百二十二話 面倒な統治作業
フェロコニー国とプルニャ国が戦争で負けたことで、それらの土地は全てノネッテ国のものとなった。
そして俺は征服者として、この二つの土地の統治活動を行わないといけないくなった。
「それぞれ別々に運営することは面倒だし、一つにまとめてしまおう」
幸い、二つの土地の植生は似通っているし、プルニャの王城はフェロコニー国に近い場所にある。
ここを新たな中央都として使い、フェロコニー国の役人を引き入れると、支配地の隅々に指示を送ることは楽だった。
無理に二つの組織を一つにするからには、色々と軋轢や弊害が出てきそうだけど、作業を楽に済ませられることを一番に進めていく。
戦争が集結したことで、ザードゥ砦に逃げていたエイキン王太子は、ハータウト国の王城に戻ったと報告がきている。
「俺の戦勝と、ノネッテ国とハータウト国との友好の取り決めのため、俺に会いにここに来るか」
俺は領主であって国王じゃないので、会う必要はないと思うんだけどな。
でもまあ、ハータウト国からの戦争参加要請を飲んだのは俺だから、お礼を言いに来るのは当然なのかもしれない。
そしてハータウト国が安定しつつあるということで、ドゥルバ将軍がこの新たな中央都にやってきた。
「ミリモス王子。二国の連続制覇、おめでとうございます」
「目出度くない。各国王家の尻拭いをしなきゃいけない身になって欲しい」
「はっはっはー。そのような苦労も、上に立つものの務めですぞ」
気楽に言ってくれるなと、少し腹が立った。
その腹いせじゃないけど、ドゥルバ将軍とロッチャの兵たちには、新たな任務を与えることにしよう。
「命令だよ。旧フェロコニー国と旧プルニャ国の土地――面倒だから二つ合わせて『フェロニャ地域』にしよう――この地域に散った傭兵たちを、捕まえてきて欲しい」
「生死問わずに、ですかな?」
「治安の悪化に歯止めをかけるためだから、投降してきたのなら捕まえて、反抗したら倒していいよ」
「殺してしまう方が楽なのでは?」
「生憎、フェロニャ地域の土地と治安を守る兵力が足りない。捕まえた傭兵を兵士に仕立て直さないと、この土地を離れるに離れられなくなる」
「了解。ではさっそく、行って参ります」
立ち去るドゥルバ将軍を見送って、俺は統治作業の続きを行う。
煩雑な作業の連続に、ついつい独り言が口をついて出てきてしまう。
「やっぱり旧フェロコニー国には帝国への借金がある。ロッチャ地域で減らした分以上がきちゃったよ。旧プルニャ国の借金はフェロコニー国にだけ。これは国と国同士の借金だから、国を一緒になったいまは帳消しでいいでしょ。ああー、ノネッテ本国のチョレックス王に現状報告の手紙も書かないと……」
こうしてあれやこれやと作業をしていると、ロッチャ地域に残したホネスの手助けが欲しくなってくる。
「いまさらだけど、ホネスの助力が支えになっていたんだな。帰ったら、いままでとこれからの苦労に対する褒美をあげなきゃな」
手早く作業を続けていき、旧フェロコニー国と旧プルニャ国の役人たちが上げてくる資料の洪水が一先ず止まったところで、一息つくことにした。
その頃合いを図ったかのように、パルベラ姫とファミリスが執務室に現れた。
「ミリモスくんのお腹が空いているころだと思って、軽食を持ってきました」
「パルベラ姫様のお手製です。心して、有難く食べるように」
差し出してきたのは、軽食というには大きな、顔ぐらいあるパン。その間には、茹でた野菜や焼いた肉が挟まれていた。
原始的なサンドイッチとも言える食べ物を、俺は遠慮なく受け取ることにした。
「ははー。有り難く、頂戴いたしますー」
「もう、ミリモスくんったら。ファミリスの言葉を鵜吞みにしなくていいのに」
俺が冗談でやっていると分かっているからだろう、パルベラ姫はくすくすと面白そうに笑っている。
俺たちの間に和やかな雰囲気が流れるが、その空気を壊すようにファミリスがピッチャーを執務机の上に強く置いた。
「水です、ミリモス王子」
「あ、ああ。ありがとう」
ファミリスの目が、さっさとサンドイッチを食えと言っているように感じられて、俺はいそいそと巨大なパンを口にした。
もぐもぐと噛んでいくと、燕麦の味の中に、炒った木の実の香ばしさ。それらが茹でた野菜と塩をかけて焼いた肉と合わさり、何とも食が進む。
もう一口食べると、肉汁を煮詰めたらしきソースが現れ、より一層味が豊かになった。
「むぐむぐ。美味しい。ありがとう、パルベラ姫」
「はい。ミリモスくんのお口に合ったようで、安心しました」
感想の後は、ひたすらにもぐもぐと食べていく。
俺のその様子を、パルベラ姫はなにが面白いのかニコニコと笑顔で見ている。
一方ファミリスは、俺の手にあるサンドイッチを羨ましそうに見ている。きっとパルベラ姫のお手製というところが、ファミリスの嫉妬のポイントになっているんだろうな。
けど、空腹だし、折角の手料理だし、分けてあげる気はさらさらない。
そうして、最後の一欠けらまで食べ終え、お腹が満足したところで、伝令が部屋にやってきた。
「報告が――」
執務室内の状況を見て、伝令の顔に『出直してきましょうか?』という表情が浮かぶ。
「いや、いいよ。報告ってなに?」
「ハータウト国の新国王にエイキン王太子がなり、名を改めてクェルチャ四世となりました」
「父親の名前を継いだってことか。でもこうして報告に来たってことは、それだけじゃないよね?」
「即位してすぐに、ミリモス王子との会談を持つと、こちらに向かって移動を開始したとのことです」
「会談の申し込みはあったけど、即位してすぐなんて、急だな」
戦争で痛手を負ったハータウト国の現状を回復してから、会談を開いたほうが良いと思うんだけどなぁ。
何かしらの思惑があるのだろうか。
「報告ありがとう。他に気になる話があったりする?」
「ロッチャの兵の中には、ロッチャ地域とフェロニャ地域を隔てるハータウト国は邪魔だという意見が出ています」
「このままだとフェロニャ地域は飛び地になっちゃうから、統治が難しくなるといえば、その通りではあるんだよなぁ」
この問題点をハータウト国は危惧して、早く俺と会談を持ちたいと考えたのかもしれない。
とにもかくにも、エイキン王太子ことクェルチャ四世がくるのを待たないといけないな。