百十七話 プルニャ国へ侵攻
フェロコニー国の王城を攻め落とし、フェロコニー王族にこの国を俺に明け渡すと宣言させたところで、フェロコニー国という国家は事実上滅んだ。
本来なら、ここで治安が安定するまで統治作業をしなきゃいけないのだけど、プルニャ国という敵がまだ残っている。
そのため、フェロコニーの民に速やかな心の安定を与えなければいけなかった。
一番楽なのは、パルベラ姫に騎士国の名前で、俺が正当な行為の結果で統治者となったと布告してもらうこと。
多分、俺が頼めばパルベラ姫は快くやってくれるだろうけど、これ以上の貸しを作るとファミリスの反応が怖い気がする。
『パルベラ姫様や神聖騎士国の名前を何度も良いように使おうだなんて、ミリモス王子はナニ様ですか?』
なんて騎士国の騎士にヘソを曲げられた日には、俺の首と胴体は泣き別れする羽目になりかねない。
やはりここは、真っ当な方法で統治するしかないな。
「ドゥルバ将軍。この元王都の治安を兵力で維持して欲しい。ついては、どれぐらいの戦力が必要かな?」
俺の質問に、ドゥルバ将軍は困った顔になる。
「そうですな。千人は確実に欲しいかと」
「うぐっ。千人か……」
四千人いるうちの千人。つまり四分の一の戦力を、削らないといけないということで、兵力の低下は大きいと言わざるを得ない。
「外周部の住民たちは、俺たちが消火作業と傭兵の捕縛をやったことに感謝してくれている。その分は統治が楽になると考えたら、預ける兵士を五百人に負からないかな?」
「やれと言われば、その人数でやりましょうが、恐らく流血が避けられなくなりますが良いですか?」
「それは困る。変に悪感情を持たれると、統治がし辛くなる」
プルニャ国を攻める兵力の保持を取るか、これから先のフェロコニー地域の平穏を取るか。
俺は熟考の末に決めた。
「わかった。千人、ドゥルバ将軍に預けることにするよ。削られた兵力を充当する先がないわけじゃないしね」
「ザードゥ砦からプルニャ国へ逆侵攻する兵士たちですな?」
「時期的に、もうザードゥ砦のロッチャ兵たちが侵攻を始めて、プルニャ国の領地に入っても変じゃないんだよ」
その侵攻する兵士にプルニャ国の戦力が割り当てられるから、これからプルニャ国に入る俺たちの方に振り分ける戦力は乏しくなるはずなのだ。
だから、ここで千人の兵士をドゥルバ将軍に預けても、問題は少ないと判断したわけだった。
「ドゥルバ将軍。ここの治安維持を本当にお願いね。反旗を翻されたら、俺たちの撤退路が無くなっちゃうからね」
「お任せを。ロッチャが国から地域と変わった際に、各地で治安維持に努めて磨いた手腕、発揮してご覧に入れましょう」
頼もしい返事を貰ったところで、俺は三千人の兵士たちと共にプルニャ国を目指して進軍を開始したのだった。
プルニャ国に入ったが、景色はあまりフェロコニー地域とは変わらずの森の景色だ。
ときどき、兵士たちの鎧や武器が鳴る音に驚いた野生動物が、目の前を横切ったりもする。
目端の利いた兵士がその野生動物を仕留め、食事に肉が足されることもある。
そんな行軍を五日ほど行っていると、森の一画が切り払われた場所に建てられた関所らしきものがあると、偵察兵からの知らせに来た。
「その関所の様子は、どんな感じだった?」
「人数が十人ほどと少なかったので、フェロコニー国を破った我々を警戒してというよりかは、行商人を取り締まる通常業務のような感じだったかと」
「情報が来てないのか、それともそう見せかけた罠なのか……」
罠の可能性も考えて、偵察兵や俺などの足の速い者だけを集めて、関所を攻めてみることにした。もし罠なら、逃げて本隊まで戻るつもりだ。
慎重に関所に近づき、身を隠せる場所がなくなる寸前から、一気に関所にいる人物に向かって、全員で駆け寄る。
「なッ、誰――」
誰何の声が聞こえたけど、構わずにロープで捕縛して、猿ぐつわを咬ませる。
あっという間に制圧しきったが、伏兵が現れたり、関所自体が爆発するような兆候はない。
どうやら罠はなく、本当にただの関所だったようだ。
少し拍子抜けしつつ、俺は捕まえた人たちを尋問することにした。
もちろん、パルベラ姫やファミリスに惨い場面を見せるわけにはいかないので、優しい尋問に終始する。
ロッチャ兵の三千人という威圧感も手伝ってくれて、捕縛した人たちに口を割らせるのは容易だった。
彼らから得られた情報は、かなり少ない。
「やっぱり、フェロコニー国が負けたことを知らなかった。それどころか、ザードゥ砦のことも知らないなんて」
本当に関所の番人なのかと疑いたくなるが、彼らから聞きだした地理から作成した地図はとても有用だ。
「ザードゥ砦からより、フェロコニーの王都から入った俺たちの方が、プルニャの王都に近いのか」
フェロコニー国とプルニャ国は仲の良い同盟国だった。そのことが、両国の王都の近さという形で現れたに違いない。
そんな国の歴史はさておいて、距離があるからには、ザードゥ砦から進出したロッチャ兵と共同してプルニャ国を攻め落とすという案は難しいような気がしてきた。
「下手したら、手持ちの三千人でプルニャの王城を落とさないといけないわけか……」
どうしたものかなと頭を悩ませるが、どうにかなるし、どうにかするしかないと気持ちを切り替えることにしたのだった。