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閑話 遊撃隊にて

 オレはノネッテ国の兵士のセンティス。

 メンダシウム国の兵士たちが来るっていうんで砦にやってきて、厳戒態勢に入ったんだが、我らがチビの元帥様が馬鹿なことを言い出した。


「この面々で、いまからメンダシウム国の陣地に夜襲を仕掛けるから」


 頭がおかしいんじゃないかと。

 メンダシウム国の兵は弱いが、こちらより人数が何倍もあるんだ。

 その人数差を埋めるために、この砦があるっていうのに。

 けど、オレらが反発すると分かっていたらしくてな。懇切丁寧に、作戦の説明をしてくれた。

 夕暮れに紛れて山の尾根を進み、夜の闇に乗って谷を下り、夜明け前にメンダシウム国の陣地に火をかける。火をつけたらさっさと逃げて、山の中に隠れるんだと。

 聞いてみれば、なんだ。攻め入るって言うより、嫌がらせに行くだけじゃねえか。

 けど不思議なことが一つあった。狙う荷物についてだ。

 普通は連中の食料を狙うんだが、今回は違うらしい。


「連中は金属製の杖を隠し持っているんだけど。今回の作戦の目的は、それを壊すことだ。そのついでに食料を焼く暇があるなら、やってくれていいけどね」

「どうして、その杖を壊したいんで?」

「帝国の魔法の武器の可能性が高いからだよ」


 その一言を聞いて。なるほど、それは確かに危険を冒してでも破壊する必要があるわなと、夜襲に参加する兵の誰もが納得した。

 それほどに、帝国の武器は厄介だと誰もが分かっていた。

 賢いと評判のチビの元帥様がこれほど警戒するんだから、よっぽど危ない代物なんだろうな。

 ま、オレらは兵士だ。やれって命令されたらやってみせねばな。



 ってことで、遊撃隊の兵士たちは一人でいくつも豆油を入れた火炎瓶を装備して、砦の横にある山の坂を上り、尾根を伝ってメンダシウム国の方向へ。

 山の上は日が落ちるのが遅いんで、谷は真っ暗だが、尾根を走るには問題がねえ。

 問題があるとしたら、チビの元帥様がこの部隊に参加しているってことだ。


「砦で留守番してりゃあいいのによ」

「アレクテムにも言われたよ。けど、鳥の目が必要になるからね」


 背負った背嚢を、こっちに見せてくる。

 どうやらあの中に、遠くの景色を映せるっていう、木の鳥と水晶が入っているらしい。


「そんなもん、オレらの実力の前には、必要ないんですがねえ」

「まあまあ。今回の作戦は失敗するわけにはいかないんだ。少しでも可能性を高める必要があるんだよ」

「そういって、アレクテムのジジイを説得したわけか。悪ガキめ」


 オレが悪態をつくと、苦笑いを返してきやがった。

 本当にこのチビの元帥様はよくわからん。普通は怒ってくるところだろうによ。

 わからんと言えば、熟練兵でも汗をかく道行きだってのに、涼しい顔で汗一つない。


「おい、ミモ坊。練兵場で訓練しているときは汗だくだってのに、どうしていまは汗をかいてやがらないんだ?」

「あー、訓練中は重りをつけて運動しているようなものだから、かな」

「重りだぁ?」


 そんなものをつけていたような覚えはないが、このチビ元帥は魔法が上手だ。魔法の才能がないオレには分からない方法で、重しをつけていたのかもしれねえな。


「そこまで訓練に身を入れるあたり、本当に王子っぽくねえよな」

「元帥っぽくないって言われるのはわかるけど、れっきとした本物の王子なんだけど?」

「兵士の軽口に、ごく普通に返している王子がいるかよ」

「そういうものかな?」


 困り顔で首を傾げる姿も、王子っぽくねえんだよなあ。

 ま、こうして気安いからこそ、年若い王子が元帥なんて頂点に据えられているってのに、兵士どもが不満なく支持しているんだけどな。

 その証拠に、俺たちの会話に他の兵士たちも混ざってくる。


「そうですよ。遊撃部隊に参加する王子なんて、ミリモス様ぐらいなものですよ」

「ねえ王子。この作戦終わったら、宴を開いてくださいよ。もちろんお代は王子持ちで」

「えー。俺、年齢を理由に酒飲めないのに、皆に奢らないといけないわけー」

「元帥って結構貰っているんでしょ。なら奢ってくださいよー」


 兵士とミモ坊はお互いに冗談を言いながら、けらけらと笑い合う。

 本当に王子っぽくない。

 だが、こういう人が王になってくれたら、兵士たちの待遇はもっと良くなるんじゃねえかなと思わせてくれる。

 けどミモ坊が元帥になれているのは、次の王には絶対に成れないからって噂もあるしなぁ。

 と、そんなことを考えているうちに、稜線の終わりが見えてきた。

 すっかり日は落ちて、月明かりがある山の頂上付近はいいか、山を半分も下りたら先が見えないほど真っ暗な状況だ。


「よーし、メンダシウム国の陣地に近くなったから、ここからは静かにいくよ」

「「はーい」」


 ミモ坊の号令に、兵士たちが気の抜けた返事を返す。

 散歩に来たんじゃねえんだぞ。

 そう苦情を言いたくなるが、声を荒げるわけにはいかない。

 崖のような坂を、真っ暗な中、夜目を凝らして進まなきゃいけないし、ここで敵に見つかったら奇襲が失敗になってしまうからだ。

 ともあれ、意外とスイスイと進んでいくミモ坊を追いかけるようにして、オレら兵士たちも山を下っていくことにしたのだった。

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