身甲冑姿のファミリス、後ろに荷物が乗っている。

 確かに鞍に三人を乗せようとすれば、荷物の部分と入れ替えるしかないだろうな。


「でも、食料も天幕もなしだと、野営が大変じゃない?」

「そこは我慢です」

「いや、我慢って。食事は必要だし、天幕がなければ就寝の質が落ちるでしょ」

「そんな苦行をパルベラ姫に強いなくてよかったからこそ、ミリモス王子が人馬一体の神聖術を使えてよかったと、そう言っているではありませんか」


 うわっ。本気で食料も天幕もなしの強行軍が、選択肢に入っているよ。

 騎士王を待たせるわけにはいかないと考えるにしても、正直言って見習いたくない精神性だ。

 食料もテントもなしで旅をするぐらいなら、俺は国の王だろうが待ってもらう方を選ぶな。


「ファミリスもミリモスくんも喋り合うのはいいですけど、脚を止める必要はないのではないでしょうか」


 今回の強行軍で一番乗り気のパルベラ姫から注意が入ったところで、俺とファミリスは人馬一体の神聖術を用いて、街道を馬で駆け始めたのだった。



 フェロニャ地域から神聖騎士国家ムドウ・ベニオルナタルへの旅は、広い大陸の真ん中付近から北西の果てへの行程となっている。

 俺はその道の途上でノネッテ国の近くを通るから、チョレックス王に事情を説明していこうと思っていた。けれど帝国に察知されて旅程を邪魔されると面倒というファミリスの意見に従い、通り過ぎることを選ぶしかなかった。

 ちなみに、この旅程について、ファミリスは五日で完遂する気だったらしい。

 人馬一体の神聖術を用いれば、多少の山や谷や川は障害にならずに移動が出来るとはいえ、この距離を数日で踏破することは不可能だろう。だって、普通に馬で移動するなら最低五十日はかかる道程だから当たり前だ。


「ネロテオラが全力を出せば、五日もかからずに踏破可能ですが」


 自慢げに言うファミリスに、俺は呆れてしまう。


「騎士国が交配を重ねた末に作り上げた馬と、本来は馬車を引く体力しか自慢がないロッチャ地域の馬を比べないでよ」

「そも、なぜそんな馬を選んだのです。もっと足の速い馬はいたでしょう?」

「抜けても問題が出ない匹数がいる種類かつ、ずっと走り続けても潰れない体力がある馬を選ぶと、自然と馬車馬に行きついたんだ」


 事実、朝から晩まで走り続けているのに、ロッチャの馬車馬は疲れはあっても潰れてしまうような様子はない。これがサラブレッドのような競走馬だったら、半日と経たずに泡を吹いて倒れている旅程にもかかわらずだ。

 この一点を見ても、俺の考えは正しいと証明できる。

 なのに足の速い馬を選べだなんて、ファミリスはネロテオラが強靭すぎることで、馬への認識が齟齬を起こしているとしか思えない。


「ロッチャの馬がネロテオラに及ばないことは事実だけど、無茶な進行ができないお陰で宿のある町や村を縫うように進めると思えば、悪いばかりじゃないでしょ」

「うむむっ。確かに、パルベラ姫様をベッドの上で安らかな休憩を行えるのは、利点と言えなくはないでしょうが」

「そもそも、ネロテオラの脚力と体力にモノを言わせて、騎乗者の体力が持つ限界まで道を進むなんて真似は無理が過ぎるでしょう」

「神聖騎士国の騎士ならば、不眠不休で一刻も早く任務地に赴くことは当然の行いです。それに同乗者がいる際には、そのものの体力が尽きる前に休憩に入るのですから、良識的とも言えます」


 脳筋が過ぎる物言いに、俺が呆れる一方で、パルベラ姫はベッドの上に座りながら笑みを浮かべていた。


「騎士国では、騎士の馬に同乗できる人物は神聖術が使えることが前提となってますので、多少の無茶は押し通せるんです」


 それにしたって、もっと上手いやり方があるだろうと思わずにはいられない。

 騎士国の方針と言われればそれまでだから、これ以上のことを言う気はないけどね。


「それで、フェロニャ地域から十日ぐらい経ったけど、この村から騎士国の王都まではどれぐらいあるのかな。ずーっと田園風景ばかりで、土地勘が薄い俺は分からないんだけど」


 騎士国の領土に入ってすぐは、帝国との戦場が近いためか、町を囲む壁や柵があったり兵士や騎士がうろついていたりと物々しかった。

 けれど、その場所からさらに領地の内側に入ると、すぐに長閑な田園風景が広がっていた。

 ファミリスが言うには、騎士国が考える民にとって必要なものは『食料』『知識』『正しさ』なのだそうだ。

 そしてその三つの中で一番大切なものは、食事だという。

 食べ物がなければ、考える力が湧かず、知識は生まれない。食べ物がないと、生存本能から誰かから奪おうと考えてしまい、正しさは容易く失われてしまう。だからこそ、何においても食料が大事なのだそうだ。

 その考えに従って、騎士国の領土では食料の大量生産が国策の大黒柱として立っているらしい。

 そんな国策のお陰で、領地の殆どが広大な田畑と化してしまっていて、どこに行っても同じような風景にしか見えないわけだった。

 でもこの感想は外様の俺だからであって、生まれついてから騎士国で暮らすファミリスには違いが判るようだ。


「そうですね。この村の用水路の様式からして、領土の西側に入ったといったところでしょう」

「……用水路で土地がわかるの?」

「もちろんです。水路の作り方の新旧を見れば、この土地が何時神聖騎士国に編入されたかが見て取れるのですよ」

「領地の広がりかたから単純に考えると、騎士国の王都が近いと様式が古くて、帝国に近い土地ほど様式が新しいってこと?」

「ご明察です」


 そんな風な土地の見方もあるんだなとためになったところで、明日の旅路に向けて就寝する時間となった。

 俺は二人と別れて、違う部屋へと入り、ゆっくりじっくりと睡眠をとることにしたのだった。


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